約 2,471,713 件
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/606.html
俺は、高坂京介。これといって特筆すべき事がないぐらいに平凡な男子高校生だと思っている。 しかし、今置かれているこの状況は果たして、平凡な男子高校生のイベントだと言えるだろうか。 今いる場所はとある旅館。 風情のある和室で、今置かれている状況ではなく、それこそ麻奈実との旅行でここに来ていたら今頃のんびりと寛いでいるだろうだろうと思わせてくれるような落ち着く場所だ。 だが、残念ながら今はそういう状況では無かった。 目の前に居る、肌が白く、温和そうな雰囲気を放ちながらも、静かに俺を強く睨みつけている壮年の男性は、黒猫の父親である。 黒猫というのは別に本当の猫の事を指している訳ではなく、人間の女性である人間を指している。 そしてその女性と俺は付き合っていて、そして、振られるという形で別れたのがつい最近の話。 状況をお分かり頂けただろうか。 そう、俺は一度付き合い、そして別れた元彼女の父親とこうして対面で座っている。 正直に言おう。気まずいなんてものじゃなく、しかも数時間前まではこんな状況になるなんて夢にも思ってなく、心の準備もクソも無かった。 その隣に居る女性、黒猫の母親は、冷たい雰囲気を放っていて、初対面、俺を嫌っているんじゃないかと思ったが、何のことはない。 確かに容姿こそは冷たい美女という風な感じではあったが、実際の所、人見知りしやすい体質なのだと知れる。 実際話してみると、容姿に反して温かい声で俺を迎え入れてくれた。 実際、俺をここに泊まらす事に反対してくれていたらしい。 ……その説得を振りきってまで、俺と一緒に話したいと主張したのが目の前の父親。 見た目こそ温和そうだが、その中身がそうだと限らない事は隣の奥さんが証明している。 俺と父親をキョロキョロと見ているのが、日向ちゃん。彼女は飛び入りでこの部屋に泊まる事にしたらしい。 ……俺の事を心配してくれたのだろうか。正直、助かる。 娘の前で、いきなり俺に殴りかかるような真似はしないだろう。 し、しないよな。 「……瑠璃と、仲良くしてくれてありがたく思ってるよ」 ついに、黒猫の父親が口を開く。 「……い、いえ。こちらこそ、仲良くして頂いてます」 相手の出方が分からない以上、無難に回答するしかない。 しかし初っ端から娘の話題である。 地雷を踏まないよう気をつけなければ。 「そうか。仲 良 く ねえ」 ――仲良く、という部分を強調して繰り返される。 くっ、さ、早速地雷を踏んでしまったのか? で、でも仲良くしてないなんて言えねえだろ。 「え、ええ。そ、その、健全なお付き合いをさせて頂いてます」 「ほう? お付き合い、ねえ」 ぐはっ! 俺の馬鹿、主張したかったのは疚しい事なんてしてませんよ、という所だったのにこの台詞じゃ彼女の父親に対して言う台詞じゃねえか。 実際じゃもう別れてるってのに。 ちら、と助け舟を求めて日向ちゃんを見やる。 日向ちゃんは何このヘタレという感じでこちらを見ている。 ヘタレで悪かったな! 「瑠璃と、付き合っていたんだってね。ああ、当然、男女の関係として」 「は、はい」 「で、今はその関係を解消していると」 「は、ははい」 くそ、声が裏返ってしまう。別に悪い事をした覚えはないってのに。 「時に、今回、僕達が家族旅行をしている目的を知っているかな?」 「も、目的ですか?」 「そうだ。……実はね、ここ最近、瑠璃が酷く落ち込んでるようでね」 「…………」 「花火大会があった日からなのだがね。因みに、花火大会は君と一緒に行ったという事でいいのかな」 こ、答えたくねえ……。 「は、はい。い、一緒に行きました」 「その時はまだ付き合っていた、という事でいいかな?」 「……は、はい」 黒猫の父親……父猫さんはどうやら娘が落ち込んでいる理由を正確に推測しているらしい。 「花火大会が終わった後は、どうなんだい?」 「ど、どうというのは?」 「君たちは、付き合っていたのかい?」 決定的な問いかけだった。 「……いいえ」 正直、この質問に答えるのは別の意味で抵抗があった。 なんせ、俺が振られた側なのだから嫌な思い出を掘り出されている感じがする。 「そうか……。状況は、分かった。だから娘が……瑠璃が落ち込んでいた訳だね」 「…………」 俺は父猫さんに何も答える事が出来ない。 「……すまないね」 「な、何がですか?」 「瑠璃、結構変わっているだろう。見た所、君は瑠璃と同じような趣味は持ってないように見受けられる。 君にとって、瑠璃の趣味は異質なものに思えるのだろうね」 「…………」 確かに、普通だ、とは思ってない。 「だから、君が瑠璃を拒んでしまうのは分かる。だがね、ああいう変わった趣味を持っていても僕にとっては可愛い娘なんだ。だから――」 「――――なよ」 「え?」 どうもこの父猫さんは何かを勘違いしている。 俺が、黒猫を拒んで振ったと考えているようだ。 だがそんな事はどうでもいい。 「ふざけんなよ……ッ!」 俺は真っ直ぐと父猫を睨みつけて、そう言い放つ。 いきなり態度が変わった俺に対して、父猫さんは少したじろぐ。 「すまない、ってなんだよ! 黒猫と付きあわせてしまって申し訳ないって意味か? ざっけんな! あんた、てめえの娘をそういう認識で見てるってのか? あんたの娘は、確かに妙な格好をしてるよ? 正直俺には理解はしきれねえ! けどな、あんたの娘は、すげえ優しい奴なんだよ! 口下手で全然素直じゃねえけど、俺には分かる! 友達が物が手に入らなくて悔しがってれば、それを自分で取って渡してやるような、 友達が馬鹿な事をしたら真剣に怒ってやるような、 そういう優しくて真っ直ぐな奴なんだよ!」 俺の怒鳴り声に、この部屋に居る誰もが唖然と口を開けていた。 分かってる、分かってるって、どんだけ場違いな事を言ってるかって、分かってるさ。 でもさ、黙っている訳にはいかねえんだよ。 「いいか、俺はな、黒猫と付き合えて、あんたの娘さんと付き合えて、本当に嬉しかった! 楽しかったんだよ! 本当に、この夏休みが永遠に続けばいいと思うぐらいに、最高の日々だったんだ! 本当に本当に本当に、ずっと一緒に居られればいいと願ったんだ……! だからすまないなんて言わないでくれ……ッ! あんたは自信を持って俺を罵倒すりゃいいんだよ……」 あんたの娘さんと付き合えたんだ。 そんぐらい幾らでも受け入れてやるさ。 ……沈黙。 場が凍りついたように、黙りこむ。 ……や、やっちまった。くそ、最近スイッチが入りやすくて困る。 で、でも嘘は言ってない。誤魔化してもない。 だから、俺はこうすべきだと思って、言っただけだ。 どんな結果になってもそれを受け入れるぜ……。 「……気に入った」 父猫さんが真っ直ぐに俺を見つめて、そう言った。 「……へ?」 「そこまで瑠璃の事を分かってくれているなんてな……。実に見どころがある。どうだね、瑠璃ともう一度付き合ってもらえんかね?」 俺が間抜けた顔をしていると、父猫さんがニコニコと笑いながら俺にそう提案してくる。 い、いや、俺が振られた身なんだけど……。 ど、どちらにせよ、俺は既に約束してるわけだし……。 「……それは、お断りします。まだ、色々とすべき事が俺にはあるって気付いたんです。そのすべき事を終えるまでは、娘さんと付き合う気はありません」 失礼な事を言っていると承知している。しかし、これはきっぱりと言っておかなくてはいけない。 それが決意というものではないだろうか。 「ふっ……。そうか、そうだな。男には準備というのがある。分かったよ」 だが父猫さんは納得してくれたようだ。 ……なんだか、何かを勘違いされている気がするが、納得してくれているのを無理に掘り返す必要は無いだろう。 気が抜けて、ようやく周りを見る余裕が出る。 母猫さんは、俺を真剣な眼差しでじっと見ていて、日向ちゃんは目をキラキラさせて俺を見ている。 ……よく分からないが、上手くいったようだ。 心の中で息を吐く。 「よし。京介くんと言ったか」 「へ、は、はい?」 まだなんかあんの? 「一緒に風呂に入らないか?」 うぇ? 父猫さん。そのポーズ、若干あの、やらないかみたいなポーズですげえ嫌なんですけど。 「……はい」 けど断る事なんて出来ない。これで相手がこっちを睨みながらとかならまだ断りやすかったが、凄いにこにこしている人に嫌だなんて返せない。 俺のHPはゼロなんだけどね……。 「ふっふ、瑠璃の昔話でも肴に飲み明かそうじゃないか」 ……。まあ、元彼女の父親と一緒に風呂入るのもそう悪くない、よな。 そうして、父猫さんと一緒に風呂で語り合い、男同士でしか話せないような事だったり、ちょっとした相談したりで、凄く仲良くなれた。 将来、また黒猫と付き合う未来があるのか、それはまだ分からない。 しかし、この家族とは末永く仲良くやっていければと思う。 ……田村家以外のもう一つの我が家になりそうだな。 真っ暗な部屋で、外に浮かぶ月を見上げながら想う。 ……居心地のいい場所が増える事は歓迎だ。 でも、と俺は目を閉じる。 ……田村家にも五更家にも、あいつは居ない。 俺の妹が居るのは、高坂家だけなのだ。 そんな当たり前の事を思いながら、俺は眠りについた。 完
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/261.html
272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14 07 58.23 ID FCmK5hS40 第2話 『私が妹とオフ会に行くわけが無いっ!』 「信じらんないっ!全然進んでないじゃん!あんたこの2日間何してたの!」 諸君、2日ぶりの挨拶。こんにちわと言う言葉を遅らせて頂こう。 早速ではあるが、私は妹にいきりなり糾弾されてしまっているわけだ。 どうやらわずか2日の間だと言うのに、ゲームを進めていないのにご立腹と見える。 「何をしていたかと問われればこう答えよう。普通に暮らしていたとッッ!!」 「あんたのテンションで言われると本当に普通だったのか疑問だけどね……はぁ~ って言うか2日も有ったらフルコンでしょ!!」 「フッ、君も我慢弱い女だな。何を焦っているのだ? このゲームを誰かに貸し出す予定が有ると言うならば、私は一旦手を引こう」 私は平凡な人生と言えど色々とする事もある。 本来で有れば、今日当たり山篭りとやらに挑戦したいと思っていたところだ。 この武士の国の滝に打たれてみるのも、真なる意味の武士道を見つけるためには良いかもしれない。 かつての自分自身を自戒する意味も込めての事であるが。 「別に私は我慢弱く無いわよ!詰ってるのはあんたが次にプレイするゲームよ!」 「なんとっ!!聞いていないぞ桐乃ッ!!」 「言っておくけど、あんたのエロゲ道始まったばかりだから」 武士道を極められなかった私が極めるべき道として適切とは言えないな。 ミスター・エロゲーと言う呼称は、幾ら私と言えども避けるべきだと断言するッ! しかし、彼女がここまで私に美少女ゲームを強要する理由は…恐らく 279: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/25(土) 14 48 54.56 ID FCmK5hS40 「君には話題を共有する友は居るのかな?」 「な、何よ突然……」 「かつて、私には私のどんな無理も実現してくれる友人が居た 君にもそういった友人。君の無理を聞いてくれる存在は居るのか?」 かつての友の顔を思い出す。 もっともこの世界にも友人と呼べる存在が居ないわけでは無い。 しかし、私がもっとも信頼した友はこの世界には存在していない。 「と、友達くらいいるわよ!変人なあんたなんかよりずっと!」 「しかし、君のその特異性を受け止めてくれる友はいない。そういう事ではないか?」 「ど、どっちだっていいじゃん!」 私の推測は恐らく正解に近いだろう。 我が妹には友人は確かに多いのだろうが、それは一般的な女子中学生なのだ。 恐らく、彼女の無理を受け止め、共有してくれる人物は居ないのだろう。 ならば!私が選ぶ道は……『人生相談』と言う運命を背負った以上はコレしかあるまい。 「桐乃――」 「な、何よ……」 「敢えて言わせて貰う。君は友人を作るべきだ。全てを曝け出せるような友人を」 「そ、それって……オタクの友達を作れって事……?」 私は黙って頷いた。 287: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/25(土) 15 39 01.10 ID FCmK5hS40 桐乃は考え込んでいる。そしてやがてこう呟いた。 「やだよ……オタクの友達なんて……一緒に居たら私も同じに見られちゃう……」 「異な事を言う。私は言ったはずだ!君がどんな趣味・趣向を持っていようと嘲笑したりしない……と! だが、君はどうだ!?同様の趣味を持つ人間を拒絶すると言うのか!君は同様の趣味の人間を嘲笑うのか!?」 「あ、嘲笑ったりしないもん!あたしが言ってるのは世間体の話! あたしはアニメが好きだし、エロゲも超好き。愛してると言っても言い」 確かに、これまでの彼女を見てきて理解できた事がある。彼女の趣味に対する気持ちそれはまさしく愛だっ! 「学校の友達といるのも楽しいよ。でもこっちも同じくらいすき。どっちかを選ぶなんて出来ない! 両方好きで好きで溜まらないのが私なの!でも、オタクが白い目で見られがちって事も判ってる 特に女子中学生なんて日本で一番オタクを毛嫌いしてる人種だし……だから、家族はともかく友達にバレるのだけは絶対に嫌だ そんな事になったらもう学校なんて行けないもん……」 周りの目を気にするか。私は、自分自身の道を貫き通すためであれば 周りの目など瑣末な事であると考えている。しかし、彼女の年齢を考えれば そういった考えに至らないのも決して理解が出来ないわけでは無い。 しかし、彼女が隠したいと言うならば答えは簡単だ。 「ならば……学び舎の外でオタクの友人を作れば良い!」 「う、うん……そうだけど……何か良いアイディアあるの……?」 「無いッ!」 「何で偉そうなのに使えないのよ……」 しかし、使えないと言われて黙って引き下がる私ではない。 少し思案させて頂こう! 289: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/25(土) 16 34 12.44 ID FCmK5hS40 「ちょっと……急に黙り込まないでよ……」 「閃いたッ!」 「えっ……」 「私が町に行き、それらしい人物を勧誘してこよう」 「ば、バカじゃん……全く何も考えて無いし……」 この方法が最も早いと思うのだがな。幸いにもこの世界にはそういった人材が集まる町があると聞く。 しかし、どうやら彼女はこの方法は気に食わないようだ。真っ向勝負が駄目で有れば私も答えに窮す。 こういう時にカタギリでも居てくれれば、良いアイディアを出してくれるのだが…… だが、無い者強請りをしても仕方あるまい。私は更に長考を重ねる。 ふと私の目には先ほどまでゲームをしていたPCが目に留まる。 元々の私が存在していた西暦2314年から考えると機能的には優れているとは言い難いが これにもネットワークに繋ぐ機能はある。ならば、そのネットワーク上で友人を探せば良い。 それならば彼女が気にしている『世間体』とやらも保たれることだろう。 「ならば、インターネットを活用するのは如何かな?」 「ネットって……」 「出会いが有ると言う話を聞いたことがある」 「いかがわしい意味じゃないでしょうね……」 291: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/25(土) 16 49 57.74 ID FCmK5hS40 多少の戸惑いはあるようだが、先ほどとは違い明らかに桐乃の瞳は「やってみても良いかも」と言っている。 ならば善は急げだっ!このインターネットの海原より、運命に導かれた友を探し出すッ!! 私と桐乃はオタクと言う人種の居そうなコミュニティの探索を小一時間程行った。 候補サークル①『オタクっ娘集まれ』 候補サークル②『認めたくないものだな……自分自身のロリっ娘好き(妹含む)故の過ちと言うものを……』 「目に留まったコミュニティはこの二つか」 「うん……って言うか後者はどうかと思うけど……」 「何らかのシンパシーは感じる」 「はぁっ!?あんたそういう趣味なの!?」 そういう事では無いのだが…… 近日中にオフ会が開かれると言う二つのコミュニティであったが 私は、候補②の方に只ならぬ気配を感じていたのだが、やはり初めてと言う事も有り 妹は女性のみ参加である候補①の方に参加の旨を伝えるメールを送ったのだった。 送信より数分……それ程時間をおかずに返信のメールを我々は確認した。 from 沙織 to きりりん はじめまして。きりりん様。 『オタクっ娘集まれー』コミュニティの管理人を務めております沙織と申します。 参加希望のメッセージありがとうございました。 もちろん承認させていただきますわ! 年も趣味も近しいあなたとならきっと素敵な友達になれると思いますの。 「随分と礼儀正しい方だ。まさにこれが気品と言えよう。」 「うっさい気が散る。 えーっと……『もし宜しければ……来週開催されるお茶会にも参加して下さい。場所は……』」 297: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/25(土) 17 19 01.93 ID FCmK5hS40 「うわーーーー!あははははは!あきはばらー!」 今、私と妹はそういった趣味の人間の集まる町秋葉原に来ている。 先日のメールにあったお茶会の開催場所が、この町であったからだ。 もっとも、私は本来で有れば来る必要は無いのだが 「人生相談」 この言葉を持ち出されて再び運命に翻弄されてしまった。 敢えて言えば彼女が実際は「心細い」と言う事は熟知している。 ならば、参加は出来なくとも遠くから目立たぬように見ておくと言う事でお互いに承諾した。 故に、今日の私は目立つわけにはいかない。この町に溶け込んだスタイルで影のように存在しよう! 「余りはしゃいでいる時間は無い。作戦時刻は刻一刻と迫っている」 「…………あんま近寄らないで、マジで………彼氏ってか……知り合いと思われたくない」 付いて来てくれと言った上にこの仕打ち!堪忍袋の緒が切れたッ!! 「その言動!容認できんなっ!!」 「じゃあ!何でまともな格好して来ないのよっ!!」 「言っている意味が私には理解が出来ないな」 「その仮面と!そのピンクのハッピと!指だし手袋にシャツインのジーパンって明らかに色々おかしいでしょ!特に仮面ッ!」 ざわざわと私たちの周りが騒がしい 「すげぇ……今時ああんな人いるんだ……」 「オタクだ……ミスター・オタクだ……」 「OH!ミスター・オタク!」 「フッ、周りが勝手にそう呼ぶ。どうやら私は予定通りオタクの町に溶け込んだようだ」 私が満足していると、妹は何故か頭を抱えている。時折、彼女の事が理解出来ない。 305: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/25(土) 18 08 10.16 ID FCmK5hS40 地図を取り出す妹。私は確認のためそれを覗き込む 「だ、だから近づかないでってば!」 「なるほど。場所は理解した。ならば突貫あるのみ!」 「ま、まさか……あんた参加する気じゃないでしょうね……」 「参加しても良かった…という事か!?」 私は遠くから様子だけ見ておくつもりだったのだが…… そう言うならば女性のみ参加と言う道理を無理でこじ開ける!! 「ち、違う!駄目だってば!何かあんたが勢いで参加しそうで不安になっただけよ! 良い!ぜーったいに関係者と思われないくらい離れた位置にいてよ!!」 「己の分は弁えてるつもりだ」 中々、発言の機微を探るのが難しいお姫様だ ならば私は先行して会場であるツンデレ(?)メイド喫茶とやらに陣取っておく事にしよう。 「何をしにここまで来た!俗物っ!!」 ほう、これが秋葉原文化と言うものか。 入店一番に手酷く罵られるとはな。異文化と言う物には驚嘆を隠せない。 罵られながらも私は、席に案内された。 「俗物。注文を聞こうか」 「私はオムライスを所望するっ!!」 「良いだろう…!オムライスにどのような文字を書くか、ここで選べっ!」 「ガンダムと言う文字を希望するっ!」 「よくもずけずけと注文してくれる……!良いだろう。」 私がやたらとプレッシャーを発する店員とやり取りをしていると、そこで扉が開き団体客が姿を現した。 来たな……! 316: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/25(土) 18 55 28.28 ID FCmK5hS40 カランカラン 「「別に来てくれなんて頼んで無いのに何で来たのよっ!」」 先ほどの私に対する物に比べると大分愛想の良い店員達に暖かく迎えられ、団体客は入店した。 ぞろぞろと入店してきた女性客。一見すると普通の女性に見えるが、彼女達も桐乃と同じような趣味・趣向を持っているのだろう。 やたらと凝った服を着ている者も見られる。その先頭に立つ女性……やたらと背の高い彼女は 私が研究した末に辿り着いたオタクスタイルに近しい格好をしている。出来るな…! 「拙者、1時に予約している者でござるが……」 何とっ!そのしゃべり…彼女も武士道を志す者だとでも言うのか。 「フンッ!一応名前だけ聞いてあげるわ!」 「沙織・バジーナ」 沙織・バジーナ。彼女が管理人か。その名前しかと覚えさせて頂こう。 団体の様子を更に伺うと、後方には我が妹の姿を発見する事が出来た。 彼女はこちらの方を睨んでいる。怖い顔だ。既に私はこの店と一体と言っていいほど馴染んでいる。 その心配は杞憂である事をアイコンタクトで妹に伝える。 「はぁ~」 どうやらアイコンタクトが通じたようだ。妹はそっぽを向いた。 しかし、ふと気づいたが、妹以外のメンバー、強いて言えばこの店に居る人間全てから 視線を感じる気がするが、郷に入らば郷にしたがっている以上、これも気にしすぎと言う事だろう。 どうやら、久方ぶりの隠密ミッションで私も感情が昂ぶっているようだ。 「えー、それではオタクっ娘集まれーのオフ会を始めさせて頂きとうござる。短い時間ではありますが互いに語らい 親睦を深めましょうぞ。初対面とは言えオタクと言う絆で結ばれたもの同士、その溢れる思いをどんどんぶつけましょうぞ それでは、どうぞご歓談を」 お茶会は沙織・バジーナの挨拶により始まったが 客観的に見て、我が妹は浮いてると言わざるを得ないだろう。 確かに妹は垢抜けているがあの格好ではな……場所ごとにニーズというものはあるのだ! ザワザワ……「ナァ…アノカメンノヒト…」「シッ…」「ミスター・オタク……」ザワザワ 374: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/26(日) 09 41 23.14 ID DuZLhL2C0 「きりりんさんは、SEEDだと誰が好き?私はディア×イザなんだけどー」 「え…あの…」 「えーうそ!私もディア×イザ!」 「良いよねー!」「ねー!」 「きりりんさんのそのアクセ綺麗だね」 「どこの?」 「どこのって言うかクロックの限定。撮影で気に入ったから買い取っちゃった」 「ふ、ふーん…」「そうなんだぁ……」 彼女たちの会話は私には理解できない部分も多々あるが 一目すれば判る通り、我が妹は完全に孤立してしまっている。 ………辛抱ならんっ!!かくなる上は私が……!! ガタッ! 私は勢い良く立ち上がる。 すると、妹とまたも目が合った。 まさに阿修羅のような形相で私を睨んでいる。 ――私の助けはいらないと言うことか。ならば静かに君の戦いを見届けよう。 私が再び席に着席すると同時にオムライスが運ばれてきた。 「待たせたな、俗物。ここでオムライスが食べられる己の幸運を祝うが良い」 「いただくっ!」 まるで血痕ようにケチャップで『ガンダム』と書かれたオムライスをほお張りながら 私は桐乃から視線を離さず、彼女の戦いを終始見届けた。頑張れ桐乃、その手に未来を掴めッ! 382: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/26(日) 10 15 29.28 ID DuZLhL2C0 お茶会はそれから2時間程続き、最後にプレゼント交換のような事をして終わった。 残念な事に、我が妹は終始、碌なコミュニケーションもとれず、言わずもがな友人が出来ようはずもない。 しかし、桐乃に廻ってきたプレゼントは、我が愛機スサノオの剣を模したような玩具でそれは当たりだったと言わせて貰おう。 とは言う物の、一人ポツンと俯いてスサノオの剣を模した玩具を連結したり、連結解除したりする姿は見る者の涙を誘う事請け合い。 だが、私は必死に友を作ろうとする君の姿を見ている。今日の敗戦は明日の勝利のためにあるのだ。 そこで沙織・バジーナが茶会の終了を告げる挨拶を述べ始めた。 「皆様のご協力もありまして、記念すべき初めてのお茶会もつつがなく終了したでござる!拙者、心より感謝しておりますぞー!」 楽しげな歓声があがる。私の見立て通り、彼女のカリスマ性は中々のもののようだ。 「―お茶会は一先ず、これで解散となりますが――まだまだ時間があるよという方、会で仲良くなった友達ともっと話したいよ と言う方は、それぞれ各自で2次会、3次会へと向かってくだされ!なお、次回の催しにつきましては、またトピックを立てますゆえ ぜひとも奮ってご参加くだされ!では、解散っ!」 わぁっと喧騒が広がった。 別れの挨拶と共に新たな友人との予定を囁く声が聞こえる。 「ねー、これから虎の穴にいこうよ!」 虎穴に入ると言うことかっ!? 「SEEDのカップリングについてみっちり語り合わない?」 種のカップリング? 植物の遺伝子交配かッ! 中々、二次会はすごい事になりそうあものだ。 しかしながら、その会話の輪の中に我が妹・桐乃の姿は無い。 2、3人のグループに分かれながら団体は解散していく。 沙織・バジーナも会が終わると脱兎の如く駆け出し、既にここにはいない。 最終的には、店内には我が妹のみが残されていた。 その姿はさながら、戦いに敗れた敗残兵のようでもあった。 私は仮面を外し、ゆっくりと近づいていく。 387: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/26(日) 10 36 50.28 ID DuZLhL2C0 「君の戦いは見届けた。敗北の悔しさを知っている者だけが勝利の美酒に酔える。次は勝てるさ」 頭の上に手をのせてやるが、その手はすぐに払いのけられた。それくらいの元気があれば大丈夫だ。 「うっさい…バカ……大体なんなのよ……完全にその格好浮いてたし……っていうか今も浮いてるし……」 「異な事を言う」 私は完全にここに同化していた。メイドとの会話もそつなくこなしたと自負している。 「全然話できなかった……」 「最初と言うのはそんなものだ。私も最初にガンダムに挑んだ時はその性能に圧倒されたものだ」 「厨二病やめてよ……アニメの話じゃないっての……なんで……あ、あたし…何時もどおりやったつもりなのに…… 何で避けられちゃうの……くぅぅ……かつく………ムカツク!ムカツクッ!!ムカツクムカツクムカツクッ!!」 「おーい!きりりん氏ーー!!」 地団駄を踏む桐乃の前に、見覚えのある顔が再び現れた。 「良かったー……まだ居てくださって!」 「沙織……さん」 「沙織で結構!ほほぉ……こちらは……彼氏でござるな!」 沙織・バジーナは私と桐乃を見て唐突にそのような事を言い出した。 「ちがーう!!」 「敢えて言おう。私は彼女の兄であるとッ!!」 「………こんな兄居ると思われるのも嫌なんだけど……」 「なるほどなるほど。店内にやたらと存在感のある方がいらっしゃると思っておりましたが、きりりん氏の兄上でござりましたか」 「あれだけ気配を消した私の気を感じ取るとは、やはり君も武士道に通ずる者か。私の名は高坂京介。グラハム・エーカーと呼んでくれて構わない。」 「あんた……いい加減にしてよ……」 「京介氏……いや、グラハム氏でござるね。それではグラハム氏もご一緒で」 ご一緒でとは……君は何を計略している、沙織・バジーナ! 「いやいや、お二人を二次会へとご招待しようと思いまして」 「二次会って……さっきのつづき?」 「左様、拙者がさっきお話が出来なかった方を個人的にお誘いしようと思いまして」 388: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/26(日) 10 37 40.99 ID DuZLhL2C0 「他にも沢山来るの……?」 珍しく弱気が見えるな桐乃!どうやら先ほどの敗戦が身に染みていると言う事か。 「いやいや、拙者たちを含めて4人でござるよ」 「ふ、ふーん……」 ほう、詳細を聞いて多少心が動いているようだな。 確かに少人数で有れば、先ほどのような決定的な敗戦は喫さないであろう。 ならば私に出来る事は、彼女の迷いを切り捨てることのみっ! 「私、グラハム・エーカーからお願いしよう。是非とも参加させて頂くと!!」 「おおっ!来て頂けるでござりますかっ!」 「ちょっ……何であんた勝手に……まぁ、どうしうてもって言うなら行っても良いけどさ……」 「ああ、良かった!では、お二人とも参りましょうぞ!もうお一方は、既にマックでお待ち頂いておりますゆえ!」 この格好と言い、私の気配を察した事と言い、会の仕切り、そして恐らくこの二次会とやらの意図も…… やはりこの沙織・バジーナという人物。かなりの人間であるのは間違い無いだろう。 私達は沙織・バジーナの先導に従い、メイド喫茶は出ようとした。 「4時より予約している者だが……」 「……貴様はっ!!よくもぬけぬけと……!」 「もう一度言おう。4時より予約している者だ。」 「ここで朽ちるか、今すぐ引き返すか好きな方を選べ!」 「そんな決定権がバイトのお前にあるのかっ!」 メイド喫茶を出る間際、派手な赤いノースリーブを着た男と先ほどのメイドがやり取りをしていた。 赤い男と目があう。出来るな……!しかし、今は、沙織・バジーナの後を追うのが先決だろう。 この男とはまたどこかで会うような気がする。 450: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/27(月) 02 17 16.91 ID +FRbmxxY0 今、私達はお茶会を行ったメイド喫茶から一番近いマックに入店し そこで沙織・バジーナの言っていたもう一人の二次会参加者と相対している。 凝った服を着ている彼女は、よくよく考えてみるとお茶会の時も桐乃同様 周囲に馴染めないでいたように記憶している。やはり佐織・バジーナの意図は 私が考えていたものと違わないものであるようだ。 「お待たせしました黒猫氏。きりりん氏とその兄上でござる。」 「え、えっと……きりりんです……宜しくね」 「私は高坂京介だ。かつてはグラハム・エーカーとも呼ばれた男だッ!申し訳無いが故あって飛び入らせて貰う」 「ハンドルネーム……黒猫よ」 最後の一人は俯いたままボソリと自己紹介してきた。 なるほど。確かにその異名に似合った黒いドレスだ。 このまま舞踏会にでもエスコート出来てしまいそうな程に。 「で……管理人さんはこの面子を集めてどんな思惑があるのかしら。 先程のオフ会の時に遠くに居た変人も混じってるようだけど」 「いやー、先程も申しあげた通り、先程余りお話出来なかった方と是非お話がしたかったのでござるよ。 ですので、黒猫氏もそんな他人行儀な呼び方では無く、遠慮なく沙織とお呼びくださいませ。無礼講でいきましょうぞ」 「その図体でよくも沙織なんて名乗れたものね……図々しい。出落ちにしたって性質が悪いわ。 今度からサイコガンダムかビグザムと名乗りなさい。それにその喋り方と格好……」 「何年前のキモオタなんだって感じ」 「敢えて言おう無礼講とは、幾ら罵っても良いと言う意味では無いと!」 どうやら彼女達には、配慮と言う物がいささか欠けているようだ。 それに沙織・バジーナの格好は、この町に馴染むと言う意味では間違って居ないだろう。 私が辿り着いた『極み』と同じところに辿り着いているのだから。 457: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/27(月) 02 41 03.93 ID +FRbmxxY0 どうやら彼女達には、配慮と言う物がいささか欠けているようだ。 それに沙織・バジーナの格好は、この町に馴染むと言う意味では間違って居ないだろう。 私が辿り着いた『極み』と同じところに辿り着いているのだから。 「まぁまぁ、グラハム氏。拙者にとってこの程度の毒舌はそよ風のように心地良い 宜しかったらグラハム氏もどんどん罵ってくだされ!」 なんと度量の深いものだな。我慢弱い私では同様の事は出来まい。 「格好といえば……あなたもどうしてそんな浮いた格好しているの? 秋葉原のオフ会でその格好は無いと思うわ」 「それに関しては私も言わせて頂こう。桐乃、君は今回のミッションでは空気を読む必要があった」 「「おまえ(あなた)が言うな」」 なんとっ!この連携……私の予想を超える。 しかしながら、私は郷に入りオタク道に殉じたつもりだ。 「敢えて言うけど!これが一番私らしい格好なんだから!それに……」 「何?何かしら?言ってごらんなさい」 「何そのドレス……コスプレ?水銀燈のつもり?」 「全然違うわ。どこ目をつけているのマスケラのクイーンオブナイトメアよ。まさか知らないとは言わせないわ」 「あー……それってメルルの裏番じゃん。確かオサレ系厨二アニメって言われてる奴」 ブチン その瞬間、たしかに堪忍袋の緒が切れる音を私は聞いた。 459: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/27(月) 02 54 02.26 ID +FRbmxxY0 「聞き捨てならない事を言うのねあなた…メルルってまさか『ほしくず☆うぃっちメルル』の事かしら? 視聴率的にはそっちが裏番組でしょう?くだらない妄言はやめなさい」 「視聴率?何ソレ?私が見ているのが表でそれ意外が裏なの――」 「あなたこそ口を慎みなさい。何が厨二病アニメよ。私はその言語が死ぬほど嫌いだわ」 妹と黒い少女の会話を聞きながら私は安堵を覚えていた。 「フフフ」 「おや?何を笑っているのですかなグラハム氏」 「フッ、私は以前桐乃に言った。己の全てを晒け出せる友人を作るべき…と」 「ほう、そうでござりましたか」 「この出会いに、おとめ座の私はセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」 「グラハム氏は詩人でござるなぁ」 先ほどのお茶会ではアレだけ何も喋れなかった我が妹が 今は黒い少女と己の魂をぶつけて語り合っている。この関係!まさしく友情だ! 「本当いちいち言い方が面倒くさいのよ!この邪気眼電波女!」 「じゃ、邪気眼……電波女ですって……ついに言ってはいけない事を言ったわね…… ふふふ……どうなっても知らないわよ……この負の想念はもう私にも止められはないわよ……!」 「ばっかじゃないの!あんたもう死ねば!!」 これで今回の私のミッションも完了だろう。 妹は得難い存在をこうして得る事が出来たのだから 何?何もしていない?ならば、今回は私が動くまでも無かったと言う事だ。 462: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/27(月) 03 27 35.24 ID +FRbmxxY0 それからしばらく私たちは、沙織・バジーナの提案した秋葉原見物に乗り出す。 アニメのグッズを扱う店や、同好の士で集まって描いた書物を扱う店など興味深いものがあった。 「なんとっ!!劇場版機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer- COMPLETE EDITION【初回限定生産】が既に発売しているだとっ!」 「何で急にアニメショップで宣伝口調な台詞言い出すのよ……」 「さっきから思ってたけどあなたのお兄さん……アニメキャラの成り切り?」 「昔からずっとこうなのよね……」 「少女。言ったはずだ。私はかつてグラハム・エーカーと呼ばれた男だと」 「……そ、そうね」 (何で同類なのに引いてるのよ……あんた) (この人の眼は本気過ぎるわ……) こうして私としても得難い時間を過ごさせて頂いた。 既に町は日が暮れ初めている。 「いやいや~つい遊びすぎてしまいましたな」 「あなた……とあなたのお兄さんがはしゃぎ過ぎるから」 「しょ、しょうがないじゃん。あたし、秋葉原初めてなんだし。 それとアイツはいっつもあのテンションだから……」 463: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/27(月) 03 27 57.43 ID +FRbmxxY0 私としたことが、この町には何故か懐かしい物が多くはしゃいでしまったようだ。 どういう理屈で、私の知りうる情報が、西暦2000年代のこの世界に流通しているのか。 それに関しては、私も答えを持っていない。そして、その答えを知る時が来るのかも解らない。 だが、今の私は高坂京介として生き抜くのみ。一度は死したこの身。運命には従うまでだ。 「それでは拙者達はこれで」 「感謝する沙織・バジーナ、そして少女。この出会いは僥倖だった。私も再び生き恥を晒した甲斐があったと言う物」 「はて、お礼を言われる事を何かしましたかな?」 「ふ……覚えはないわね。変な人間に出会ったそれだけの事」 どうやら私も桐乃も運が良かったようだ。 改札に向かって去っていく沙織・バジーナと黒猫を見つめながらそう確信した。 沙織・バジーナは背負ったリュックからポスターをまるでガンダムのビームサーベルのように抜き放ちブンブンと振った それに答えるように桐乃は我が愛刀シラヌイ・ウンリュウを模造した玩具二刀を振っている。 「さて帰投するか、我々も」 既に改札に向かっている桐乃の後を追いかけ私も歩を進めた。 第2話 完
https://w.atwiki.jp/puzzlederby/pages/420.html
スキップアウェイ スキップトライアル?☆4または☆5 ガチャ シガー☆4 シガー降臨 ルイカトルズ?☆4 転生 ルイカトルズで☆3ドロップ エディターズノート?☆4 転生 エディターズノートで☆3ドロップ ジェントルメン?☆4 転生 ジェントルメンで☆3ドロップ コロナドズクエスト?☆4 転生 コロナドズクエストで☆3ドロップ
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/623.html
あれから、各々で背中合わせで自分の身体を洗った。 その間、どちらも無言で、ただただ作業をお互いにこなすという形だった。 ひと通り、お互いが洗い終えたらどちらかが言うでもなく共に湯船に浸かった。 背中合わせでの形でだ。 「……もう少し、足を曲げられねえか?」 「無理。我慢して」 流石に背中合わせで一緒に入るのは狭い。何とか浸かれたが体育座りの形で小さくなる必要がある。 なら一緒に入らなければいい訳だが、何故か一緒に入っている。 正直俺は入る気がなくて、さっさとあがろうと思っていたんだけどな。 俺が身体を洗ってる間に、先に身体を洗い終えた桐乃が湯船につかり。 そして身体を洗い終わり、立ち上がったところで、桐乃が俺に湯船に入ると思ったのだろう。 身体を前にずらし、一人分が入れそうなスペースを空けた。 特に出る訳でもなく、ただ無言でスペースを空ける桐乃の行動に、一緒に入るという選択肢を突きつけられて、こうして一緒に入る事にした。 背中合わせなのは……何となく最後の抵抗だった。 何に対しての抵抗だったのかは分からない。ただ、殆ど全裸で、桐乃の方を向いて入る気にはなれなかった。 俺の海綿体はこれでもかってぐらい膨張をした侭、収まらないというのもある。 ……いいや、何に対して抵抗なのかは分かってるな。 桐乃の方を向いて入ったら、とても我慢が出来る気がしなかったからだ。 しかし、俺は決して襲いたい訳じゃない。 兄妹の関係を大事にしたかった。ここで襲ってしまっては、大事に育ててきた兄妹の関係をまた壊してしまう事が分かっていた。 だから、兄として男の俺に対する抵抗。 それがこの背中合わせだった。 …………。 こうやって桐乃と風呂に入るのは最後だろうな。 そう思うと、こんな形でお互い無言に過ごしてしまう事が、とても勿体無く思えてしまう。 しかしこの結果にしてしまったのは自分だ。 桐乃を異性として見てしまっているこの駄目な兄貴が悪かったのだ。 いつから、異性として桐乃を見るようになったのだろう。 ラブホに一緒に行った時だろうか。 それとも海外に行ってしまった時からだろうか。 お互いが無視しあってたあの頃からだろうか。 ……それとも初めからか。 「……ねえ?」 「……なんだ?」 そんな思考に没頭している俺に、桐乃が話しかけてくる。 「……ごめん」 そう、桐乃が謝罪をした。 何に対しての謝罪なのか、まるで分からなかった。 「謝るのは俺の方だ。……悪かった」 だからそうやって返す。すると桐乃は静かにうん、と答えた。 そうして、幾らかの会話をこなし、最後の兄妹風呂は終わりを迎えた。 それから、風呂を出て、桐乃に服を着せる段階になって、ある事に気付いた。 ……桐乃がパンツ履いたままだと、新しいパンツ履かせられなくね? 流石に濡れたパンツの上から新しいパンツを履かせるのは苦行過ぎるだろう。 桐乃もその事に気付いたのか、無言で替えのパンツを見ている。 「……ねえ、悪いけど脱がせて貰えない?」 桐乃がそう言ってきたのを断れる筈も無かった。 しかし、正直にいってこれはヤバい葛藤を心の中に生んでいた。 桐乃に背中を向いて貰って、俺は桐乃のパンツに手を掛ける。 水で濡れていて、桐乃のおしりがくっきりと見える形になっている。 更に、少しだけ大事な部分にも張り付いていて、輪郭が見える状態になっていた。 ……これを意識するなって方が無理だろ。 出来る限り目を逸らしながらも、しかしパンツを脱がす力を込めていく。 肌に張り付いた下着というのは中々どうして、簡単には脱がせなかった。 大体なんで女のパンツってのはこんなに小さいのかと。 それでも何とかしてピンクの下着を脱がしていく。 そうすると生のおしりが目の前に見えてくる訳で。 目を逸らしたり、目を瞑ったりと、色々と抵抗をしながらも脱がしていく。 見ないようにするのが大変だった。 物理的じゃなく、精神的に。 見たくない筈がなかったからだ。 正直、この葛藤で死ねると思いながら、俺は驚異的な精神力で見る事なく、パンツを脱がした。 やりきった達成感があった。 男として後悔する部分も多々あったが、しかし兄としては満足だった。 「……脱がしたぞ」 背中を向けてそう言ってやる。 「……うん」 桐乃がそう応えて、タオルで身体を拭く。 これでようやく一息入れられると思いながら、自分の身体を拭き、さっき脱いだ下着を履いていく。 一度脱いだ下着をもう一度履くって、なんだかすげえ抵抗があるよな。 正直、近くにコンビニがあったら下着を買いに走りたいぐらいだ。 だが生憎として近くにコンビニがありそうな場所ではなかった。 あれ? 履く? 俺がそれに気づいたのと同時に、桐乃から声を掛けられた。 「……あの、履かせて」 …………。 今まで妹から出された要望の中で、これは最大級の難易度じゃないだろうか。 さっきのおっぱいを洗うのも中々の難易度だったが、なんだろう。 おっぱいを触る、というのと、こうしてパンツを履かせるというのは質が違う。 何故なら、パンツを履かせるというのは脱がせる以上に、見なくちゃいけないからだ。 手を引っ掛けて引き下ろすのとは違う。 「……分かった」 それでも断る訳にはいかない。今は俺しかここに居ないのだ。 改めて桐乃へと向き直る。 湯上りで、全身を本来の色合いより赤く染めている桐乃の裸体。 全裸だった。 せめて上半身だけ着させるべきだったが、今更遅い。 なんせ着せるのは俺だ。下半身裸の桐乃に上を着せるなんて、難易度高いってもんじゃない。 そういう意味では、難易度的にまずは下から責めるのがいい。 おっぱいはなんとか今見ても耐えられるレベルだ。 まだそんなに大きくないしな。 替えの下着は、既に桐乃の足元に落ちていた。 一応履こうとしたのだろう。 パンツの穴に、片足は通っている状態だ。 ……ここまで出来れば、自分で履けるんじゃないか? そもそも片腕を使えなくなった事がないので分からないが、どれも面倒臭いながら、どうにか片手ででも出来る気がしなくもない。 その面倒くさい、というのが桐乃にとって誰かに手伝ってもらう最たる理由なのだろうが。 まあ、いい。 それこそいまさらだ。身体を洗うのだって、結局俺にやらせた。 何か甘えたい時期なのかも知れない。こうやって服を着せるのだって、これが最後だろうし。 感傷的な想いを胸に宿しながら、桐乃にパンツを履かせる為に、桐乃の後ろでしゃがみこんだ。 うわ、やべえ! 感傷的な想いで精神防御を試みたが、この体勢になって即効で防御は突破された。 だって、生尻ですよ、いや、それはさっきも少しだけ見たけど。 その下に、若干影で見えなくなっているものの、その、あれがある訳で。 見ないようにする、とかそんなんじゃなく、自然と目に入っちゃうんですよ? アレが。 ピッタリと閉じてて、今はただ線しか見えないけども。 つか、線が見えてるってだけで、もうアウト。 最近はさ、ネットで無修正の画像なんて幾らでも手に入る訳ですよ。 だから、こういう構造になってんだ、へえ、とかは思うことはない訳だが。 こうして目の前にあるってのは、それだけでどうしようもないものだ。 見たい、そして、触りたい。 そういう欲求がどこまでも身体の内から湧いてくる訳だよ。 下着がある、という防衛ラインがなくなってしまっている以上、もう直ぐだった。 これは、さっきの葛藤の比じゃなくて、既にもう見て、しまった訳で。 ――視線がそこに釘付けで、身体は硬直したように動けない。 明らかに不味い衝動が身体を駆け抜けている。 見たい、触りたい、指を入れたい、中を堪能したい、挿したい、入れたい。 強烈な衝動。頭がそればかりになって、もうどうしようもなくなってしまいそうで。 もう変になりそうだった。 そんな俺の様子に気付いたのか、中々行動しない俺の様子を訝しんだのか、桐乃がチラリと俺を見る。 慌てて視線を逸らしたが、桐乃には見られてしまっただろう。 俺が何処を凝視していたのか。 桐乃も固まった様に、俺を見ている。 そして、片手でソコを隠すようにして言う。 「な、何見てんの、ば、バカ」 その言葉は怒気を孕んでなかった。 なんて言うか、照れ隠しのような、甘い感じの罵倒。 「わ、悪い、桐乃」 そして、俺もそれに対する謝罪じゃなく、今から行う行動に対しての謝罪で返す。 「俺、もう我慢が出来そうない」 「え? えええ!? そ、それって……」 桐乃が慌てて俺から一歩離れる。 「だから、そ、その……」 「だ、駄目だって、ここ病院だから、その、ね?」 何を想像しているのか知らないが、断るポイントはそこかよ。 家だったらいいってのか。 いや、駄目だろ、兄妹なんだぜ? あれ、それじゃ今から行う行為は兄妹の関係を守ったままなワケって? そう、俺が今から行うのは、ヘタレ オブ ヘタレと形容されてもおかしくない内容だ。 つまり―― 「が、頑張って自分で履いてくれないか? おれ、その、ちょっと……抜いてくる」 そう、全力逃亡だ。 兄としての決断、だと思うかも知れないが、その実、違った。 これは男としての俺の要望だった。 一刻も早く抜きたい、出来るなら目の前の子を襲いたい。 でもここは病院だ、ヘタレな俺としてはこんな場所でそんな行為を敢行できる勇気は無い。 だから苦肉の策として今から即効で着替えてトイレに直行し、今の行為を思い浮かべて一発抜く。 これが俺の考えた最良の策だった。 ……うるせえな、ここが病院だってのに抵抗があんだよ。 どこかの誰かに言い訳をしながらも、俺は桐乃の返事を待った。 「……ぬ、抜いてくるって」 そこに突っ込んでくるのかよ。 あ、てか考えてみれば抜くことまで説明しなくて良かったんじゃね? 適当に腹痛とか言ってれば良かったんじゃね? ……俺って実は馬鹿なのか? 「き、きにすんな。と、とりあえず自分で履いてくれって事だ」 「あ、あああ、あたしもなんか手伝う?」 ぶっ! な、な、なななな何を言い出しやがるんだ、こいつは! て、て、手伝うってなんですか、なんですかその魅力的な提案。 つかこっちを向くな、この全裸女! 「だ、だだだ、大丈夫だ、ひとりで出来る、こ、こんなん直ぐだ」 「で、でも、ほら、出したら汚しちゃうし、ほ、ほら、飲んであげるとか出来るし、ちょ、ちょっと興味があるし」 ――――。 こ、こいつの手伝うってそういうレベルかよ?! 俺はちょっとこう、なんだ、見せてもらうとか、せいぜい手こきレベルだったのに! さ、流石はエロゲマスター、俺の予想を遥かに上回る提案をしやがる。 つか、こいつの脳内ではここで出す気だと思ってんだな。 「え、いや、その……いやいやいやいやいや、いいっす!」 すっげえええ魅力的な提案でしたよ、はい。 なんて断ったかのかというと、パニクってたのもあるし、今の言葉だけで逝きそうになってたからだ。 口に含まれる以前に、目の前で見られるだけで出しちゃうんじゃないだろうか。 そんな訳で、もう出そうになってた俺は、取り敢えずパジャマを手にして、トイレに逃げ込もうとした。 「ちょ、待ちなさいって――!」 が、その俺を桐乃が止める。 ……俺のあそこを掴む形で。 「あ」 よ、よりによってソコを掴むな……ッ! 桐乃の手によって起こされる刺激に、爆発寸前だった俺の海綿体は、一気に臨界を迎えた。 「ちょ、な、なんかビクビクしてんですケド、だ、大丈夫なワケ?」 ……全然大丈夫じゃないっすね。 圧倒的な快感と圧倒的な後悔を同時に感じたのなんて始めてだぜ。 圧倒的な快感ってのは、こう、我慢に我慢を重ねた結果、他人の手によって逝かされる快感。 これは、病みつきになっちゃいそうな快楽だ。 こうやって半賢者モードの状態になっても、まだドピュドピュと放出を続けている。 で、圧倒的な後悔とは何か。 妹の手で逝かされた事? いやそれも確かに後悔に値するかもしれない。 だが、それよりも……。 改めて状況を説明しよう。 俺は、下着を持ってきていない。 近くにコンビニも無い。 今、俺は下着を履いている。 後は……分かるだろ? // 「だから、ごめんって。そろそろウザいから凹むなっての」 あれから、病室に戻り、桐乃はベッドの上。 そして俺は部屋の隅で体育座りをしていた。 全力で凹み中。 え、下着はどうしたって? はっはっは。 ……今、ノーパンですが何か。 え、下着はどうしたって? 取り敢えず応急処置として、ビニール袋に突っ込んで固く縛っておいた。 ただ季節が季節なので、明日にはそのままゴミ箱行きかも知れない。 いや洗おうとも考えたんだよ。ただ、ここ公共の場じゃん? 誰もが使う洗面所で、汚しちまった下着を洗いたくないじゃん? 少なくとも俺は誰かが精液塗れの下着を洗った場所で歯磨きはしたくねえよ? 因みに俺が応急処置をしている間に、桐乃はしっかりと下着を履いて、それどころか、あらかた着替えを済ませていた。 ボタンは流石に留められなかったようで、俺が留めてやった。 ……やっぱ普通に着れんじゃん。なんで俺が脱がしたりしたんだか、とやはり思ったが、甘えたい年頃だったんだろうと適当に結論付けておいた。 そして今、病室に戻ってきた絶賛賢者モードの俺は、色んな後悔に塗れてこうやって部屋の隅で凹んでいる訳だ。 妹に手コキで逝かされてしまった。 下着に中出ししてしまった。 病室なんていう公共の場でノーパンの高校生♂=俺の現状。 凹む要素は幾らでもあった。 桐乃がさっきから謝ってくれているが、正直、桐乃が悪い訳じゃない。 いや、こうなんていうか、人をボッキさせてくれやがった事は責任があると思うが。 しかしどれも自制出来なかった自分のせいとも言える。 「はぁ……。そういや、飯ってどうなんだ?」 だがここでいつまでも凹んでいても確かにウザい。 桐乃が悪い訳でない以上、桐乃に迷惑を掛けるのもなんだ。 家に帰って自分の部屋で存分に凹む事として、今は一時的に忘れよう。 「さあ? 昼間は普通に看護婦さんが持ってきてくれたケド」 ふーん。じゃあ、時間的にそろそろ夕飯が来るって感じか。 「どっかに売店とかねえの? どうせ俺の分の夕飯はねえだろうし、何か買ってこようかと思うんだが」 「受付の所にあるっちゃ、あるケド。もう閉まってると思う」 なるほど。つまり俺の飯は抜きか。 まあ、仕方ない。そもそもこうやってパジャマと毛布を貸して貰えただけでも僥倖だ。 俺の計画性の無さがアダになっただけだしな。 「あたしの分、分けたげよっか?」 「いいよ。気持ちは受け取っておく。だが、おまえは怪我人なんだからちゃんと食っとけ」 「でも、あんた、あんなにいっぱい出したんだからお腹空いてんじゃないの?」 「ちょ、おま……!」 イキナリなんて事を言い出しやがる……! 誰かに聞かれたらどうすんだ、誤解ですとも言えねえんだぞ、事実ですなんて言うわけにもいかねえだろ……ッ! それに人がせっかく忘れようとしている事を……ッ!! 俺の心の叫びが少しは通じたのだろうか。 桐乃は、あ、という感じに口を閉じると、頬を赤くしながら、俺から目を逸らした。 「ご、ごめん」 「い、いや、いい。とりあえず忘れてくれ」 「え、あ、う、うん……」 なんでそんな歯切れ悪いんだよ。 眼は泳いでるし、態度だけ見ると寧ろ記憶に焼き付けておきました的な感じなんですけど。 まさかそこまで非道じゃないよね? 桐乃にも良心ってのはあるよね? カリビ○ンコムが可愛く思える程、俺の中の黒歴史なんだぜ? まあ、流石に桐乃もお袋とかに「京介があたしの手コキで逝ったんだけど」とか言いふらしはしないだろう。 そうなったら、問題になるのは俺だけじゃなくおまえもだからな。 ……い、言いふらさないよな。 ね、念の為、あとで釘を差しておくか。 俺が心の中でそんな疑心暗鬼を迎えていると、扉がノックされた。 桐乃が、他所行きボイスで返事をすると、看護士さんが扉を開けて入ってきた。 「はい、夕ごはんですよー」 そう言ってトレイを運んできた……が、デカい。 明らかに一人分じゃない。 「え、これ、多くないですか?」 ついそう突っ込んでしまう。 その突っ込みを待ってたとばかりに看護士さんが答える。 「ふふっ、ここって若い入院患者が居なくて、皆、そんな食べないんですよね。 で、今日は若い患者が居ると料理長に伝えたら張り切っちゃって」 そんなんで張り切ってこんなに大盤振る舞いして良いのか? つか、大丈夫かこの病院。 「ここ、独自の畑を持ってるんですよ。だから、食材は余っててたまに近所に配ってるぐらいなんですよ。 そして、ここの料理長は昔、いっぱしのレストレンのシェフだったんです」 「へえ、確かに今日のお昼に食べた料理はとても美味しかったです」 いや、桐乃、そこは同意するところじゃなくて何このご都合主義と突っ込む所じゃね?! しかも割とどうでもいいご都合主義だな……。 何はともあれ、夕飯に困りそうには無さそうだ。 「因みにまだまだありますから」 「いやいやもう要らねえからっ!? あんたらにとっての若者はどんだけ食うことを想定してんだよっ!」 別の意味で、夕食には困りそうだった。 // すっかり膨れたお腹を擦りながら、椅子に浅く腰を掛ける。 「ふふ、すっかり平らげて貰えたようですね」 食べ終わった食器を片付けながら、看護士さんが笑う。 ……人間、頑張れば出来る事って意外に多いものだ。 明らかに食い切れそうにないご飯を平らげる事も、出来たりする。 正直、ちょっと気持ち悪いが。 「そういえば、看護士さん」 さっきから少し気になっていた事を聞いてみる事にする。 「なんですか?」 「他に若い入院患者が居ないって言ってましたけど、隣に居ますよね?」 若い少女。改めて考えてみるが、あれは大体妹と同じ年頃じゃないだろうか。 まあ、確かに沢山食いそうにはなかったけど、若い患者ではあるだろう。 「…………え?」 しかし俺がそう言った瞬間、看護士さんの顔が引きつった。 何だか嫌な予感がする。 「……そうですか。あなたには、見えるんですね」 え、え、え、ありがちだけど、まさかこれって。 「ゆ、幽霊とかそういう話ですか?」 「ちょ、あんた、何を話し始めてるワケ!?」 俺が話したくて話してる訳じゃねえよ! 「……そうですね。あなたには、見えた」 俺の質問に対しての回答なのか、或いは確認なのか看護士さんは何度か頷いてみせた。 「俺、霊感とか、そういうのないんですが」 多分。だって今まで見えた事無いし。 「あの子は、霊感とかそういうので見えるって訳じゃないんです。 ……そうですね。あの子が見せたいと思った人にだけ、見えるといいますか。 条件があるんですよ」 ……条件? ふと桐乃を見る。……耳を防いで目を閉じてやがる。 こいつ、こういうホラー、本当嫌いなのな。 「そう、あの子はですね、妹だったんです」 「マジで!?」 おまえ、耳を塞いでたんじゃねえのかよっ! 読唇術か!? 妹という単語にイキナリ反応をしてみせた桐乃に、若干看護士さんは引いている様子だったが、それでも話を続けた。 「ええ。本当に仲の良いお兄さんが居まして。元々病弱だったその子は、それでもお兄さんが見舞いに来ると目一杯にはしゃいでみせて。 それはそれは、可愛らしい笑顔で。とても見てて微笑ましい光景でした」 桐乃は黙って看護士さんの話に耳を傾けている。 俺は俺で、他所の話をこうして勝手に聞いていいものかなんて考えてたりしたが、話の内容が気にならなくもないので黙って聞くことにする。 そもそも看護士さんの守秘義務ってのは大丈夫なのだろうか。 「そして、ある日。お兄さんが……事故で亡くなってしまいました」 「な、なんで」 「……妹さんを見舞いに来る途中で、妹さんが欲しがっていた本を抱えて、車に轢かれてしまったそうです。 当時の話で聞く限り、本が坂道を転がってきて、それを追うような形で人が車の前に飛び出したという事でした」 「…………」 桐乃が、俯く。 俺は、続きを促した。 「それで、妹さんは」 「それから徐々に容態を悪くして……。ある日、病院を抜けだして……」 当時の事を思い出しているのか、苦渋の表情を浮かべている看護士さん。 そこにあるのは後悔なのだろう。 「……お兄さんが事故にあった現場の直ぐ近くで、力尽きて倒れている妹さんが発見されました」 …………。 俺も桐乃も、ただ黙っている。 「それから、数日後。病院で幾つかの目撃情報が語られました。黒髪の女の子を見た、と。 あの妹を見たという申告が出てきたのです。 そして、それを申告してきたのは、どの人物も……」 何となく、答えが分かった。 「兄、だったという事ですね」 「……はい。といっても、全てのお兄さんが見えてた訳じゃなく、なんて言いますか。 とても仲のいい兄妹の兄だけが、見えてたみたいですね」 仲の良い兄妹。 果たして、俺達はそんなに仲の良い兄妹だろうか。 少なくともその女の子には俺たちが仲の良い兄妹に見えたのだろうか。 いや、そもそも初めに見た時、俺はまだ妹に会ってなかった。 仲が良いかなんて……ああ、そうか。 妹の為に、こんな荷物を持って必死にやってきたその姿が……被ったのかも知れない。 「……黒髪の、女の子」 桐乃が繰り返す様に呟く。 何故か少し青ざめているようだ。 「どうした、桐乃。……怖いのか?」 そんな怖い話にも思えなかったが、怖がりな桐乃にとっては怖い話だったのかも知れない。 「な、何でもない」 しかし、桐乃は首を振って、それを否定する。 まあ、桐乃だからどちらにしろ肯定をする事はないだろうが。 看護士さんはそんな俺達を見て、優しく微笑むと最後にこういった。 「決して悪い霊って訳じゃないです。だから安心してください。もし、また見かけたら……頭でも撫でてあげてください」 // 幽霊、か。 俺は今回、始めてそれを見た訳だが、高揚感も無ければ恐怖も無い。 確かにあの女の子にそんな悪意は感じられなかった。 始めてあった時、残念がっていたのは本当の兄じゃなく違う兄だったからだろう。 あの子は本当の兄が迎えに来てくれる事を未だに待っているのかもしれない。 「ねえ、あんた、……何考えてんの?」 そんな事を考えていると、桐乃からそう質問を投げかけられた。 「別に。……ただ、な」 「……さっきの話?」 「……まあな」 桐乃の方に視線を向けると、桐乃が何だか複雑そうな表情で俺を見ていた。 「その子……。お兄さんが本当に好きだったんだろうね」 「かもな」 「だから、……今も待ってるんだ」 どうやら、桐乃も同じような結論に達したらしい。 そう、今も待っている。 お兄さんが、迎えに来てくれる事を。 「ねえ、あんた」 そして、桐乃が言う。 「まさかと思うけど……」 「……そのまさかだ」 呆れたように、言う。 「ホント……お人好しの馬鹿よね、あんた」 「ほっとけ」 そう、俺はお節介を焼こうとしている。 その幽霊の女の子に。 だって、悲しいじゃねえか。 妹が兄を待ち続けてるだけなんて。 兄だって、そんな事を望んじゃいねえ筈なんだ。 俺は干していた自分の服を掴むと、桐乃へと振り向いてこう言った。 「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」 「…………」 対して、桐乃の返事は無かった。呆れてるんだろうか。 「あ、あんたは……」 「あん?」 「絶対に戻ってきてよね」 何を今更。 軽く笑ってみせて、俺はそのまま病室を後にする。 隣の病室に目をやってみるが、そこに姿は見えない。 今は、まだ。 // 夜。 街灯が幾つかあるとは言え、道は暗かった。 そう、俺は今、外を歩いている。 特にこれといってアテがある訳じゃなかった。 暫く歩いて、何も見つからなかったら帰ろうと思っていた。 ただ、なんというか兄の直感がこの先に何かがあると告げていた。 今日、登ってきた道。 妹の事で頭が一杯だった上り道。 そこを今下っている。 看護士さんの話じゃあ、兄は妹を見舞いに行く途中に事故ったって話だ。 住んでた場所によるが、恐らくは街の方から登ってきた筈だ。 妹が欲しがっていた本を買ってきたのだから。 道は決して複雑じゃない。 となれば、ここを下っている途中に、その問題の現場は見つかるだろう。 そして、俺は見つけた。 街灯の下、置かれた花束。 タイヤのブレーキ痕。 そして―― // 京介が病室を出ていった。 全く、本当にお節介なんだから。 相手が幽霊であっても何とかしてやろうなんて馬鹿じゃんと思う。 さて。それじゃ、あたしも動かないとね。 恐らく京介は事故現場を見に行こうとしているんだろう。 そこに兄が何かを残してないかと考えたりしてるんだろう。 本当……お人好し。 ただ、その為に妹を一人にしていくってのはどうかと思うけどね。 あたしは、ベッドから足を下ろしてスリッパを履くと、そのまま病室を後にする。 向かうは隣の部屋だ。 あたしは、確認しなくちゃいけない事がある。 // 一人の男が立っていた。 自分の事を棚にあげていうが、こんな真っ暗の中、街灯の下にただぽつんと立っていると不審人物もいいところだ。 ただ、顔は非常に穏やかで、優しい表情を浮かべていた。 好青年という印象だ。 歳は俺より少し年上という感じか。 「……よう」 俺はそいつに声を掛ける。 そいつは、黙って俺の方を見た。 人違いだったらどうしようとも思ったが、俺はそのまま、言葉を続ける。 「妹の為だってなら、手を貸すぜ」 だが俺は殆ど確信していた。こいつが、あの黒髪の女の子の兄だって。 だって、よく顔が似ている。 若いのに、大人びた雰囲気。 『……違うよ』 その男はそう声を出した。 つか声、出せるんだ。 考えてみれば、黒髪の女の子とも俺、話してたもんな。 「違う? 何がだ?」 『僕は、忠告に来たんだ。君にね』 ……忠告? 『今の僕には妹を助ける事が出来ない』 「な、なんだよそりゃ」 妹思いのいいお兄ちゃんだったんじゃないのかよ。 『僕はここから動く事が出来ないんだ』 「……どうしてもか?」 『どうしても、さ』 その声色には苦渋が込められていた。 『けどね、まだ諦めてない。だから僕はこれからも足掻き続ける』 しかし強い決意が感じられた。 「……そうか。それで、俺が何か手伝える事は?」 『無いよ』 ねえのかよ。 『少なくとも、僕が妹の事は何とかする。君だってそうだろう?』 「…………」 まあ、そうだ。妹の事は、兄が何とかする。 それが俺の信義でもある。 だから、助けはいらないというのか。 『そして今も妹の為に何とかしようとして君と話している』 「……なんだ、結局助けが欲しいんじゃねえのか」 『違う。いいかい、君はもう妹に会うな』 ……嫉妬? 『違う。妹は……君に目をつけている。いいか、妹は長い孤独から錯乱している』 「幽霊でも錯乱すんのか?」 『するんじゃないかな。現にしている訳だし』 そうだったのか。 「それで?」 『……妹は、君を兄として捕えようとしている』 ……なんだそりゃ。 何か黒猫と話してるみたいな気分になってきたな。 『君の妹が、今、俺の妹と接触してる』 「……どういう事だ」 『くく。いきなり目の色を変えたね』 「茶化してんじゃねえ、念仏唱えんぞ」 『ははっ。いいかい、君の妹はね――』 // 「……やっぱ、あんただったワケ」 306号室。 あたしの部屋の隣。 あの馬鹿が間違えて入った部屋。 今、そこの部屋の主とあたしは対峙していた。 『それについては謝罪するわ。でも大怪我にはならなかったでしょ』 黒髪の女の子。 あたしと同じぐらいの歳に見える。 綺麗な黒髪、色白の肌。まるで何処かの邪気眼女を思い出す。 顔を見ると、それが違う事が分かるんだケド。 あたしは、この女を見ている。 そう、それはあたしが合宿中に道を歩いていた時の事。 あたしの視界の前に突然現れて、そして、そのまま車が走ってきている道に飛び出した。 咄嗟の事によく分からないながらも、助けなきゃと思って、あたしはその女を突き飛ばそうとして。 ……今、こうして病院に居るってワケ。 「……目的は、あいつなんでしょ」 『見かけによらず、頭は良いようね』 言っておくけど、あたし県内トップクラスだからね。 「なんで、あいつなワケ?」 『だって良いお兄さんじゃない』 ……どいつもこいつも。あいつの事をいいお兄さんだって言う。 あいつのどこがそんなにいい兄貴なワケ? あんな、死んだ目で冴えない顔したような地味顔の奴なんて、幾らでも居るっしょ。 ……まあ、確かに? たまーにやる気を出した時とか、真剣な表情をしてる時とかはさ、ちょっと、カッコイイかも、とは思うケド。 それにそういう時に出す声が、とても真剣で優しくて……。 時々、凄い優しい表情であたしの頭を撫でてくれて……。 馬鹿で泣き虫で、ヘタレで、変態の癖に兄でいようとして、でもでも、それでも……凄い優しい表情を浮かべてくれる人。 でも、それはあたしだけが知っていればいい事。 「あたしはね、あたし以外の口からあいつの褒め言葉を聞くとムカムカすんだよね」 『……歪んだ愛情ね』 何処と無く呆れた様な表情を浮かべられた。 「うっさい。大体、あんた、あいつの何を知っているワケ? どう考えても殆ど知らないっしょ」 『……あの人が、優しいことを知っているわ』 う……。確かにそれは重要な部分だ。 「で、でもヘタレだし」 『最終的に貴女を傷つける結果になる事を恐れてるだけでしょ』 「え、そ、そうなの?」 『……貴女の方が、あの人の事、何も分かってないんじゃなくて?』 むぐぐ。く、悔しい。 つか口調があの電波女と似てない? 何か凄いムカツクんですけど。 まさかあの糞猫の生霊じゃないよね? そうだったら殴るんですけど。 『私の方が、あの人のことを分かってあげられる。貴女と違って』 「う、うるさい! だ、大体、あんたにはお兄さんが居るんでしょ!?」 『居るわ。けど、それが何?』 「だったら、べ、別にあいつは要らなくない?」 黒髪の女は、真っ直ぐな笑顔で答えた。 『居るわ。だって、兄と違ってずっと一緒に居られるでしょう?』 …………。 「な、なにそれ。兄とだって、ずっと一緒に居られるじゃん」 『居られないわ』 「なんで!?」 『理由が必要?』 ギリ、歯を噛み締める。 言われなくても、……分かってる。 ケド、こうやって指摘されるのは凄いムカツク。 だって、だって、それはあたしらの問題で、あんたらには関係ない。 いいじゃん、夢を見たって! これだけ色んな成果を出したじゃん、だから一つぐらい許してよ。 想像でも、それが嘘の関係であっても。 まるで恋人みたくなりたいと願ったって良いじゃん……っ! 恋人になりたいなんて……思わないから、せめて。 まるで恋人の様な兄妹になりたいと願ったって……良いじゃん。 『……私もね、兄と結ばれたいと願ったわ』 「え……」 『けどね、それが双方の関係にとって果たしていいことなのかしら?』 「…………」 …………っさい。 『自分の事だけじゃなく、相手の事も考えた時に』 「うっさい!!!!」 あたしの怒鳴り声に、黒髪の女の子が怯んだように目を見開く。 「そんなん知ってるって言ってんでしょ! でも、そんなんで割り切れないから困ってんでしょっ!? 大体ねえ、そんなの知ったこっちゃないのよ、相手の気持ち、そんなのわかんないっ! あいつが何を考えてるかなんて、全く分かんないっての! だって、あいつ、シスコンだとか、妹が大好きだとか言ってる癖に、たったの一度も……! たったの一度も、あたしを好きだなんて言ってくれてない! じゃあ、何、あたしが妹じゃなくなったら、なんなの!? あたしは、あいつにとって何になるの!? 妹だから傍においてくれるワケ!? 妹だからあんなに優しく髪を撫でてくれるワケ!?」 ここ数日、抱えていたもやもや。 京介が、あたしを海外まで迎えに来てからずっと続いているもやもや。 あいつにとって、あたしは何なのか。 それがずっとずっと分からない。 「もしそうなら、そうだっていうなら…………ッ! ふざけんなって思うっ! 嬉しいけど、悲しいのっ! だって、だってそれじゃ、それじゃあ、あたしのこの気持ちは……ッ! 気持ちはッ……!!」 ボロボロと涙が出て止まらない。 悲しい、凄く悲しい。 自分で言ってて気付いてる。 あいつが、なんであたしに優しくしてくれるのか。 そのわけを。 それを認めたくなくて。 それが認められなくて。 あたしは今回の入院をチャンスだって思った。 これが、唯一無二のチャンス。 現状を、あたしが望む方法に変えられる絶好のチャンス。 だから、だから。 「……あんたなんかに絶対渡さない」 ガチャ、扉が開かれる。 「桐乃……ッ! 無事か!」 「…………!」 そこに息を切らした人物が、入ってきた。 言うまでもない、あたしの兄貴。 全身を汗だくにして。 風呂に入ったばかりだというのに……。 「馬鹿じゃん、無事だっての」 // 「馬鹿じゃん、無事だっての」 桐乃は、そういってケラと笑って見せる。 しかし、その表情に反して、桐乃の頬には幾つもの涙が流れていた。 「…………」 そして、その桐乃と対峙している黒髪の女の子を見やる。 その女の子は既に桐乃を見ていなかった。俺を真っ直ぐと見ている。 『待っていたわ、お兄さん』 「……ああ、俺も会いたかったぜ」 その視線に対して、真っ直ぐと睨み返してやる。 こいつの兄貴と話して知った、こいつの目的。 俺を兄として捕えようとしている……いや、俺を兄の器に仕立てあげようとしている。 未だにどういう意味なのかは良く分からないが、分かる事は一つ。 こいつは兄と会いたいのだ。 そして俺に対してなんちゃらして、あの場所に捉えられている兄を移して? なんだっけか、依代? 媒介? 正直、良く分からない。 黒猫ならあっさりと「ふっ、そういう事ね」とか言いそうな感じだが生憎としてあいつは今ここに居ない。 ただ重要な一点。 こいつが兄に会いたいという事だけは分かった。 だからよく分からないなりに、協力するって言ったんだが。 ――君にも妹が居るんだろう。なら、それは出来ない。君の妹が悲しむだろうから。 と彼は言っていた。 ……あいつが悲しむのであれば、残念ながらそれは出来ない。 俺の人助けは、あくまで妹が悲しまない範囲内で、と制約が決まっているからな。 だから、俺は俺なりに、妹が悲しまない方法で最良を果たすだけだ。 『こうやって、私に会いに来てくれたって事は』 「うおおおおおおおおおおおッ!!」 『きゃ、なに!?』 相手が幽霊というのは始めてだが、何事もやってみないと分からない。 人間、意外と出来る事は多いものだ。 俺は、その女の子の身体をがしりと、掴んだ。 「え?」 桐乃がぽかんとした声を上げる。 ……ああ、あとで桐乃に怒られるんだろうな、俺。 まあ、悲しまれるぐらいなら、怒られる方がいい。 『え、え、え?』 そして、俺はその小さな身体を、強引に抱きしめた。 「え、えええええっ!? ちょ、あんた、な、ななな、何してるワケ!?」 『~ッ!? ! ? ?? !!』 じたばたともがく身体を強引に抑えこみ、そして片腕で女の子の両腕を塞ぐ形を取ると、そのまま、残った手で。 『な、なにをするつもり……ぁ』 くしゃ。 頭を、撫でてやった。 「……悪い、俺はおまえの兄貴にはなれねえ」 『………………』 優しく、兄が妹にするように、髪を撫でてやる。 「けどな、兄貴だったら、妹にこうしてやりたい筈なんだ」 『…………ひっく』 そうだろ、あの兄貴もまた、ずっとこうしてやる為だけに、足掻き続けているんだ。 その幽霊の制約なんかで、よく分からない地面に縛り付けれれて尚、成仏せずに。 「だからな、約束する。あんたの兄貴は、必ずここに辿り着く」 『ぐず……ほ、ホント?』 先ほどまでの大人びた雰囲気がなくなり、女の子は歳相応の言葉で俺に聞く。 「ああ。だからな、待っててやってくれ。あんたの兄貴を、信じてやってくれ」 『…………』 「兄ってのは……泣いている妹の為ならどこからだって駆けつけてみせるんだからよ」 現に俺だって、海外まで迎えにいったんだぜ? もしあれが、魔界だったとしても、きっと俺は迎えにいった筈だ。 だって、妹が泣いているんだぜ? それ以外に理由が居るか? 『……わかった』 こくんと頷く姿。 途端に、俺の腕が宙を撫でる。 ふぅ、と目の前の姿が消えていく。 「…………あれ?」 もしかして成仏すんの? あれ、いや、成仏した方がいいだろうけど、あれ、迎えにくんの、待たねえの? 『待つよ、ずっとずっと』 声だけが、そう響いて。 そして、そのまま、完全に気配を消失した。 …………。 「……ふぅ、どうにかなったな」 「…………」 「で、なんでおまえは泣いてんだ?」 「…………ッ!!」 ブォン、という恐ろしい音を放ちながらスリッパが飛んできた。 「うおっ!? あ、あぶねえ! な、何しやがんだ!?」 「うっさい! 馬鹿! 大体、何抱きついてるワケ!? 信じらんないっ!」 「いや、俺もまさか幽霊を抱きしめる事が出来るなんて思わなかった」 一応気合入れてみたんだが、あの気合が大事だったんかな。 「そういう問題じゃないっての! この、こんのっ!」 もう片方のスリッパを武器に、俺に攻撃を開始する桐乃。 よ、予想以上に切れてやがる。 何があったって言うんだ。 「大体、あの女! 結局兄貴が好きなんじゃん! くそ、何、これ、あたし嵌められたって事!?」 「な、なにされたんだ?」 「うるさい! うるさいうるさいうるさい!! あー、もう、なに、これ、ムカツク、ムカツクムカツクッ!!」 「お、落ち着けって。ほら、ここ病院だから、これ以上騒いだら不味いって!」 流石にそろそろ苦情の一つでも飛んできそうだ。 「うううう、もういいっ! あたしは寝るから、あんたはここで一晩過ごしてッ!」 「げ、マジかよ……!?」 「マジだから。ほら、ついて来ないで。あたしはあたしの部屋に戻るの。あんたはここに居るの。もう決まった事だから」 「いやいや、山の中ってさ、何か予想に反して結構寒いんだよね。ここ、暖房点けていいか分かんないしさ」 「そんなのあたし知んないし。じゃ、そういう事だから。付いてきたらノーパン変態野郎って叫ぶから」 そう言って肩を怒らせながら、桐乃は病室を出ていく。 「…………」 あれ、俺は一体どこで選択肢を間違えたんだろうな。 妹と仲良くしようとしてた筈なんだが。 つか、妹の部屋に毛布置いてきちまったし。 ここのベッド使っていいのかも分かんないし。 汗で身体冷えてきたし。 ……グズ。あれ、俺もう風邪引いたのかなあ。 ――結局。俺はそこで床に体育座りで座り込みながら朝を迎えたのであった。 // 翌朝。 待合室にて、引率の先生に必死に頭を下げられてどうしたものかと思っていると看護士さんたちの話し声が聞こえた。 昨日の夜、どこかでポルターガイストみたいな現象が発生したらしい。 誰も居る筈がない病室で男女が騒ぐ様な音が聞こえたんだとか。 …………。 遠からず間違えてないし、正直に言わなくて大丈夫だよね。 結局、桐乃の検査入院の結果、脳波などに異常は無いとの事。 無事で何より。 引率の先生は、朝一で俺に謝りに来た。 昨日は、既に面会時間が過ぎていた事から会いにこれなかったとか。 ……全然気付かなかったな。 何度か電話したらしいが、あいにく電波が無くて掛からなかったし。 ただ先生はそうは判断しなかったらしくて、怒っていると思ってこうして朝早くから来てくれた訳で。 やっぱ、人の文句を言うもんじゃねえな。 悪い先生には思えないし、入院費を全て払うとか言ってたが、俺は断っておいた。 一応、貯金全額下ろしてきたし。入院費はどうにか払いきれそうだったしな。 冷静じゃなかったとはいえ、先生の事を悪く言っちまった負い目もあったので、これでこっそりチャラにしておく。 さて。 今、俺達は病院を後にしている。 たった一日、時間にして24時間にも満たない時間しか俺は居なかったが、色々あった。 結局、何かは変わったんだろうか。 それはまだ分からない。 桐乃は、根に持つ方なので多分、家に帰ったらもう一騒動が起きそうに思う。 でも、まあ、それでいい。 死んだ後も、一緒に居たいと願う兄妹を見て、俺は考えたのだ。 兄妹関係も、親子関係や、そして恋人関係に匹敵する程の重みを持った関係なんだと。 俺より先にがんがんと進んでしまう妹。 身軽なもんだ。 それに対して俺は、桐乃の為に持ってきた荷物。そして、合宿の時の荷物を纏めて持たされて。 ひぃひぃ言いながら、妹の後を付いて行く。 でも今は文句を言うまい。 こうして、足が前に動くだけ、妹の後を追えるだけマシなのだろう。 だから今は、こうして妹の後を追いかけていく。 こういう関係も、俺は決して嫌いじゃないのだから。 つづく。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/331.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291723688/191-201 「おはよう、お兄ちゃん」 あの日、 「黒猫と付き合うことにした」 そう告げた日から、桐乃が変わってしまった。 今までの人を馬鹿にしくさったムカつく態度はどこへ行ってしまったのか、 まるで以前の桐乃が夢中だった妹モノのエロゲーに出てくるような テンプレな“兄思いのかわいい妹”のようになってしまったのだ。 毎朝、俺の部屋まで起こしに来るし、 もちろん途中まで一緒に登校する。 放課後は繁華街で待ち合わせし、買い食いをしたり ゲーセンで遊んだ後、一緒に帰る。 食事時は一切目を合わさず、黙々と箸を動かしていたのが 今では笑顔で俺に話題を振ってくるし、ご飯だってよそってくれる。 口を開けば「キモッ」だの「ウザッ」だの言っていた姿が遠い過去のように 「お兄ちゃんだいすき」オーラを放つ姿に親父もお袋も初めこそ面食らったが、 「まあ、ケンカばかりしているよりはマシなのかしらね」 と、結局深く考えるのをやめてしまった。 桐乃の変化は、本来なら歓迎すべきことなのだろうが、 俺は、なんだか居心地の悪さを覚え 落ち着かない日々を過ごしていた。 どうしてこうなった?」 深夜、自分の部屋のベッドに寝そべり、ぽつりとつぶやく。 確かに以前の桐乃はムカつくヤツだったさ。 口は悪いし、感謝もしねぇし、謝りもしねぇ。 溢れる才能と美貌、ことあるごとにお袋やご近所さんに比べられ どれだけ肩身の狭い思いだったことか察して頂きたい。 俺達は長い間、まるでお互いがそこにいないかのように存在を無視し続けていた。 共に生活する家族でありながら、他人以上に他人だったと言っていいだろう。 それが桐乃の趣味を偶然知っちまったことをきっかけに それまでの関係は一変した。 今でもムカつくヤツであることは変わらないが それでもやっぱりあいつは俺の大切な妹で 桐乃の泣いた顔や苦しむ姿は見たくないし、 その為だったら多少の苦労は仕方がないさと思える程度にはなった。 俺の勘違いでなければ、ほんの少し「近づけた」ような気がしたんだ。 だから、今のような関係は俺が望んだものじゃない。 傍から見れば、“兄思いのかわいい妹”となった桐乃と良好な関係を 築けているように見えるだろう。 だが、そんな正しい妹を演じようとする桐乃には何か空虚なものを感じるし 笑顔を貼り付けた妹の顔はまるで仮面のように感情が読み取れない。 せっかく「近づけた」と思った距離は、 絶望的なまでに離れてしまったように思える。 「なあ、もうこういうのやめにしないか?」 ある日の放課後、俺は桐乃にそう切り出した。 「こういうのって?」 クレープを食べながら不思議そうな顔で首を傾げる。 俺は照れもあってか視線を外し、今の正直な気持ちを伝えようと続ける。 「だからさ、その、なんだ、桐乃らしくないっていうかさ。 無理にかわいい妹を演じる必要なんてないんじゃないか? 俺の前では言いたいこと言ってもかまわねぇし、 自分のやりたいようにしたっていいんだぜ。 エロゲーだって最近まったくやってないみたいじゃないか。 アキバにも行ってないし、あいつらとも連絡とってないんだろ? 俺はさ、いつもの桐乃と黒猫と沙織と一緒にゲームしたり アニメ見たり、遊びに行ったりするのが結構好きになってきたんだ。 何を思ってこんなことをしようと思ったのかはわかんねぇけどよ、俺は……」 「……何それ」 それまで黙って聞いていた桐乃が口を挟んだ。 「わかんない?アンタほんとにわかんない?本気で言ってんのソレ!?」 突然声を張り上げた桐乃に驚いて振り向くと、 怒りに震え、涙を溜めながら俺を睨み付ける桐乃と目が合った。 「アンタがアタシを見てくれないから! いつまでたっても妹扱いしかしてくれないから! アンタが、あの黒いのと、つ、つ、付き合うなんて言うから! 諦めるしかないじゃん! 今までどおりでいられるわけないじゃん! だから、だからアタシは“妹”でいようって、 おとなしく“妹”って立場で我慢しようって、 だからアンタが好きそうな“妹”になろうって、 それなのに何!?もういい?無理するな?いつものアタシ? ふざけんな!人がどんな思いでこの立場を受け入れたと思ってんの!?」 それまで溜め込んだ激情を一気に爆発させる桐乃を前に 俺は言葉を失い、口を半開きにしたまま桐乃を見つめる。 「“妹”でもいい…… たとえ“妹”でも側にいられるならそれでいい だって、アンタが言ってくれたから「大切にする」って だからそれで充分だって、そう自分に言い聞かせたのに。 なのにアンタはそれすら否定するんだ…」 いつの間にかあふれ出ていた涙を拭おうともせず 先ほどの反動か、息を切らしぐったりしながら俺を見つめる。 しばし無言で見つめあう俺達。 「……わかった、もういいよ」 桐乃が消え入りそうな声でつぶやく。 そして、無理やり笑顔をつくり 「バイバイ、お兄ちゃん」 そう言って桐乃は、とぼとぼと立ち去っていった。 俺はというと、今しがた起きた状況を脳が処理しきれず 「行くな」と叫ぶことも、腕を掴むこともできず、 桐乃の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くすことしかできなかった。 「なんて情けない顔をしているのかしら」 涼しげな声で、俺の隣に腰掛けている黒猫が話しかける。 今日は以前からの約束(デートだよ。言わせんなはずかしい)で 黒猫とアキバを散策し、今は公園のベンチで一休みしているところなのだが、 昨日の一件のせいで一睡もできず、 とてもじゃないがキャッキャウフフする気分ではなかった。 ちなみにあの後家に帰ると、 まるで何事もなかったかのように平然と食事をする桐乃の姿があった。 (門限を越えるまであの場に残り、あわてて帰宅した俺は当然飯抜きだった) ただ、その表情や態度は「人生相談」を受ける以前、冷戦状態だったあの頃の桐乃だった。 くそっ、結局逆戻りかよ。 「仮にも恋人である私との逢瀬だというのに もう少し楽しそうな顔はできないの? それとも昨晩は大好きな妹とお楽しみで、 精気を根こそぎ吸いつくされたのかしら?」 「……冗談でもそんなこと言うんじゃねぇよ。 特に今はな」 桐乃が俺にぶつけた感情は、俺の自意識過剰や勘違いでなければ その、そういうことなんだろ? でもな、それを知ってしまった所で俺にどうしろって言うんだ? 今更言うまでもないが、桐乃は俺の妹だ。 エロゲにありがちな義妹とかいうオチはなしだ。 確かに俺は桐乃のことは大切だし、守ってやりたいとも思う。 だがそれは桐乃が妹だからであって、それ以上の感情なんてない。 ……ないはずだ。 ……ないですよね? だったら、このモヤモヤした気分は一体なんなんだ? 桐乃の想いを聞かされて、妙に意識しちまってるだけ? 本当にそれだけか? 「あなたが今何を考えているか手にとるようにわかるけれど 私といる時に他の女のことを考えるなんていい度胸だわ。 命が惜しくないようね」 「なあ黒猫、俺はどうしたらいいんだ?」 「……人の話を聞きなさい。まったくあなたという人間は 妹が絡むと途端に周りが見えなくなるのね。 はぁ……仕方がないから聞いてあげるわ。 何があったのかしら?」 俺は文句を言いながらも相談にのってくれる黒猫はなんていいヤツなんだろうと 心の中で感謝の涙を流しつつ ここ最近の桐乃の豹変っぷり、昨日の顛末、 そして今のモヤモヤした気持ちを包み隠さず話した。 「あなた莫迦でしょう」 絶対零度の視線と侮蔑の表情で黒猫が言い捨てる。 「ヒドッ!それが真剣に悩んでる彼氏にかける言葉!?」 「何が真剣に悩んでいるよ、笑わせないで頂戴。 そこまで答えが出ているというのに あなたはそれでもまだ目をそらし続けるというの? 今までの己の行動や言動を思い返してみなさい。 どうすればいいかなんてとっくにわかっているはずよ。 あの女は臆病風に吹かれて舞台から降りた。 でも私は違う。私は舞台に立ち続けるし、主役の座を譲るつもりもないわ」 「な、なんの話だ?答えってなんだよ?目をそらすって一体……」 「ここまで言ってもまだわからないというつもり? それとも、あくまでわからない振りをして道化を演じ続けるというの? そう、それなら私はあえて憎まれ役になってあげるわ。 頭の悪いあなたにもこう言えば理解できるかしら あの子、高坂桐乃はあなたのことを愛している。 妹が兄に向けるレベルでは済まされない、ひとりの異性としてね。 そして高坂京介、それはあなたも同じはずよ」 俺も同じ? 俺が? 桐乃を? あのクソ生意気な妹のことを? ……そうか、そうだよな。 そうさ、桐乃が俺のことを好きだなんてとっくに気が付いてたし 俺が桐乃のことを好きだという気持ちにも気が付いてたんだよな。 それなのに俺は兄妹だからとか、あいつは俺を嫌ってるに違いないだとか 適当な言い訳で自分の気持ちを押し殺し、 桐乃の気持ちに気付かない振りをし続けたんだ。 それは桐乃を深く傷つけ、ついに埋めようがないほどの溝を作っちまった。 俺の表情の変化を見た黒猫は少し間を置いたが、やがて静かに語り始めた。 「あなたはあの子へ愛情を注ぎながらも、常に妹だという枷をはめ続けた。 あの子の想いには答えてやらないくせに、自分勝手な独占欲で縛り続けた。 そんな状態で、あの子はどれだけ苦しんだと思ってるの? 私はそんな現状が我慢ならなかった。 だから行動を起こせば何かが変わるんじゃないかと思った。 あなたを好きな気持ちに偽りはないわ。 でも私が動くことで、あの子も本気になるかもしれない。 対等の立場でこそ、初めて同じスタートラインに立てるというものよ。 ハンデをつけられた勝負で得た勝利に価値なんてないわ。 あの子は結局勝負を投げてしまったけど、 あなたの神がかり的な鈍さのおかげで本当の気持ちを伝えてしまった。 今度はあなたが行動を起こす番よ。 ここに留まることを選ぶというのなら好きにすればいいわ。 でも、あなたが選ぶ選択肢は最初からひとつしかないのではなくて? さあ選びなさい。 あなたはどうしたいの?」 俺が選ぶ選択肢は… 言うまでもないよな? 俺はおもむろに立ち上がり、黒猫の目を見て決意を伝える。 「すまねえな、黒猫」 「あやまらないで頂戴、 敗者に情けをかけたつもりなら、気が早いわよ。 言ったでしょう同じスタートラインに立ってからが本当の勝負だって。 勝ちを譲るつもりはない。 必ずあなたをもう一度私の前に跪かせてみせるわ」 自信に満ちた表情で黒猫が微笑む。 俺は軽く手を上げ、家路を急いだ。 「まったく世話の焼ける兄妹ね…」 桐乃の部屋の前に来た俺は、 深呼吸して気持ちを落ち着けるとドアをノックした。 「桐乃、話があるんだ。開けてくれないか」 沈黙。 やっぱりダメか?そう思った瞬間、扉がわずかに開き 桐乃が視線をよこした。 「何?アンタと話すことなんて何もない……」 何の感情も読み取れない平坦な声色で桐乃が拒絶の意思を伝える。 俺は臆することなく桐乃の目を見つめ 懐かしいフレーズを口にする。 「実はおまえに、人生相談があるんだ」 「は?アンタ馬鹿なの?死ぬの?それともあてつけのつもり? アタシをからかうのがそんなに楽しいの?マジ最低……」 すぐに閉めようとしたドアに俺は強引に足をはさむ。 こんな序盤でGAME OVERになるわけにいかねぇよな。 「くっ、頼むよ、マジなんだ。5分でもいい」 桐乃は心底うんざりした顔で俺を睨んだが、やがて根負けしたのか 「……入って」 そう言って部屋へ入れてくれた。 「で?相談って何?さっさと済ませてくんない。 マジウザいから」 「じゃあ簡潔に言うぞ。 俺は妹のことを本気で愛してしまったんだが どうしたらいいと思う?」 「な!?あ、あ、アンタ、な、な、なに言って……」 いつかのように目を見開いて呆気にとられる桐乃。 だがすぐに耳まで真っ赤になって激昂する。 パアァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!! スポーツ万能妹様の本気の平手打ちを喰らい思わず吹っ飛ぶ。 「痛ッてぇぇぇぇぇぇぇぇっ! なにすんだよオマエ!?」 「ふざけてんの!?マジブッ殺すわよ!!!!!!!!!!! アタシの気持ちをこれ以上踏みにじらないで!」 怒ゲージがMAXになった桐乃はそう叫んだ後、涙目で俺を睨みつける。 マジ怖ぇ。 だが、俺もここで引くわけにいかねぇ。 俺は桐乃の両肩を掴み、吐息がかかるくらい至近距離で言い放つ。 「冗談や悪ふざけでこんなことが言えるかよ! 俺は本気だぞ。 本気で桐乃のことを愛してる!」 「バカ!お父さん達に聞こえたらどうすんのよ! わかったから、キモいセリフを大声で叫ぶな!」 桐乃があわてて俺の口を両手でふさぐ。 すっかりペースを乱されたことに、しまったという顔をする。 少し声のトーンを落とし、改めて俺に向き合う。 「アンタいったいどういうつもり? 返答次第ではアンタに犯されたって泣きながら お父さんの部屋に駆け込むから」 ひぃっ、そんなBAD ENDは絶対に御免だぜ。 社会的にどころか、本当に人生が終了しそうだ。 「桐乃、まずは昨日までのこと謝らせてくれ。 いや、謝って済む話じゃないのは充分理解してるが それでも自分の馬鹿さ加減には本当に反省してるんだ。 このとおりだ。すまなかった」 俺は床に頭を擦り付ける勢いで土下座をする。 「……いまさらそんなことされても アンタがしてきたことがチャラになるわけないじゃん。 もういいから頭上げてよ。ウザいから」 椅子の上でふんぞり返った桐乃が冷ややかな目で俺を見下す。 「で、さっきフザけたこと口走ったケド なんの真似なの? まさかと思うけど、あの黒いのの入れ知恵? 二人してアタシをからかってんの?」 「それは違うぞ。 桐乃、さっきも言ったが俺はマジなんだ。 頼むから茶化さずに聞いてほしい」 「……わかった」 「桐乃、俺はもう逃げねぇ。 自分の気持ちに嘘をつくのをやめる。 桐乃の気持ちに気付かない振りもヤメだ。 平凡な日常とか、あいつらとの関係とかを失うのが怖くて 現状維持という建前で逃げ続けた日々を今日で終わりにするぜ。 だって、俺は桐乃を失うことが一番耐えられないって 気付いちまったからな。 アメリカまでおまえを連れ戻しに行った時も、 御鏡に桐乃は渡さなねぇって宣言した時も、 おまえを失いたくない一心で夢中で行動した結果だったんだ。 今なら言えるぜ。 俺は桐乃が好きだ。愛してる 他のすべてを失っても、桐乃だけは失いたくない。 兄妹だからって構うもんか! 俺のこの気持ちは誰にも馬鹿にさせねぇし もし桐乃を傷つけようとするやつがいたら俺がそいつをブッとばす! 一生おまえを守り抜いてみせる。 一生だ!」 あ~、我ながらなんという恥ずかしい告白をしてしまったのだろう。 しかも実の妹に向かってだ。 だが後悔はしてないし、 今のこいつの顔見りゃあ、間違った選択肢だったとは思わないよな。 「ちょ、い、妹に、マジ告白とか、あ、ありえないんですケドぉ~。 あ、アンタのシスコンもついに極まっちゃった? あ~、キモ!キモ!じ、実の妹に向かって、い、一生守り抜くとか……」 「おまえ、ニヤニヤを我慢しようとして超ヘンな顔になってるぜ」 「うっさい! あ、アンタが恥ずかしいセリフ連発するから。 ……だいたいアンタ、彼女は、黒いのはどうすんのよ? まさか、二又かけるつもり? あんなことやこんなことをして陵辱するつもりなの? リアル鬼畜ルート!?実妹に何するつもり?この変態!」 両手で自分の肩を抱き、驚愕の表情を作る。 「バカ、違ぇよ!このエロゲ脳が!妙な妄想してんじゃねぇよ! あいつは、黒猫はな、笑顔で送り出してくれたんだよ。 同じスタートラインからじゃねぇと、勝負したうちに入らないって。 そのうえでおまえに勝ってみせるって」 桐乃は急に真顔になり、 黒猫の言った言葉を反芻するようにしばらく黙り込んだが やがてニヤリといつもの表情になる。 「あ~、はいはい。厨二病乙。 さぞや自分に酔った顔で痛いセリフ並べ立てたんでしょうよ。 まっ、条件が同じならアタシが負けるわけないケド。 高坂桐乃をなめんなっつうの。 それにアンタはシスコン極めちゃってるしね~」 ようやく桐乃らしいセリフを聞けて、安堵する。 やっぱ俺の妹はこうじゃなきゃな。 泣いたり落ち込んだり、エロゲに出てくるかわいい妹みたいになったりは 似合わないぜ。 桐乃は可愛くねぇとこが、最高に可愛いんだぜ? 「なあ、それって返事はOKって思っていいのか?」 「はぁ?ばかじゃん。今さらなに言ってんの? アタシが今までどんな思いでいたと思ってんの。 鈍感なのが許されるのはエロゲの主人公だけだからね。 アンタの告白はたった今受理したし、 もう冗談でしたじゃ済まさないから。 ま、もし冗談だったらブチ殺すけど」 「さらっと、あやせみてぇなことを言ってんじゃねえよ!」 「とにかく!今まで、できなかったこと全部取り返すんだからね! やりたいこと数え切れないくらいあるし」 頬を染めながらチラチラ視線を送ってくる桐乃を見ていると 俺ができることならなんでもしてやりたい気分になる。 いや、気分じゃダメだな。 「いいぜ、なんでも言ってみろよ」 「じゃ、じゃあ、き、キス……とか……」 「お、おぅ、キスな……」 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? き、キスだと? ま、まあ恋人同士になったんだから、それぐらい普通だよな。 でも、本当に、い、いいのか? だって妹だぞ? 俺が躊躇していると桐乃が不安そうな顔で俺を見つめる。 「なによビビったの?このヘタレ。 それとも、やっぱ、その、き、気持ち悪い……の?」 あぁ~、まったく俺の大バカ野郎! もう桐乃にこんな顔はさせねぇって誓ったんだろ!? 俺は桐乃の肩にそっと触れる。 かすかに震えているのがわかった。 こいつも覚悟決めたんだよな。 「いいんだな? 後悔するなよ」 「後悔なら今まで散々してきた。 だから……いいよ……」 「ん……」 桐乃と初めてのキスをする。 ただ触れているだけなのに 言葉を交わすよりも 桐乃の想いがはっきり伝わってくる。 俺達はこんなにもお互いを求めてたのに どうしてここまでこじれちまったんだろうなぁ。 たぶん俺がもっと桐乃に向きあっていれば 桐乃の言葉に耳を傾けてやれば そしたら、こうして不安を取り除いてやれたんだ。 俺の前で笑ってる桐乃を見ていられたんだよな。 「ふぅ……」 そっと唇を離すと、桐乃が微かに吐息を漏らす。 頬には涙がひとすじつたっていた。 「やっと、やっとここまで来れたんだ…… 夢じゃないよね? アタシ幸せすぎて死んじゃうかも」 嬉し涙を流して微笑む世界一、いや宇宙一可愛い妹を 俺は抱きしめた。 「俺、なんだかおまえを泣かせてばっかだな。 すまねぇ。 これからはもう泣かせたりしねぇから。 おまえがずっと笑っていられるように頑張るからな」 「うん。 ……大好きだよ、兄貴」
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/416.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296227693/889-923 俺、高坂京介高校3年生は、平凡な日々を送る平凡な高校生だった。 だが、疎遠だった妹、高坂桐乃の隠れた趣味を知ってしまった時から、俺の日常は変わってしまった。 桐乃は、妹もののゲーム(18禁含むつーかそれ中心)やメルルという痛アニメをこよなく愛するオタクだったのだ。 それを知ってからというもの、人生相談と称した無茶ぶりを押し付けてくるわ、 オタク趣味に付き合わされるわと、散々な日々を送っていた。 だけど、悪いことだけじゃなかった。 桐乃のオタク趣味に付き合っていくなかで、今の俺にとっても大切な友達が出来たし、いいこともたくさんあった。 だから、今はむしろ感謝している。 俺に、人生相談を持ち掛けてきてくれた桐乃に。 と、前置きが長くなったが、実は今回話したいのは桐乃のことではない。 桐乃の表の友達、新垣あやせの話だ。 あやせは桐乃と同じ中学に通っていて、桐乃と同じ事務所でモデル(自慢ではないが、俺の妹はかなり可愛い)をしている可愛い女の子だ。 桐乃のことを親友として大切に想ってくれており(実は一時期桐乃と仲たがいしてしまったのだが、俺という犠牲を払って仲直りしたことがある)、笑顔が最高に可愛い天使の様な女の子なのだが、桐乃のことを想い過ぎるあまり、とんでもないことをしでかす女でもある。 ぶっちゃけて言おう。今まさにそのとんでもないことがしでかされている。 状況を説明すると、今俺は街道を全力疾走している。 一人マラソンをしているわけじゃないぞ、ちゃんと理由はある。 俺は、全力で逃げていた。 「待てぇぇぇぇぇ!!」 そう叫びながら走ってくる、新垣あやせから。 「待ってたまるかぁぁぁ!!」 「なんでですか!?やっぱりやましい気持ちがあったんですね!!」 「ちげーよ!!」 「じゃあなんで逃げるんですか!?」 そりゃあ逃げるよ。 そんな人を殺さんとするような顔をされながら走って来られてたら。 どうしてこうなったかというと、話は数分前に遡る。 今日一日の授業が終わり、ほっと一息つきながら学校の門をくぐった時、突然声を掛けられた。 振り向いてみると、そこにはあやせがいた。 最初はあやせが俺を待っていたんだと歓喜に奮えていたが、直ぐにその自惚れは冷めてしまった。 だってあやせの顔、口は笑ってても、目が笑ってないんだもん。 俺の天使は、悪魔に変わっていた。 そう、さっき言ったあやせがとんでもないことをしでかす時は、いつものあやせからは考えられない様な変化を見せる。 まさにブラックあやせ。まさに悪魔。 天使の中に悪魔の一面を持つあやせは、現代のルシファーそのものだ。 「な…なにか用ですかあやせサン」 今すぐ逃げ出したい気分だったが、後日何されるかわかったものじゃないので、 話を聞くことにする。 「そんな警戒しないで下さいよお兄さん。ちょっとお話があるだけですから」 そう言って見せた笑顔にはどす黒い何かが漂っている様に見えた。 「今日、学校で桐乃から聞いたんですが…」 嫌な予感がする。 「桐乃がトイレに入っているところにお兄さんが突撃、挙げ句の果てにはどさくさに紛れて桐乃を押し倒したって本当ですか?」 予感、的中。 「ち…違う!それにはちゃんと理由があって…」 「言い訳なんて聞いていません」 弁解をしようとしたところで一蹴。 つか、押し倒すことに理由があるっていうのもおかしいだろ、俺。 「私は桐乃から聞いた話が事実か、そうでないかを聞いているんです」 こうなったあやせには、もはや何も通じない。 唯一通じる答えは、イエスかノーだ。 「…ああ、本当だ」 嘘はつかない。正直に話す。 「…ですよね、桐乃が嘘をつくわけがありませんもんね」 あやせは嘘が人一倍嫌いな人間だ。特に、信頼している人に嘘をつかれると、ヒステリックになる。 だから、あやせの前では嘘がつけない。 もしあやせに嘘をついてしまったら、その火の粉は桐乃に向きかねない。そうなっては前に俺が体を張ってやったことも、なにもかもパーになってしまう。 「あれだけ言ったのに…。まだ桐乃に手を出そうとしているんですね…」 少し落胆した様な表情を見せた(恐らく気のせいだ)あやせは、手にさげていた鞄をゴソゴソしだした。 「そうだ、つねに手を出せない状態にしておけば、私がいなくてもお兄さんから桐乃を護れるんだ…」 「お、俺を殺す気か!?」 「やだなぁお兄さん。そんなことするわけがないじゃないですか」 そう言って、あやせが鞄から取り出したのは 手錠だった。 「つねに手を不自由にしておけば、さすがのお兄さんも桐乃に手を出せないでしょう?」 ふふ、と笑うあやせ。 やはり、悪魔の様であった。 いや、悪魔そのものだった。 「そんな日常の生活にも大いなる支障が出る状態にされてたまるか!!」 俺はあやせを背にして走り出した。 「あ…、待てえぇぇぇ!!」 間髪入れずにあやせも走り出す。 「逃げるなあぁぁぁ!!」 「ひいぃぃぃぃ!!」 振り返ると、射殺せそうな目つきで追いかけてくるあやせが見えた。 どこぞのホラー映画のような光景だ。 だってあやせの瞳、マジ光彩ないんだもん。 こえーす。あやせさんマジこえーす。 俺は走るスピードを更に上げた。 「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」 と、まぁこれが事の成り行きである。 しばらく鬼ごっこをしていた俺達だが、あやせは中学3年生の女の子、それに比べて俺は高校3年生の男。結果は目に見えていた。 しばらく健闘していたあやせだったが、俺との距離はどんどんひらいて行き、遂には見えなくなっていた。 さすがに撒いたかと安心した俺は、近くの公園の木に寄り掛かって呼吸を整えていた。 「ここまで来れば、さすがのあやせも追ってこられないだろ…」 しかし、俺は忘れていた。 あやせはそんなもので諦めるような女ではないことを。 「ふふふ…、見つけ…ましたよ…お兄さん」 ゾクリと、背筋が震える。 声がした方をゆっくりと向くと、そこにはあやせが立っていた。 大分走って来たのだろう、呼吸が荒く、髪もボサボサだ。 「お、お前!なんで!?」 「お兄さんの…行動パターンなんて…把握済みです…。あそこから…走ったら…恐らくこの公園で休むだろうと…思って…先回りしたんです…」 呼吸を整えながら、途切れ途切れにあやせは言った。 「なんだそりゃ!?お前は俺のストーカーか何かか!!」 「な…!私はストーカーなんかじゃありません!!お兄さんが桐乃に手を出してないか、お兄さんの行動を調べていただけです!!」 あやせさん、それを世間ではストーカーと言うんですよ。口には出さないけどさ! 「さあ、おとなしくして下さいお兄さん。動かなければ痛くしませんから」 そういってゆっくりとこちらに近づいてくるあやせ。 「そう言われて、はいわかりましたとおとなしくする奴がいるか!!」 いたらそいつはドMだ、変態だ。 俺は再び走り出した。 「あ、待て!!」 そう言ってあやせも走り出す。 しかし、今度は先程と同じ様には行かなかった。 今まで走ってきて、まだ疲れているのもあるだろう。 もともと走りに向いていないローファーだったこともあるだろう。 ガツッ。 地面に出ていた木の根っこに引っかかり、あやせの身体がゆっくりと前に傾いていく。 「あやせ!!」 とっさにあやせの元に駆け出すが、少し距離が遠かった。 なんとかあやせの身体を抱き抱えたが、身体の傾きは元に戻せず、そのまま倒れてしまった。 ドンッ!! ガチャ 幸い、コンクリではなく土の上だったので、あまりダメージはなかったが、そんなことはどうでもいい。 「あやせ!!大丈夫か!?」 腕の中に抱き抱えたあやせに呼び掛ける。 「は、はい…。なんとか…」 顔を上げて、応答したあやせを見て、安堵する。どうやらケガもないようだ。 「よかった…」 心底、本当によかったと思う。ケガなどしてしまったら、モデルの仕事にも支障が出てしまうだろうし、何よりこの年代の女の子が俺のせいでケガをしてしまうなんて、俺が許せなかった。 ガチャ …ん? なんか不吉な音がしたような… 頭の横にある右手に目を向けると、手錠がバッチリ付けられていた。 「あ…あやせ!!お前…!」 「ふふ…、油断禁物ですよ、お兄さん」 くそ!こんなことなら助けるんじゃなかった! いや、助けるけどね!だって愛しのラブリーマイエンジェルだからね! 「さあ、左手も付けましょうお兄さん」 俺は覚悟した。あやせが上に乗っている以上、逃げ場はない。 あぁ、明日から学校どうしよう… しかし、そんな心配も杞憂に終わってしまった。 いや、というよりも、両手に手錠を掛けられる以上に、大変なことが起きていた。 「「え」」 素っ頓狂な声を同時に上げた二人が同時に見ていた先にあったものは 手錠がついていた、あやせの左手だった。 「え…え…え…」 「な…な…な…」 「えぇぇぇぇ!?」 「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」 つまり、あやせが持っていた手錠は、見事に俺の右手とあやせの左手についていたのだった。 「な…なんで…!?どうして!?」 今の光景が信じられないのであろう、あやせはパニックに陥っていた。 冷静ぶっているが、俺もかなりパニクっている。 「あやせ!鍵!!手錠の鍵は!?」 「!そういえば鞄の中に…!」 そういって、近くに落ちていた鞄の中を右手で漁るあやせ。 しかし、目当ての物は見つからないらしく、「あれ?あれ?」と言う声と、鞄を漁る音だけが響く。 「あやせ、何処か別の場所に入れたとか、そういう可能性は!?」 「そんなはずありません!ちゃんと鍵も鞄に…!」 そう言ったあやせは突然、ハッと顔を上げた。その顔色は、みるみるうちに青ざめていく。 「手錠を取り出した時…、一緒に鍵も取り出したんだ…。それを持って走って…」 「…まさか、あやせ…」 俺は、最悪の可能性を問う。 「走っている途中で、落とした…?」 あやせはぶるぶると震えながら、ゆっくり コクン と頷いた。 「!!おいあやせ!」 どうするんだよ!!とは、言えなかった。 だって、さっきまでのあやせと打って変わって、今のあやせ、「どうしよう…どうしよう…!」ってずっと呟きながら泣きそうな顔をしてるんだぜ? そんな顔をしているあやせに、咎めることなんて、出来るわけがない。 それに、俺は一応年上だ。 俺が落ち着かなくてどうする? 考えろ、高坂京介。何か方法があるはずだ。何か… 「おい、あやせ」 あやせに呼び掛けるが、あやせは相変わらずブツブツ言っている。 「あやせ!!」 ちょっと強めに呼ぶと、ビクッと身体を震わせ、恐る恐るとこちらを見る。 スッと左手を出すと、あやせはまたビクッとして、目をつむった。 俺はあやせの頭にポンと手を置いて、わしゃわしゃと撫でてやる。 目を開けて、こちらを見たあやせは、不思議そうな顔をしていた。 「大丈夫だ。俺に任せろ」 出来るだけ優しく声をかける。 「大丈夫って…、何が大丈夫なんですか…」 「多分、なんとかなる。いや、なんとかしてくれる」 「は…?」 「とりあえず、俺ん家に行くぞ」 「な、なんでお兄さんの家へ…」 「このまま家に帰るつもりか?手錠をしたまま、俺を連れて。親御さんに何て説明するんだ?」 「そ、それは…」 「それなら俺ん家に行く方がマシだし、都合がいい」 「…どういうことですか…?」 「言っただろ?なんとかしてくれるかもしれないって」 そう、カギは身近にいた。 現役警察官で、恐らく手錠の扱いにもなれているであろう ウチの、親父だ。 とりあえず、家に帰ってきた俺達は、一直線に俺の部屋に向かった。お袋は帰ってきているようだったが、リビングにいたので、見つからずに済んだ。 だが、問題は二人だ。 まずは桐乃。部活でまだ帰ってきていないが、この状況を見てどんな反応を示すか。 そして、最も問題なのは親父だ。親父には、この手錠も見せなければいけないし、この状況の説明もしなければいけないだろう。 しかし、ありのままを話してしまえば、親父のことだ、あやせは咎められるだろう。それはなんとしても避けたい。 となると…、方法は一つしかない。まあ、最初から覚悟はしていたが… 「お兄さん」 と、今まで口を閉ざしていたあやせが突然、俺を呼んだ。 「ん?どうした、あやせ?」 すぐ右にいるあやせの方に顔を向ける。しかし、あやせは前を向いたままだった。 「せっかくなので、ハッキリさせて下さい」 「?何を?」 「桐乃から聞いた話です」 「ぶっ!!」 とっさに首を曲げたため、あやせに吹きかかることはなかった。 つか、まだ解決してなかったのねその話!! 「桐乃から聞いた話は本当だと言いましたよね?」 相変わらずあやせは顔を前に向けたままだ。表情もいつになく真剣味を帯びている。 これは、さすがにふざけるわけにはいかない。 「…ああ。本当だ」 「それは、わざとだったんですか?わざと桐乃の」 「それは違う」 言葉が終わる前に否定する。 「その…、昨日ちょっと寝るのが遅くなってな…朝起きてもまだ寝ぼけてたんだよ。それで確認もせずにトイレのドアを開けたら…」 「桐乃がいた、というわけですか?」 「ああ、その通りだ。つか、あいつもトイレに鍵を掛けないで入ってたのも悪いだろ。…まぁ、だからって俺が悪くないとは言うつもりはないけどよ…」 「じゃあ、押し倒されたというのは?」 「さっきのあやせと同じようなもんだ」 「は?」 「あいつ、トイレから出るなりそこら辺にあるものを俺に投げつけてきてさ…堪らなくなった俺は逃げようとしたんだよ。それを追いかけようとした桐乃が足を滑らせてな…。庇おうとしたら俺も足を滑らせて、まるで押し倒したような状況が出来たってわけだ」 「…」 「ていうか、その後おもいっきり頬にビンタ噛ましやがって、昼まで跡が消えなくて学校で笑い者にされたんだぜクソ…」 「自業自得です」 「…ですよねー…」 相変わらずあやせは俺に厳しい。そして桐乃に甘い。 「お兄さんの言い分はわかりました。でも…」 あやせは一息ついて、二の句を告げる。 「でも、完全には信用できません。お兄さんは…」 「近親相姦上等の変態鬼畜兄貴だからな、信用できないのも無理はないよな」 「…自分で言ってて虚しくないんですか?お兄さん」 「…スマン。正直泣きそうになった」 そう、故あってあやせは俺の事を『近親相姦上等の変態鬼畜兄貴』と思い込んでいる。 それにいたるまで色々あったのだが…今回は割愛する。 正直、あやせにこう思われるのは辛いのだが、今さら誤解を解くわけにはいかない。 解いてはならないのだ。 この誤解を解くことは、今の桐乃とあやせの関係を崩壊させることになる。そう ならないために、俺一人が犠牲にならないといけないなら、お安い御用だ。 俺の妹である桐乃、そして桐乃を大切に想ってくれる、あやせのためなら。 「まぁ、どう思うかはあやせが決めることだしな。俺の言い分が本当とは限らないし」 「お兄さんは、それでいいんですか?」 「いいんだよ」 その道を選んだのは俺だから。 後悔なんて、ない。 会話も途切れ、じっとしていると、乱暴に階段を上がってくる音が聞こえてきた。 こんな音をたてるのは一人しかいない。 音はどんどん近くなり、ピタッと止まったかと思うと、今度は俺の部屋の扉が乱暴に開かれた。 開けられた扉の前で仁王立ちしている人物こそ、 俺の妹、高坂桐乃だ。 「桐…」 「どういうこと?」 言葉を紡ごうとしたが、桐乃はそれを遮った。 「なんであやせがいるのかはともかく…、よりによってなんであやせがあんた 部屋にいるの?なんでそんなに密着して座ってるの?それにその手…」 「桐乃、これは…」 「あやせは黙ってて」 あやせの言葉も聞く耳もたず。桐乃は、完全にキレていた。 桐乃は俺の部屋にズガズガと入り、(一応巻いておいた)俺の右手とあやせの左手に巻いてあるタオルをおもむろに剥ぎ取った。 隠れていた、手錠が表に現れる。 「…」 手錠をじっと見つめた後、俺に顔を向けた。 その表情は、蔑んでいるようにも見えるし、怒っているようにも見えるし、悲しんでいるようにも見えた。 「…桐乃」 「…ふーん、そういうプレイなんだ」 「…違」 「あんたもマニアックな趣味してんだね、普通のプレイはもう飽きるほどしたの?」 「おい、桐乃」 「しかも相手はバカ猫じゃなくてあやせ?女にも飽きたの?」 「桐乃!!」 「まぁ、私には兄貴が誰とイチャイチャしてても関係ないし!?勝手にすればいいじゃん!?」 「いい加減にしろ!桐乃!!」 「うるさい馬鹿!黙れ!!」 「いいや、黙らねえ!お前は勘違いしている!!」 「はぁ!?どう見たってそういう状態じゃん!!何が違うのよ!!?」 「全部だ!」 ガツッと、俺は桐乃の肩を左手だけで掴む。 「ッ!離せ!離せ馬鹿!」肩の手を振り切ろうと、身体をブンブン動かす。 だが、離さない。 今にも泣きそうな顔をしている妹を離せるわけがない。 「聞け!桐乃!」 今までの中で最も大きな声を張った。さすがの桐乃も、ビクッと身体を強張らせ、俺の方を不安げに見る。 クソッ、こいつのこんな表情、二度と見たくなかったのに、また俺のせいで桐乃は辛そうな顔をしている。 こんな表情、早く止めさせないといけない。 「何故こんなことになっているのか、事情は親父が帰って来てから話す!ただ、 誓ってお前が考えてるようなことじゃない!!俺はあいつも!!お前も!!!何一つ裏切っちゃいない!!!!」 そこまで言って、一息つく。もう一度桐乃の顔を見ると、まだ少し表情は不安げだ。 「…信じてくれ…」 最後の言葉を振り絞る。これで失敗したら、後は殴られることも覚悟しないといけない。 しかし、その心配も必要なくなったようで。 「…わかった…。信じる」 桐乃は、呟くように言った。 「サンキュー。桐乃」 肩に置いていた左手を桐乃の頭に動かし、そのまま撫でてやる。 「な…。こ、子供扱いすんな!!」 そういいながらも、振り払おうとしない桐乃。1年前だったら間違いなく蹴られていたシチュエーションだが、随分と丸くなったもんだ。 「ごめんね、桐乃…」 「ううん、ロクに話を聞かないで勝手に暴走した私が悪いんだから、あやせは謝らなくていいの。…わたしこそ、ゴメン」 「ううん、桐乃は悪くない。連絡も何もしなかった私が悪いの」 「そんな…あやせ…」 …このままいくと、キリがないので、ここは最年長の俺がまとめてやらないとな… 「まあまあ、ここはお互い様ってことで…」 「ていうかそもそもあんたが悪いんだけど」 「そもそもお兄さんのせいですよ」 「…ハイ、スミマセンデシタ」 わかってるさ。俺はこういう役回りだってことぐらい…。 その後、あやせと桐乃は他愛のない話をしながら、時間を過ごしていた。 やっと、あやせの笑顔が見れた。 少し、心の枷が取れた気がする。 が、問題はここからだ。 『帰ったぞ』 親父が帰ってきた。俺達は急いで部屋から出ていき、階段を下りる。 「親父!待ってくれ!!」 荷物をお袋に預け、リビングに入ろうとしていた、まだ仕事着の親父を止める。 ゆっくりとこちらを向いた親父の顔は、相変わらず怪訝そうな表情をしていた。 あやせと桐乃が強張っているのがわかる。 親父はただじっとこちらを見ている。 俺はハッとして 「お、お帰りなさい」 と告げた。 「お帰りなさい」「お邪魔しています」 桐乃とあやせも続いて告げた。 「…うむ」 コクリと軽く会釈する親父。どうやら正確だったようだ。 「…で、どうした?帰ってきて早々引き止めるということは、何かしら大事な用があるのだろう?」 相変わらず親父は鋭い。俺とあやせはゆっくりと親父に近寄っていく。 「…実は」 再び巻いていた右手のタオルを外し、親父の前に突き出す。 俺の右手とあやせの左手に付いている手錠が表に出た。 「…なんだ、これは」 「事情は後で話すから…。とにかく、これ外せないか?鍵がないんだけど…」 更に怪訝そうな表情をしていた親父に内心ビビりながらも、とりあえず最優先の事項を告げる。 しばらく俺とあやせの手についている手錠を見ていた親父が、おもむろにポケットに手を入れた。 「三人とも、目をつむりなさい」 そう親父が言うと、誰も疑問を投げ掛けることもなく、目をつむった。 「私がいいと言うまでは決して開けないように」 そう言われた後、手元で何かカチャカチャと音がしだした。 ガチャ 少ししたら、手首あった重みがすっと取れていた。 「もういいぞ」 目を開けると、俺とあやせの手に付いていた手錠は、いつの間にかなくなっていた。親父の方を見ると、手にそれらしき手錠を持っている。 「どうやって…」 思わずあやせが呟いた。 「警察でも時折こういう不祥事が起きる。それの対策の一つだ」 親父はあやせの呟きに答えた。 「ただ、これはいわゆるピッキングに繋がることでな、やり方をお前達に見せるわけにはいかなかった」 相変わらず仕事と私情を一緒にしない親父だ。 それでこその親父なんだろうけどな。 「…京介」 ギロッとこちらを睨む親父の目は、あやせとは違う別の恐怖を感じさせた。 さっきまでの覚悟も、少し揺らいでしまう。 「…はい」 ここまできて、逃げられない。なんとか言葉を振り絞る。 「この手錠は、一体なんだ?どうしてこのお嬢さんの手とお前の手に付いていたのだ?」 「…えっと…」 しかし、肝心なことが言えない。 覚悟以上に恐怖が勝っている。 「…まさか、この手錠はお前じゃなくて、このお嬢さんが」 「違う!!」 とっさに反論する。 そうだ、何を迷う高坂京介?お前は守ると決めたんだろう。桐乃の親友を、新垣あやせを。 だったら怖がってる場合じゃねぇ。俺がどうこうなる以上に、俺はあやせが傷つくことが怖い! だったら、言え!高坂京介!! お前の選択肢は、最初から決まっていたはずだ!! 「それは、近くの公園で拾ったんだ!」 「公園…?」 「ああ、そうさ!」 ちらっとあやせと桐乃の方を見る。二人とも、とても不安げに俺を見ていた。 大丈夫、絶対に守ってやる。 声には出さない。そのかわり、気持ち悪いウインクをしておいた。 改めて、親父を見る。 「公園で手錠を拾って、興味本意でいじくってたんだ!それを見つけたあやせが止めさせようと俺から手錠を奪おうとしたんだ!そこで揉み合いになっちまって…」 「そうしている内に、二人の手に手錠が付いていた、といいたいのか…?」 「ああそうさ!」 我ながら、子供じみた理由を考えたものだ。 信じられるか?信じさせるさ。 「だからあやせは俺を止めようとしただけで、何も悪くない!むしろ巻き込まれただけなんだ!!悪いのは…全部、俺だあぁぁぁぁぁぁ!!!」 ここまで言い切って、少しの静寂に包まれる。 「…つまり、全てお前のせいなんだな…?」 静寂を断ち切ったのは、親父だった。 言葉は告げずに、頭を上下に軽く動かすことで、答えを出した。 「…そうか」 そう言って親父はゆっくり俺に近づく。 ゴッ 鼻先から思い切り殴られた俺は、支える間もなく、そのまま吹き飛ばされた。 「がぁっ!」 ゴンッと壁に頭が叩きつけられた俺は、少し呼吸が出来なくなっていた。 鼻が何だか熱い。床を見ると、ぼたぼたと血が落ちていた。 どうやら、鼻血が出たらしい。 「お兄さん!」「兄貴!」 今までずっと俺と親父の話を見守っていたあやせと桐乃が駆け寄ってくる。 あやせがポケットから出したティッシュを、有り難く貰う。 クソ、鼻は折れていないみたいだが、まだジンジンする。 心配そうに見ていた桐乃の顔が、だんだんと怒りに満ちていく。そして、おもむろに立ち上がり、ただこちらをじっと見ている親父のほうを睨んだ。 「お父さん!いくらなんでもこれは」 「桐乃!!!」 そんな桐乃を止めたのは、俺だった。 ハッとこちらを向く桐乃に、俺はただ首を横に振る。 これだけで、恐らく通じるだろう。 しばらく気に食わない様子の桐乃だったが、震えた手を握りしめ、歯を噛み締めながら、 「…雑巾とってくる」 と言って、その場を離れた。 「…今回はこれで、許す」 リビングのドアノブに手を掛けて、ゆっくりと親父が告げる。 「…サンキュー」 「お前の言ったことを今回は信じてやる。だが…次はないぞ」 「わかってるよ。二度としない」 「ふん…」 今度こそ、親父はリビングに入った。 どうやら手錠は没収のようだ。 今回もなんとか騙せたらしい。 …ん?親父のさっきの言葉…。 …まぁ、いいか。 「お兄さん…」 「すまんあやせ。手錠、没収されちまった」 「そんなもの、どうでもいいんです!お兄さんが…お兄さんが…!」 あやせの目に涙が溜まっていく。 ハァ、またこいつはこんな顔をしやがる。 俺がお前を庇ったのはなんでだと思う? お前には、笑ってて欲しいからだよ。 ポンとあやせの頭の上に、解放された右手を載せる。 「違うだろ。あやせ」 「…え?」 「こういう時は、笑ってほしい」 しばらく硬直していたあやせだったが、おずおずと頭の上に載っている俺の右手を両手で握りしめ、ニコッと微笑んだ。 溜まっていた涙がこぼれ落ちていたが、 その笑顔は、今まで見てきたどんな笑顔よりも、綺麗だった。 その後、桐乃が持ってきた雑巾で床にこぼれた鼻血を処理して、俺の鼻血が完全に止まって、俺達もリビングに入る。 リビングに入ると、既にいつもの甚平に着替えていた親父と、「あんたも馬鹿ねぇ…」と俺の顔を見た瞬間にそんなことを言ってきたお袋が座っていた。 「…血は止まったか?」 おずおずと、親父が聞いてきた。 「ああ、もう完全に止まったよ」 「そうか…」 そう言って差し出してきた親父の手には、絆創膏が握られていた。 「一応、貼っておけ」 そんな親父の行動に驚きながらも、俺は絆創膏を受け取った。 「ありがと」 「うむ」 どうやら、少しは心配してくれていたらしい。 ある意味親父らしい、不器用な優しさが伝わってきて、嬉しかった。 「あ…あの、わ、私…」 「あやせちゃんも食べるでしょう?そこに座って」 いつものテーブルに、今日は食器が一組多い。 あやせの分も、用意してくれていたようだ。 一応お袋には桐乃づてであやせが泊まっていくと言ってあるし、あやせの親御さんにも許可は取っていた。 「ほら、遠慮せず座れよあやせ」 絆創膏を貼り終えた俺は、親友とはいえ、他人の家の食卓だからだろうか、少し恐縮しているあやせを促す。 「そうそう!遠慮なんていらないから早く座りなよ、あやせ」 桐乃も続く。 「じゃ…じゃあ…、し、失礼します…」 ゆっくりと椅子に座ったあやせを見届け、俺達も座る。 「それじゃ…」 「…うむ」 「「「「「いただきます」」」」」 いつもより少し多い食卓は、いつもより賑やかな時間が過ぎていった。 「…ふぅ…」 風呂から上がって、布団の上でただボケーっと座っている。 こういう時間を利用して勉強しろよ受験生、と自分に毒づくが、今日は色々あって疲れた。もう何もする気は起きなかった。 「はぁ…、もう寝るかな…」 誰に言うでもなく、一人呟く。 「桐乃ー。上がったよー」 と、隣の桐乃の部屋からあやせの声が聞こえてきた。 どうやら風呂に入っていたらしい。 風呂上がりのあやせたんをこの眼に刻みたいとも思ったが、ある意味マジで刻まれかねないので、その衝動を抑える。 「ん、わかった。ちょっと待っててね、あやせ」 そう聞こえて、桐乃の部屋のドアが開く音がする。次は桐乃が風呂に入るみたいだ。 パタパタとスリッパの音が聞こえていたが、突然俺の部屋の扉がドンッと叩かれる。 「今から風呂入ってくるけど、私がいないからってあやせに何かしたら殺すから」 「しねーよ!!」 お前何言ってくれてんだ!? せっかく今日上げたあやせの好感度が一気に下がっちまうだろうが!! 「え、しないの?あ、なら私が風呂に入っているの覗く気!?このシスコン!!死ね!!」 「覗きもしねーよ!!さっさと風呂入れ!!」 ホントやめて!! あやせさんに殺される!! つかマジで意外そうに言うんじゃねぇ!! 満足したのか、階段を降りていく音がする。 クソッ…言いたい放題言いやがって…。こうなればマジで風呂覗いてやるか…? …って、あぶねぇあぶねぇ。本当に犯罪者の道を歩むところだったよ。 つか今日そんなことをしたらマジで殺されるよ、あやせさんに。 ブルル!ブルル! 唐突に鳴り出した携帯を手にとり、画面を開く。 液晶画面には着信を示す番号と、見知った名前が表示されていた。 通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。 「…もしもし」 『やっと出やがったわね、このクズが』 そう一言目からいきなり罵倒してきたこの携帯越しに聞こえる声は、間違いなく桐乃のオタク友達であり、俺の後輩である五更瑠璃、通称黒猫だ。 罵ってくるのはいつものことなのだが、今回は何か様子がおかしい。 「…あの、黒猫さん?」 『なにかしら、クズ介』 ひでぇ!マジひでぇ!!いつもはクズなんて言わないのに!! 「お、怒ってらっしゃいます…?」 『この物言いで怒ってないと思えるのなら、とんだ阿波擦れね、あなた』 どうやら、マジギレしているみたいだ。 「な、なんで怒ってらっしゃるのでしょうか…?俺、何かしました…?」 『…覚えてないの…?』 さっきまでの怒った口調から一変、とても悲しそうな口調で黒猫が聞く。 「え、えっと…」 しかし、どんなに頭を振り絞っても、思い当たることがない。 『…今日、学校へ行く途中で約束したわよね…。放課後、一緒に…』 「…あぁ、あああ!!」 思い出した!学校に行く途中で黒猫に会って、黒猫が欲しいものがあるからって 放課後一緒に秋葉原へ行く約束してたんだった!! 『やっと思い出したみたいね…』 「すっ、すまん黒猫!!」 『放課後校門で1時間以上待ってても来ないし、何かあったのかと連絡してもメールの返信もないし、電話には出ないし…。結局秋葉に行けずに目的の物は手に入らなかったし…』 「すみませんでした!本当にすみませんでした黒猫さん!!」 その場で土下座をしながら必死に謝る俺。 電話越しに土下座しても無駄だとわかってはいるが、しないと気が済まない。 『一種の羞恥プレイか何かと思ったわ…』 「それは違う!」 『それとも、愛想尽かされたのか、嫌われたのかと思ったわ…』 「それはありえねぇ!!!」 ズバッと言い切る。 お前を嫌う?ふざけるな。 「俺がお前を嫌いになるなんて今までも、そしてこれからもありえねぇ!!俺はこれからもずっとお前を好きであり続ける!」 『…そ、そんな大きな声で言わなくても聴こえてるわよ…。恥ずかしくないの? あなた』 「…すまん、冷静になると凄く恥ずかしくなってきた」 『全く…。相変わらずの愚鈍さね…』 そう罵る黒猫の声も、恥ずかしがっているのがよくわかる声だった。 『…で、単純に忘れてしまっていたの?』 「いや、校門に出るまでは覚えていたんだが…」 ちなみに嘘ではない。あやせに会って逃げるまでは本当に覚えていた。 「そのあと色々ありまして…」 『…相変わらず、いろんな問題に突っ込まされているのね…』 「…すまん」 『…それはともかく、何故電話にも出なかったの?』 「学校でマナーにしてそのままにしてしまってて…。マナー解除したのもついさっきでしかも中身確認するの忘れてて…」 『もういいわ。…バカ』 「…本当にすまん。今度一緒に行こう。今日の埋め合わせもする」 『当たり前でしょ、バカ』 さっきから馬鹿バカ言われまくっているが、仕方がない。それでも足りないぐらいのことをしてしまったのだ。 俺と黒猫は、色々あって付き合っている。 彼女を傷つけるのは、彼氏としてあるまじき行為だ。 『…ねぇ、先輩』 「…ん?」 『あなたが誰を助けてもかまわない。むしろ、あなたはそうあってほしい、でも…』 『…お願いだから、心配させないで。私の知らない内にいなくならないで。 私はあなたがいるから今の私がいるの。それなのに、あなたがいなくなってしまったら、私どうすればいいの? あなたがいなくなるなんて、私嫌よ。一生怨むわよ。一生泣きつづけるわよ。 だから、お願い…、私が追いつけなくなるような所に、行かないで…』 それは、いつもの黒猫には似つかわしくない、弱音だった。 でも、そんな弱音を吐かせてしまっているのは、紛れも無い俺だ。 だから、俺は黒猫を安心させる義務がある。 義務?違う。 俺は俺のエゴで黒猫を安心させたい。 「どこにも行かない」 ハッキリと、伝える。 「俺はどこにも行かない。つねにお前といる。だから、お前もずっと一緒にいてほしい」 『…フフ、何を今さら…』 くすり、と黒猫が笑った。 どうやら、俺の答えに納得してくれたようだ。 『私もずっといるわ。ずっと、あなたと一緒に…』 顔が綻んでいるのがわかる。 そりゃあ、愛しの彼女からこんなことを言われりゃ、にやけてしまうのも仕方がないだろ? 『とにかく、また秋葉に行く日を決めたら連絡するわ。明日土日は?』 「特に予定はないぞ」 『わかったわ。多分、どちらかで行くと思うから、予定はいれないでね』 「あぁ、わかった」 『それじゃあ…忘れないでね』 「わかってる、二度と忘れない」 『フフ…、おやすみなさい、京介』 「あぁ、おやすみ、瑠璃」 電話を切り、携帯を閉じる。 いまだに綻んだ顔が戻らない。 顔も心もニヤニヤしていると、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。 「お兄さん、ちょっといいですか?」 あやせの声だった。 「あ、あぁ。入っていいぞ」 頬を叩いて無理矢理顔を引き締める。 遠慮がちに入ってきたあやせは、桐乃から借りたのであろうパジャマを着ていた。やっぱりあやせはなんでも似合うな。 「どうしたんだ?あやせ」 「えぇ、ちょっとお話しが…」 と言って、部屋の真ん中辺りに座るあやせ。その前に俺も座る。 少しの間、静寂に包まれていたが、俺はあやせが話始めるまで待つことにする。 「…さっきの電話の人、お兄さんの大切な人か何かですか?」 やっと口を開いたあやせが放った質問は、予想外のものだった。 「…あー…、聞こえてたか…」 「えぇ。あんな大きな声を出していたら、隣にもうるさいくらい聞こえますよ」 「そりゃそうだよな、ハハハ…」 我ながら恥ずかしいマネをしたものだ。 「俺の彼女だよ」 あやせが一瞬、ピクッと身体を震わせたように見えた。 「…彼女、いたんですね」「あれ?言ってなかったっけ?」 「はい、今初めて聞きました」 そういえばそうだった。 というより、俺に彼女がいること自体、あまり周囲には知れ渡っていないことに気づく。 「…彼女さんは、どんな人なんですか?」 「んー…、どんな人って言われてもなー…」 少し考える。 黒猫の特徴ねぇ… 「…変な奴だな」 「へ?」 「時々何言ってるかわかんねーし、変な口調だし、よく人を罵るし、負けず嫌いだし…」 「でも、実は臆病で、怖がりで、一人が嫌いで…それを隠そうと強がるんだけど、みんなにはバレバレでさ。そんな奴なんだけど、俺には、そんなことを隠さずに話してくれるんだよ。そんな奴だから守ってやりたくなるし、手を引いてあげたくなる。そんなやつなんだよ」 「…そう、ですか」 一通り言い終わったが、よく考えたらこれノロケじゃね?クソ、今さら恥ずかしくなってきた。 「お兄さんは、その人のこと、本当に好きなんですね」 「は、はぁ!?なんでそうなる!?」 「だって、その人の話をしている時のお兄さんの顔、見たことがないような優しい表情でしたよ」 「マ、マジで?」 「マジです」 どうやら俺は、顔に出やすいタイプらしい。 「…遅すぎたのかなぁ…」 「?あやせ?」 顔を伏せていたあさせがガバッと顔を上げ、こちらをじっと見据える。その視線から逃げるわけにもいかず、俺も視線を合わせていた。 「お兄さん、あれは嘘だったんですか?」 「あ、あれって…?」 「私に結婚してくれって言ったことです」 「あ、あれはその場のノリに任せてしまったというか、っていうかあの時はまだ付き合ってなかったし…」 「じゃあ、お兄さん」 ズイッと身体を近づけるあやせ。俺は若干後ろに引いてしまう。 しかし、あやせの真っ直ぐ見据えた目は、逃げるなと言っているように見えた。 「な、なんでしょう…」 「もし、その時私がいいですよって言っていたら、結婚してくれたんですか?」 「…え?」 何を言ってるんだこの女は? 「どうなんですか!?」 「え、そ…そりゃあ…」 ここは、正直に答えておく。 「…結婚はともかく、お付き合いはしてた、と思う…」 「…そう、ですか…」 スッと元の位置に戻るあやせ。その表情は、俯いてしまっているせいで伺えない。 ブルブルと震えるあやせを、どうすればいいかわからない俺は、とりあえず様子を見ていた。 すると、何かを決心したようにカバッと顔を上げたあやせは、再びこちらをじっと見てきた。 「お兄さん!」 「は、はぃ!」 何を言われるかわからず、内心ハラハラしていたが、あやせが継いだ言葉は、予想だにしない、衝撃的な言葉だった。 「私はお兄さんが好きです!」 「…え?」 今、あやせはなんと言った? 好き? え? 誰が? …俺が? …いやいや、気のせいだ。ありえない。 あやせが俺をなんと思っているか、俺が一番わかっているはずだろう? しかし、あやせがさらに継いだ言葉は、俺の思考を覆す。 「お兄さんは優しい人です。だから、わかっていました。あの時、私に言ったことは、桐乃のためについた嘘だってことも…本当は、お兄さんは桐乃に手を出すような人じゃないってことも…」 「あ、あやせ…」 衝撃の事実を叩きつけられ、俺の思考はグチャグチャになっていた。 「今日だってそう。全部私が悪いのに、そんな私のために殴られて、庇ってくれて…」 「そんな優しいお兄さんがずっと好きでした!私とお付き合いしていただけませんか!?」 そういって、あやせは右手を差し出してきた。 だんだんと整理がついてきた頭は、今の状況を簡素にまとめる。 あやせが俺に告白してきて、ただ今告白の返事待ち この右手を取れば、俺はOKしたことになるのだろう。 「…ありがとう、あやせ」 …でも、 「正直驚きまくってて、今もちょっと信じられない」 俺の答えは 「凄く嬉しいし、ありがたい。こんな俺にあやせみたいな女の子が好きになってくれたことに、内心歓喜している」 決まっていた。 「…でも、ゴメンな。俺は、あやせとは付き合えない」 ゆっくり手を下ろして、あやせはこちらに顔を向ける。 「…わかっていました。もう遅すぎること…」 その表情は、笑っているが、笑っていなかった。 「…でも、伝えたかった。伝えなきゃいけないと思いました」 震えた声を必死に絞り出して、続ける。 「伝えれて、よかった…。ずっと隠し続けなくてよかった…」 そこまで言ったあやせは唐突に立ち上がった。 「お話は以上です!ありがとうございました!」 そう言って、部屋の扉に向かうあやせ。俺は、止めることも出来ず、ただ見送るしか出来なかった。 「…お兄さん」 扉を開けたあやせが、こちらを向かずに言う。 「私、お兄さんを好きになったこと、後悔します」 今度こそ、あやせは俺の部屋を後にした。 俺は、何も考えられず、立ち上がって、ベッドの上に座って、壁にもたれる。 すると、桐乃の部屋から声が聞こえてきた。 一つは嗚咽交じりの、あやせの声。 もう一つは、そんなあやせをあやす、桐乃の声。 「…桐乃…私…私…!」 「うん、いいよ。何も言わなくていいから。今は泣いていいから」 「桐乃…桐乃…!」 声に鳴らない泣き声が響く。 俺は、その声から耳を離せず あやせの泣き声が止むまで、俺は動けなかった。 しばらくして、俺はリビングに降りた。 親父達は、どうやら眠ったらしく、物音一つも聞こえない。 あまり音を立てないようにそっと冷蔵庫に向かい、麦茶を取り出す。 コップを一つ取り出したところで、リビングのドアが開いた。 入ってきたのは、桐乃だった。 「…」 桐乃はリビングに入って、身動き一つしない。 俺は、麦茶を桐乃に向けて 「飲むか?」 と聞いてみた。 「…うん」 桐乃はコクンと頷いた。 「…あやせは?」 「泣きつかれて寝ちゃった」 「そっか…」 「…ねぇ」 「ん?」 「…何をしたかなんて、聞かない。多分、私は聞いちゃいけないんだと思うから。でも…」 「どんな理由があっても、あやせを泣かせたことは、許さない」 「…」 「今回は見逃すけど…次は殺すから」 「…あぁ」 「…何笑ってんのあんた?」 笑ってたか。 ホント、顔に出やすいんだな俺。 いや、少し嬉しかったのさ。 こんなにも気にかけてくれる友達を持ったあやせを、目の前で泣いてくれる友達を持った桐乃を、見ていると何故か嬉しくなる。 同時に、羨ましくもなる。 本日何度目かわからない、桐乃の頭に手を載せて、撫でてやる。 「な、何よ急に!?」 「ありがとな、桐乃」 「は?」 「お前が、あやせの親友でよかった」 「…何言ってるかわけわかんないんだけど」 「桐乃」 「な、何?」 「あやせのこと、頼んだ」 「はぁ?」 バシッと桐乃の頭に置いた手が払われる。 「そんなのあんたに頼まれなくても、親友だし、ほっとくわけないじゃん」 「…だよな」 「てかもうこんな時間。あんたも明日休みだからって夜更かしし過ぎると、痛い目みるからね」 お前には言われたくないがな。 夜中エロゲーしながらキャーキャー悶えてる妹の声を聞かせられる俺の気持ちも少しは考えて欲しいもんだ。 「んじゃ、おやすみ」 「ああ、おやすみ」 バタンッとリビングのドアが閉められる。 俺は、桐乃が置いていったコップも一緒に洗って、リビングのソファーに腰を下ろした。 何をするでもなく、ただボーッとするだけ。 眠くなったら、ソファーの上にでも寝ればいいだろう。 まぁ、一睡も出来なかったわけだが。 次の日の朝、俺はいつかの校舎裏に来て、そこにあるベンチに座っていた。 ちなみに、今は俺一人だか、もう一人がそろそろ来るはずだ。 「…呼び出したのはあなただけど…早いわね…」 声がしたほうを向くと、そこには俺の待ち人、黒猫がいた。 前までは黒猫がベンチに座って俺を待っていたのだが、逆となると、なんだか変な感じがする。 ちなみに、今は約束の時間の30分前だ。どっちも大概だった。 俺はベンチから立ち上がり、黒猫の方へ歩いていく。 「休日に、こんな朝っぱらから呼び出してゴメンな」 「それはいいのだけど…。どうしたのあなた?ひどい顔してるわよ?」 「…まぁ、色々あってな」 「…一体何があっ…!?」 黒猫の言葉は、突然遮られる。 無理もない。だって、突然抱きしめられたんだから。 「ちょ、ちょっと先輩!?どうしたのよ」 「ゴメン、黒猫」 顔を見せずに告げる。 「ちょっと、このままでいさせて」 今はただ、この温もりを、この気持ちを、感じたいから。 「…仕方がないわね…」 そう言って黒猫も、俺の背中に手を回す。 その優しさが、ただ今はありがたかった。 昨夜から今日の朝にかけて、俺はずっと思い出していた。 初めて会った時から、昨日の告白に至るまでのあやせを。 記憶はずっとループして、ひたすらあやせの記憶を再生していた。 なぜそんなことをしていたのかわからない。 だけど、一つ気づいたことがあった。 俺は、新垣あやせが好きだ。 好きだったじゃない。多分、今でも好きだ。 それに、Likeじゃない、Loveだ。 きっと俺は、初めて会った時からあやせのことが好きだったんだと思う。 …でも、そんなあやせの告白を、俺は断った。 何故か、理由は簡単だ。 あやせ以上に、俺はこいつを、黒猫を好きになっちまった。 だから、俺は黒猫を選んだ。 あやせじゃなく、黒猫を。 でも、好きな女の子を振るって言うのは、思いの外心に穴を空けたようで、その気持ちに気づいてしまったら、とても苦しかった。 泣きそうになった。 死にたくなった。 だから、俺は今黒猫を抱きしめている。 あやせ以上に好きな、黒猫の存在を噛み締めている。 その温もりは、思った以上に俺を癒してくれていた。 あぁ、間違っていない。 俺は、この子を選んだんだ。 俺は… 「…瑠璃」 「なに?京介」 「愛してる」 「なっ!?…ほ、本当にどうしたのよ!?」 質問には答えてやらない。 代わりに、更に強く抱きしめる。 「全く…」 そう言って、黒猫も抱きしめる力を強くし、 「私も愛してるわ、京介」 と、ポソリと言ってくれた。 「ありがとうな、黒猫」 「別になにもしてないけど…どういたしまして」 落ち着いた俺達は、先程のベンチに座っていた。 「ホントびっくりしたわ…。朝も早くから、しかも到着して早々に抱きしめられるなんて思ってもいなかったわ」 「いやぁ、ハハハ…」 「…でも、なんであれ私を必要としてくれたってことでしょう?」 「…まぁ、そういうことになる…かな」 「フフフ…。それならいいわ」 切羽詰まってたとはいえ、我ながら大胆なことをしたものだ。 朝早いとはいえ、誰かに見られていたかもしれないと考えると、顔が熱くなる。 「ねぇ、先輩」 ベンチに置いていた右手を、黒猫が両手で包みこんだ。 黒猫の方を見ると、頬を赤らめてこちらを見ている、黒猫の顔が目に入る。 あやせとは違う、吸い込まれそうな綺麗な瞳だ。 「昨日、電話でも言ったと思うけど…」 「私は、あなたがいないとダメなの。あなたのいない世界なんて、考えられない」 改めて直に言われると、恥ずかしいものである。 黒猫の顔も、赤みが増していく。 「…だけど、頼るばかりはいや。私が頼るだけじゃ嫌なの。だから、あなたにも私を必要としてほしい。私に、頼ってほしい」 「…さっきの…私、嬉しかったわ。私を必要としてくれて、頼ってくれて」 「だから、ゴメンだなんて言わないで。悪いことをしただなんて思わないで。理由が言えなくても、事情が話せなくてもいい。今日みたいに、ただ抱きしめてあげるだけでもいい。私を必要としてくれることは、私にとっての幸せでもあるのだから…」 「黒猫…」 あぁヤバい、マジでヤバい。 ヤバいぐらい俺はこいつが、瑠璃が好きすぎる。 こんなに俺のことを思ってくれる彼女がいるのに、それ以上何を求める? 何もいらない。 瑠璃がいれば、どんな困難でも乗り越えれる気がする。 スッと顔を近づける。 察したのか、黒猫は瞼を閉じた。 感謝してもしきれない、この気持ちを伝えるのは、これが一番だろう。 俺は瑠璃の唇に、唇を重ねた。 「「行ってきます!」」 朝食を食べ終え、俺と桐乃は玄関の扉を開ける。 最近は途中まで桐乃と登校しているのだが、今日はどうやらそうはならないみたいだ。というのも、玄関先に桐乃を待っていたのであろう、新垣あやせを見つけたからだ。 「あれー、あやせじゃん!おはよ!」 「おはよう、桐乃」 ちらっとこちらを見る。 「お、おはよう、あやせ」 「おはようございます、お兄さん」 「もしかして待っててくれたの!?ありがと!」 「うん、一緒に行こう?桐乃」 「当たり前じゃん!…ってあぁぁぁ!今日体育あったんだっけ!?」 「うん、4限目にあるよ」 「やっばー!忘れてた!体操服取って来るから待ってて!」 バタバタと家の中に戻る桐乃。 俺とあやせだけが取り残される。 …ぶっちゃけ気まずい…。何を話したらいいのかわからない…。 変な汗が流れる。 「お兄さん」 「ひゃ…ひゃい!?」 突然話しかけられて、素っ頓狂な声を上げてしまった。あやせは気にした様子もなく(何か虚しい)、話を続ける。 「私、お兄さんのことが、まだ好きです」 「そ、そっか…」 俺も好きですとは、さすがに言えない。 「でも、いつかお兄さん以上にいい人を見つけて、幸せになってみせます!そして、お兄さんが私を振ったことを後悔させてやりますから!!」 あやせはビシッと人差し指をこちらに向けて、宣言した。 それは、あやせなりの踏ん切りであり、宣戦布告なのだろう。 あやせはあやせのやり方で、前に進もうとしていた。 「…ふ、それは無理だ」 「!な、なんでそんなこと言い切れるんですか!?」 「あやせを最も幸せに出来るのは、今もこれからも… 俺だけだからだ!!」 「な、何を言っているんですか!?私を振ったくせに!!」 「大丈夫だ!妻には迎えられなくても、愛人枠はいつまでも空けておくから」 「変態!!やっぱりしねぇぇぇぇぇ!!!」 「きょうちゃん、おはよ~」 「おう麻奈美。相変わらずマヌケな挨拶だな」 「も~、朝一番の一言がそれ~?」 「ハハハ。スマンスマン」 「ぶぅ~!」 頬を膨らませても、可愛くないぞ。むしろ不細工になったぞ、幼なじみよ。 「きょうちゃん、なんだかご機嫌だね」 「顔に出てたか?」 「うん」 そっか、と呟いて歩き出す。 しばらく歩いていると、良く知った後ろ姿を見つける。 「スマン、麻奈美」 「うん、また教室でね」 麻奈美と途中で別れ、その背中に駆け寄り、声をかける。 「おはよう、黒猫」 「おはようございます、先輩」 昨日も会ったのだが、何度会っても嬉しいものだ。彼女と言うのは。 「昨日は付き合ってくれてありがとう。おかげで目的の物が手に入ったわ」 「俺はついていっただけだぜ?」 「それだけでも、嬉しかったわ」 そう言った黒猫の頬は、ほんのりピンク色に染まっていた。 「あんなことでいいなら、いつでも誘ってくれよ」 「あら、なら今日の放課後、早速付き合ってもらっていいのかしら」 「あー…、今日は…」 ゴソゴソとポケットを探り、目的のものを取り出す。 それを黒猫に差し出すと、黒猫は目を丸くして、驚いていた。 わかっている、俺らしくないことぐらい。 でも、たまにはいいだろう? 「今日は、俺が誘っていいか?」 そう言うと、黒猫はおずおずと映画のチケットを手に取った。 こうして、一つの恋が終わりを告げ、もう一つの恋は、より深みを増した。 これで、俺の日常が大々的に変わったわけではなく、相も変わらずの日々を送っているのだが、 俺にとって、それとあやせにとっての一つの終わり、そして新たな始まりが、確かに生まれたのだ。 深夜、俺は桐乃の部屋のドアをノックする。 「…なに?」 ガチャッと開いたドアの隙間から、怪訝な表情をした桐乃が顔を出す。 「これ、フルコンプしたぜ」 そういって差し出したのは、桐乃から無理矢理貸されていた妹物のエロゲー。 それを見た瞬間、桐乃の表情は一変し、キラキラしていた。 「クリアした?クリアした!?どうだった?神ゲーだったでしょ!?」 「ああ、さすが評価が高いだけあって、シナリオは良かったな。特にこんのルートは不覚にも泣いちまった」 「でしょ!?こんのちゃんマジ最高!!現実にいたら抱きしめてあげるのにぃー!!」 「現実で見知らぬ子供にそんなことをしたら犯罪になりかねないからな?」 最近は、桐乃ともこうしてクリアしたゲームについて語ることも多くなった。 …もう、あの頃の俺に戻るのは無理だろうな… まぁ、戻る気はさらさらないが。 「まぁ、たしかにこんのみたいな可愛い妹がいたら、多分俺も可愛がりまくるだろうなぁー…」 「はぁ?あんたの目、節穴?」 「?どういうことだよ…?」 「目の前にいるじゃん」 「は?」 「可愛い妹」 「おいおい…」 後で罵られようが、蹴られようが、これは言ってやらないと気が済まない。 はぁ…とため息をついて、桐乃に告げる。 「俺の妹が、こんなに可愛いわけがないだろうが」 Fin.
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/375.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1294505746/2-46 「……遅いな。あいつまだ来ないのか?」 思わず、呟いてしまう。俺は腕時計から目を離し、再度背伸びをしてあたりを見渡す。 時刻はすでに昼を回り、晴天の下、たくさんの人が各々の休日を過ごしているようである。 だが、俺の待ち人の姿は依然見つからない。 ふぅ、と本日何度目になるかわからない溜息を深くつく。 そう、俺は今日彼女とのデートに街まで来ていた。 なにせ、つきあってから初めてのデートだと言うことで、俺は張り切って精一杯のおめかしをしてきたのだが……。肝心の彼女がなかなか来ない。 こうも長い間待たされて、しかも携帯電話で呼び出し続けても応答がまったくないもんだから何かあったんじゃないかと心配してしまう俺だったが、 待ち合わせ場所を離れた隙に入れ違いに彼女が待ち合わせ場所に到着することを危惧して探しに行くことができなかった。 そんなこんなで結局、約束の時間から二時間も過ぎている。 ――と。遠くからこちらに向かって駆けてくる少女の姿を見つけた。 見紛うこともない、俺の彼女である。 走りながら手を振ってきたので、こちらも大きく振り返してやる。 俺のすぐそばまで来た彼女は長時間走ってきたのか息を切らしていて、膝に手を当てて息を整えている。 その様子が可愛らしく、また愛おしくもあったので俺はほとんど反射的に頭を撫でてやっていた。 それに気がついた彼女は俺の顔を見上げるようにして、笑う。 しばらくして、だいぶ落ち着いてきたのだろう、彼女は俺の腕を自分の腕に絡めてきた。 少しはにかみながら―― 『俺の彼女がこんなにばかなこのわけがない』 さて、俺と彼女がつきあうことになったのには色々と経緯がある。 ある日の日曜日。 朝から受験勉強に勤しんでいた俺はのどが渇いたのでなにかしらの飲み物を求めてリビングに足を踏み入れようとしたところで、妹――桐乃につかまった。 「ねぇ、あんたさ」 「なんだよ」 いつにもまして機嫌が悪そうな様子の桐乃に内心ビビりながらもとりあえず先を促してみる。 なぜかこちらをにらみつけて居る桐乃は、今にもキレそうなそんな危うげな感じすらする。 「もうすぐあたしの友達来るんだけど、地味面見せたくないからさあ、あんた部屋から一切出てこないで」 「はあ? なんでだよ? 友達って誰だよ? 黒猫や沙織じゃねーのか」 「あやせと加奈子。……ホラ、質問には答えたんだから早く自分の部屋に戻ってよ」 「別にその二人だったら俺だって面識あんだからそんな部屋に閉じこもる必要はねえだろ」 「だって、あんたってさあたしの友達来るといっつも色目使ってくんじゃん。正直キモいから」 どうやら家に遊びに来るのは“表”の友達らしい。 いつもなら、あやせが我が家に来るとなれば(たとえそれが桐乃に会いに来たのだとしても) 俺のテンションは無条件で最高潮に達するフィーバーする乱舞する。 だが、さすがにこうも厳しく批判されてはあえて姿を見せようとする気も起きない。 っつか、あやせのことは桐乃曰く「色目使って」いたかもしれねえけど、あのガキんちょ、来栖加奈子に関しては全くあり得ねえ。 確かに数回のマネージャーごっこの際に実は後輩想いの面倒見のいいやつだっていうのは知っていたが、だとしてもあいつが態度が極度に悪いクソガキであることに変わりはない。 あの起伏の乏しい体型に興奮を覚えることは絶対にないし、口と性格の悪さは一級品。 従って恋愛対象になることは断じてないし、ましてや「色目を使う」ことなんて絶対あり得ねえ。 むしろ遊びに来るのが加奈子だけであやせが来ないんだったら桐乃の指示なんかなくたって、喜んで俺は家から飛び出すだろう。 受験勉強なら図書館でだってできるし、そうでなくても田村家に避難すれば良いだけの話だからな。 けれども出て行かないのは一重に、ラブリーマイエンジェルあやせたんとの半ばハプニング的などきどきイベントが起こる可能性が少なからずあるからだ。 「ケッ、そこまでいうんなら俺は部屋で受験勉強してっから。あんまり五月蠅くすんなよ。迷惑だからな」 「な……っ! なによ、その言い方! あ、あんたこそ、妹の友達が来てるからって興奮して、隣の部屋でへ、へへへ、ヘンなことしないでよ!」 「誰が妹の友達が来ることなんかで興奮なんかするかっ!」 俺は妹との不毛な言い合いをやめ、リビングで冷蔵庫の中にあった烏龍茶で手早くのどを潤すと、足早に階段を上った。 そういえば、俺が偽名を使って加奈子のマネージャーをしていたことは、加奈子には秘密だったか。 だとすれば、ばれるかもしれないことを考えると顔を合わせるのはまずいだろう。 まあ、あの阿呆の子がその事実に気づくとも思えないのだが、いかんせんもし加奈子にばれたときに後に行われるであろうあやせの折檻が怖い。 そういう意味でも、やはり俺はなるべく姿を見せないようにした方がいい。 俺が自室へ入り、後ろ手に扉を閉めた瞬間、玄関のインターホンが鳴った。 直後、桐乃が猫なで声を出して友人を迎える。 「おじゃましまーす」「ちーーーっす」と、礼儀正しいあやせと小生意気な加奈子の声も続いて聞こえてきた。 「さて。俺はおとなしく自分の勉強に集中しますかね……」 机の上に置いてある問題集と、ノートを開いてシャープペンシルを手に取る。 今はもう秋である。センター試験までも後数ヶ月とそう大して時間があるわけでもないのだ。 長いこと継続している麻奈実との勉強会の成果か、志望校の大学はもう安全圏内ではあるが、油断禁物である。 まもなく、妹とその友達が階段を上ってくる足音がしたが、言いつけ通り顔も姿も見せることもなく俺は数学の問題に取りかかることにした。 ――のだが。 俺の部屋と桐乃の部屋を仕切る壁はなぜかやたらと薄い。 隣の部屋で少し大きめな声で話していると壁に耳をくっつけなくてもその話の内容がわかるほどに。わかってしまうほどに。 あまり五月蠅くしないように桐乃には言っておいたはずだが、無意味だったらしい。 さっきから桐乃達の会話がだだ漏れである。 生の女子中学生の会話を聞きながらも自分の勉強に集中することができる男子高校生がいったいこの日本に何人いるというのだろう。 もしいるってんだったらお目にかかりたいね。 それは、俺にはもちろん到底無理な芸当である。 できるやつは瀬菜が好むようなガチホモ野郎ぐらいじゃなかろうか。 ……やっぱりお目にかからなくてもいいかな。 というわけで、俺は今、このどうしようもない感じを持て余してベッドの上で悶々としている。 桐乃達の話の内容は殆どが他愛もないものであり、それぐらいなら俺も大して辛くないのだが、ついさっきふとした拍子に俺についての話になったんだ。 「ぶっちゃけさぁ~、桐乃って兄貴のことどう思ってんのぉ~?」 壁越しだが間違いない、この人を意図的にいらつかせようとしているかのごとき口調は加奈子である。 「へっ!? …や、やだなあー加奈子ったら、そんなことどうだっていいじゃーん?」 やはり加奈子だったか。 ちなみにこちらは桐乃だろう。相変わらず猫なで声が気持ち悪いが、妹の声ぐらい判別できる。 「えー、それ、私も気になるなー。桐乃ってお兄さんのことどう思ってるの、実際」 ……………………あやせ……さん? ――賭けてもいい、今あやせはおそらく顔は笑っていても、目は笑っていないに違いない。 「どうも思ってないよぉ、ほらいいでしょ、これでえ?」 「だめだよー、桐乃。だってさ、桐乃ったら学校でもいっつもお兄さんの話ばっかりしてるじゃない?」 ……そうなのか? あの究極の兄嫌いの桐乃がか? 何かの冗談じゃないかとも思ったが、壁の向こうの少女達は至ってまじめに会話を続けているようである。 「ああ、あ、あやせ!? なな、ナ、ななななにいってるの!? そんなことないって!」 「うへへ、今の桐乃の顔おもしろかったぁ。……でもさあ、こんなにあわてるってことは、桐乃ってやっぱり兄貴にぞっこんなんじゃねーのぉ?」 「か、加奈子までそういうこと言って。そそ、そんなわけないジャン」 「えー……、うっそじゃねーのー?」 「本当だって~! ……あやせの方こそどうなのよ? 彼氏とかいないのー?」 「あー! それ、加奈子も気になんなー、どうなのよぉ、あやせ」 どうでもいいけれど、ひどく移り身の速いガキである。 たった今まで桐乃をいたぶっていたとは思えないほどの身の翻しようで今度はその標的をあやせに変更したようである。 だが、あやせに関しては俺も興味がある。 俺は耳を壁にぴったりとくっつけて、隣の部屋の音に神経をとがらせる。 「あはは、私は彼氏なんていないよ?」 「えー、でもでもあやせだってかなりモテるらしいじゃん? この前だって近所の公園で年上の男の人となんか仲良さげにしてるの見たって人いるらしーし」 な、なんだってーっ!? あやせたんに……、ラブリーマイエンジェルあやせたんに彼氏だってーっ!? ちょ、ちょっとそれ俺初耳ですよ!? 「え、えっと……その人は別にそんなんじゃない……っていうか、なんていうか」 「ねえねえ、その人ってどんな人? 優しい系? かっこいい系?」 「…………優しい……人、かな」 「キャー! もうメロメロって感じジャーン! 付き合ってないのー?」 「……って、違うってばー! そんなんじゃないって!」 ぅうう、あやせの好感度が少しでも上がるかなって今までいろいろな相談事につきあってきたけど、それは全て無駄だったのか? 話を聞く限りどうやらあやせには既に気になる男性がいるようである。 それもかなりご執心のご様子で、お忍びデートの経験すらあるらしい。 俺なんかの出る幕じゃないってか。 あまりのショックに立ち直れない俺は布団を頭から被って丸くなる。 そうすると全く隣の部屋の話し声は耳に入らなくなった。 「チクショー……」 小さく呻く。 もちろんあやせに本気で恋している、というわけではなかった……ハズだ。 だけれどもなんだかんだで一番気になっていた女の子であることは間違いない。 悔しくないはずはなかった。 勝手に聞いておいて言えることではないのかもしれないが、正直、こんな話聞きたくなかった、と思った。 しばらくして俺はのっそりと起き上がった。 激しい精神的ダメージのせいで、もうボロボロである。このまま勉強を続ける気など、当然起こるわけもない。 俺はベッドから転がり降りるとゆっくりと這い上がり、部屋を出て、リビングに向かった。 しばらく頭を落ち着かせたいと思ったからだ。 音を立てないようにそっと扉を開け、首だけ廊下に突き出して部屋の外の様子をうかがう。 ――ふむ。桐乃やあやせ達が出てくる気配は全くないな。 俺は音を出さないよう気をつけつつ、それでもなるべく速くリビングへと階段を下りていった。 リビングの扉をゆっくり開けて、素早く体を中に入れた。 食器棚からガラスのコップを取り出すと、烏龍茶をなみなみに注いで、窓際に陣取る。 そして窓の外の景色を眺めながら、コップの中身をちびちびと飲むことにした。 そんな黄昏たいような気分だったんだ。 あるいはこれが「呑まなきゃやってられない」というものなのかもしれない。 ペットボトルの中身を飲み干した頃に時計をみると、既に部屋を離れてから10分ほどの時間が経過しているようだ。 いくらか気持ちも落ち着いてきたことだし、いつまでもここで落ち込んでいるわけにもいかないだろう。これでも一応受験生だしな。 俺は一度だけ大きく伸びをして体を解すと、空になった烏龍茶のペットボトルを捨て部屋に戻ることにした。 再び感づかれないように階段を静かに上る。 もし部屋の外にいるのを見つけられれば後でしばかれるのは目に見えている。 なので俺は全身全霊を込めてそっと、そーっと、一歩一歩階段を踏みしめて上っていく。 ようやく階段を上りきったところで、桐乃の部屋から楽しげな話し声が聞こえてきたため、まだあやせと加奈子は帰ってないんだな、と思った。 だから、俺は自分の部屋に戻ってその扉を開けたとき、目の前に広がっている光景をにわかには信じることが出来なかったんだ。 だってそうだろう? 「な――、お、おま、お前――」 「んあ?」 そこにいたのは煙草を右手にして、大きく開け放たれた窓からぷはー、と煙を吐き出しているクソガキもとい加奈子だったんだから。 しかも、なんか色々とつっこみどころ満載である。……よく見ると、部屋の隅に明らかに外靴と分かるブーツが無造作に転がっているし。 「お前、なにやってんだ!? それにどうして俺の部屋にいんだよ?」 俺に問いただされて初めて我に返ったのか、加奈子は顔を青くすると、あわてて煙草の火を消してそれを隠そうとした。 って、加奈子さん? あなたが今煙草を押しつけた本、麻奈実から借りた問題集なんですけど。 「テ、テメーどうしてここにいやがる!?」 「どうしてって、ここは俺の部屋だっ!」 「へ……? …………あーーーっ!! おめー、桐乃の兄貴だったのかよ!?」 思わず反射的に返してから俺は初めて自分の失態に気づいた。 この物言いからすると、どうやら加奈子は突然部屋に入ってきたのはコスプレ大会の時のマネージャーだと思ってビビっていたらしいが、 俺の一言でずっと隠してきていた桐乃の兄貴=マネージャーというのがばれてしまったらしい。 俺がどう反応しようか迷っているうちに、加奈子はというとなにやらしきりに頷いている。 にやにやと面白くて仕様がないかのようにこちらをちらちらとうかがっている。 「そっかー、そっかー、おまえだったのかヨ」 「ま、まあな」 「……あり? でも、てめー赤城とか言わなかったっけよ?」 ばれてしまったモノは仕様がないだろう。今更どう取り繕うとおそらくもう手遅れだろうし。 俺はあやせのお仕置きを受ける覚悟を決めて、加奈子にすべて包み隠さず話してしまうことにした。 「ん? ああ、それ偽名なんだ。俺の本当の名前は高坂京介だ」 「へー……京介、ね」 っと……今は、こんなことよりも言わなきゃいかんことがあったな。 「ところでお前さ……俺が入ってきたとき煙草吸ってたよな?」 「ギクゥ!」 擬音を口にする娘は世界広しといっても麻奈実ぐらいだと思っていたが、どうやらここにも居たらしい。 多少あきれながらも加奈子の様子を眺めていると、面白いぐらいのうろたえっぷりだった。 加奈子は顔面を蒼白にし、歯をガチガチさせながらさながら小動物のように小さくなって震えている。 クソガキでも黙っていれば、少し可愛いく見えないこともないかもしれない。 「な、なあー……。おめーこのことあやせにいうのかよ?」 「……ああ。さすがに煙草はまずいだろ。ってかお前あやせに禁煙させられてなかったっけ?」 「そそそ、それはそうなんだけどよぉ……」 「だったら何で煙草なんて吸ってたんだよ。しちゃいけないことだっていうことぐらい分かってるだろうに」 「だってぇ……」 まるで子供に対する説教である。 まあ実際加奈子なんて俺にとっては身長的にも子供みたいなもんだしな。 加奈子はもじもじと言いよどんでいてこちらの質問にもはっきり答えないし、要領を得ない。 仕様がないので、俺は優しくあやしてやることにする。 「加奈子はイライラしてるときとか集中したいときとかに吸いたくなるんだったっけか」 コクリと頷く加奈子。 心なしか目元は潤んでいるような気がする。 さすがにアイドルを目指しているだけはある、こうして黙っていればずいぶんと可愛いものである。 「加奈子はイライラしてたのか、それとも何か集中したいことがあったのか?」 なるべく詰問口調にならないように気をつけながら軟らかく聞いてみたが、加奈子が口を開く様子は一向にない。 仕方がないのでもう一度俺が口を開きかけたとき、加奈子がようやく答えた。 「どっちかって言うと……イライラしてた……、のかなぁ? …………えっと、さ。桐乃のやつもあやせのやつも……す、好きな奴と会ってたりなんかするらしくてさぁ」 ゆっくりとその思いをポツリ、ポツリ、と語る加奈子。 俺は「桐乃のやつも」のところで突っ込みたかったが(桐乃が俺のこと好きってさすがにあり得んだろ?)そうすると、 先ほどの会話を聞いていたことがばれてしまうし、何よりせっかく話し始めた加奈子の話の腰を折ることになってしまう。 結局俺は何も言わずに加奈子の言葉の続きをただ、待つことにする。 「それで……、ホラ、恋人っていいなぁとか思っちまうだろ? あやせなんかはもうデートもしてるらしいしよお……」 へぇ。こいつでもそんなこと思うんだ。 「…………加奈子にだって……す、好きな奴ぐらいキチンといんだぜ?」 それは意外だ。こんなちんちくりんでも一丁前に恋なんかしちゃってるなんてな。 だが、そのセリフを吐きながらこちらをちらちら窺い見るのはやめてくれ。 俺にどう反応しろと。なんかのリアクションを求めてんのか? 「……だけどよ、加奈子はそいつとたいして会うこともできないし、ましてやデートなんてしたこともないしよ……、なのにあやせは」 「……そっか」 短く返してやる。 だが大体の事情が分かった。要するに加奈子は恋愛において自分より先に進んでいる桐乃やあやせに嫉妬しているらしい。 なんともありがちな話である。 「それで……か?」 加奈子は小さく頷く。 「居てもたってもいられなくなったから……帰るフリして桐乃ん部屋を出て、靴だけ持ってきてどこか適当な部屋で一服しよーかなー……、て。 ……外じゃ吸えねーし、あやせに見つかるわけにもいかないしよお……」 だから俺の部屋にいたのかよ。 ったく、本当にいい迷惑だっつの。 もしお袋が俺の部屋に入ってきたときに染みついた煙草のにおいに気がつきでもしたらどうしてくれるんだ。 そうでなくても窓から漏れ出る煙が近所のおばさんに発見されればすぐにお袋の耳に届き、そのまま家族会議に突入するのは目に見えている。 俺は思わず頭を抱える。 「な、なあ……き、京介」 そんな俺に向かって加奈子は恐る恐る言葉を投げかけてくる。 ……どうでもいいけど俺のこと呼び捨てかよ。 「どうしてもあやせにこのこと言うのかよ?」 「ああ」 事情をすべて聞き終えた今、これ以上加奈子をあやせに引き渡すのを先延ばしにする理由もない。 時折聞こえてくるとなりの部屋の話し声から推測するに、あやせはまだ帰ってないだろうし。 「なあ……、どォーっしてもかよ?」 「……ああ。しちゃいけないことしたってんだから言わないわけにもいかないだろ」 「…………ッ」 加奈子は唇を噛んで少しうつむき加減で何かと葛藤している様子だった。 俺はできることなら加奈子に自分から煙草を吸ってしまったこと、反省してほしかったし、あやせには自首してほしかった。 それは加奈子がただの見知らぬガキではなく、そこそこつき合いのあるガキだし、仕事ではブリジットの姉貴分として手本となる行いをするべきだと思ったからだし、 何よりも、月並みな言葉にはなってしまうが、そうでなくては加奈子のためにならないと思ったからだった。 「きょ……京介?」 「何だ」 「加奈子キチンと煙草やめっからよ……それじゃあ、ダメ?」 俺は一頻り考えた。 もちろんそれで加奈子が煙草をやめられるならそれでいいのだろう。 だが、あやせに脅されて禁煙すると誓ったにも関わらずその約束を破った加奈子である。 今ここで約束してもそれが破られてしまう気がする。 「ダメじゃないさ。……だけどお前、そう言っておきながら煙草吸っちまったわけだしな。口でいくら「煙草はやめます」って言っても信用できないだろ。 それにお前、俺の言うことちゃんと聞きそうにないしな……、だからあやせに任せようと思う」 「だったら……、信用…………できれば……いい、のかよ?」 「……まあな。そういうことになるな」 俺はほとんど何も考えずにそう目の前の加奈子に返していた。 ……後から思うと、この一言が俺の運命を決定づけたのだと思う。 たくさんの分岐がある中からたった一つの道を選び抜いた瞬間。 エロゲー風に言えば『加奈子ルート』に入った、ということだろうか。 ただその時には俺は何か人生における重大な選択をしてしまったという自覚は全くなくて、 突然身体全体に伝わってきた加奈子が胸に飛び込んでくるその感触と密着してる加奈子の体温の暖かさしか頭の中にはなかった。 「――――なっ」 かなりの勢いで加奈子に突進された俺はとっさに受け止めきることができなかった。 そのためドサリと二人してベッドに倒れ込む。 そしてそのまま加奈子は異様に手際よく俺に馬乗りになった。 「いったい、何のつもりで――」 「信用」 「……あ?」 「だからぁ……か、加奈子が……、信用させてやんよ」 そう言うが速いや加奈子は俺の顔に自身の顔を近寄せ、そっと軽く触れるように口付けた。 俺が何が起こったのか理解できずに固まっているのをいいことに、加奈子は再び口付けた。 ただし、今度は唇と唇をくっつけるだけのものとは違う。 ディープな、接吻。 「……んっ、」 一方的にではあるが、加奈子は舌を巧みに使って俺の唇のわずかな隙間に進入し、俺の舌に絡めようと動かす。 「……っぷぁ、んふぅ、……っんっん、」 そして咥内を舐めあげたり、唾液を垂らしてきたりする。 そんな加奈子の豹変についていくことのできない俺は、その行為をただ受け入れることしかできない。 不意に加奈子が起きあがった。 「……ど、どーヨ?」 「…………?」 加奈子が何かこちらに話しかけてきたのだが、唾液をしこたま流し込まれたせいか息が切れてしまい質問の内容と意図をうまく把握することができない。 すぐに返事を返すことのできない俺にしびれを切らしたのだろう、加奈子は不機嫌そうに口を開いた。 「だーかーらー、加奈子のキスは! 加奈子のキスはどうだったかって聞いてんのっ!」 「えっと…………………………………………ヤニ臭かった」 問いかけの意味は理解できたものの未だこの不可解な状況に頭はついていかないので、取り敢えずキスの素直な感想を告げる。 するとそれを聞いた加奈子は俺の目の前まで顔を近づける。だが、口付けには至らない。 「だったらよく覚えておけヨ」 「……ヘ?」 「そうすればオメーは加奈子とキスすれば加奈子が煙草吸ってるか分かんだろォが」 「…………ハイ?」 「毎日学校前と、放課後にキスして確認して。休みの時は一日中一緒にいればイイし――」 「………………え?」 「で、でもでもっ、しょっちゅう一緒にいるとなると不自然だからさァ、京介、おめーは加奈子のか、かか、彼氏ってことにしてやんよっ!」 「……………………チョット待ってくれ」 「な……、なんだよ」 「どうして俺がおまえの彼氏になんかなんなきゃいけねえんだ?」 「理由だったら今言ったじゃねーかヨ」 「そうじゃねえっ! そもそも好きでもないのに恋人なんて――」 「ああもうゴチャゴチャうるせぇー、男だったら腹括れよ!」 三度唇を押しつけてくる加奈子。 ただ、今度は加奈子はキスをしながらもその手を下に持って行き、俺のズボンの股間あたりをワサワサやり始めた。 「……くっ、……や、止め」 意志に反して呻き声がこぼれでる。 その俺の反応に加奈子は満足したようで、ニヤリと笑うとズボンとトランクスに手をかけて一気におろした。 ポロリとその姿が晒される俺のリヴァイアサン。 「へ、へー……こんな風になってんだ……。……結構かわいいカモな……」 一瞬加奈子は萎えている状態のそれにひるんだ様子だったが、キスを中断してそれをじっくり観察する。 女子中学生、それも妹の友達に自らの陰茎を間近に観察されるというだけでもヤバいのだが、その上加奈子の熱い吐息が俺のリヴァイアサンにかかる。 この状況にリヴァイアサンが勃ち上がってしまうのはいたって自然な現象といえるだろう。 とか言い訳したくなるが、要するに俺はこのわけわからん状況に不覚にも興奮してしまっていた。 「ウワw、勃起しやがった……。口では色々言ってたけどよ、身体は正直なもんだなwwww」 「これは……ち、違っ」 「何が違うんだよ。本当は期待してたんだろ? 超絶美人の加奈子サマにエッチなことしてもらえるってヨ」 途端に俺の部屋を襲う凄まじいほどの静寂。 物音一つしないその空間に俺の言葉が響きわたる。 「超絶……………………美人??」 「おうよ。……な、なんだよその目は」 自信満々に胸を張った加奈子に対して俺は無言で加奈子の全身を眺め回す。 そして両手を伸ばして加奈子の頭、頬、肩、二の腕、脇腹と次々に触れていき、最後に胸に手のひらを押しつけてみた。 ゴツゴツと、ただひたすら硬いだけの感触。 「…………骨……?」 バコーン、と桐乃の携帯小説の中に出てきそうな擬音がしたと思ったときには、俺は頬にすさまじい衝撃を感じ吹っ飛び壁に後頭部をぶつけていた。 驚いて起きあがって見ると、加奈子は涙目で右こぶしを突き出していた。 どうやらあれで殴られたらしい。 「テメーいくら何でも言っていいことと悪いことあんだろォ!? …………加奈子だって気にしてんだからよぉ」 「……す、すまん」 よほど胸のことを気にしていたのだろう、コンプレックスを直撃してしまった俺は素直に謝っておく。 加奈子は一頻り涙を流し終えると、再び俺の胸に飛び込んできた。 そのまま俺の背中に回される小さな両腕。 そして加奈子は顔を埋めたまま喋り出した。 「さっきよぉ……、か、「彼氏にしてやる」って言っただろ?」 「あ、ああ……言ってたな」 「アレ…………本気だかんな」 ……え? 今、加奈子さん、あんた何て言いました? 「本気」っていったいどういうことだ? 俺の頭の上に浮かび続けるクエッションマークが見えたのだろう。 加奈子はぷくっと頬を膨らませると俺に告白した。 「だからァ、加奈子はおめーのことが好きだっつってんだよ! 京介のことを愛してるっつってんだよ!」 「――――っ!?」 聞き間違いかと思った。 あるいは何かの冗談ではないかと思った。 しかし加奈子の表情は窺い知ることはできないけれどその話し方から真剣な様子は伝わってくる。 加奈子は続ける。 「だ、だ、だからよォ……、そ、その……、よぉ……」 加奈子は顔を上げると見上げるように俺の瞳をまっすぐに見つめる。 「加奈子と…………付き合って……ください」 俺はようやくこの時になって今までの数々の加奈子の言動はすべて照れ隠しであったことに気がつくと同時に、俺は加奈子にたった今告白されたのだと気づいた。 普段からそのとどまることを知らないクソガキっぷりで俺を(そして俺以外の人も)困らせるメルルそっくりのちんちくりん。 俺の中で来栖加奈子という少女はそういう認識だったはずなのに。 今、顔を赤らめて俺の答えを待ち続けている加奈子を見ていると、その認識が揺らいでいることに気がついた。 ブリジットのピンチ(後でそれは早とちりだと判明したのだが)には体を張って自分よりも年下の女の子を守ろうとして。 常日頃から言葉遣いは荒くても根は優しいガキなんだなって思って。 今俺の目の前には加奈子の顔がある。 その顔を見つめてこうしていると不思議な気分になる。 普通の感情とは明らかに違う、もっと形容しがたい想い。 俺はずっとクソガキと思っていた加奈子にいつからか無意識のうちに愛情を抱いていたらしい。 加奈子の背中に手を当てて引き寄せ、そっと抱きしめる。 「加奈子。俺……さ。ずっとお前のことクソガキだって思ってた。初めて会ったときも――お前がこの家に遊びに来たときだけどさ――同じ様に思ってたんだ」 俺はそんなに語彙が豊富なわけでもないし、話術に特別長けているわけでもない。 だから、自分の思いをただ語ることしかできない。 「コスプレ大会の時だってあやせに頼まれたからマネージャーなんて難儀な役目引き受けたんだしな。 ……でも、あん時は正直見直したよ。ずっとクソガキだと思ってたけど案外根は正直な奴なのかもしれないってな。 二回目のマネージャーのときに俺はブリジットを必死になって守ろうとするお前を見てそれが間違ってなかったって確信したんだ」 俺はここでいったん言葉を区切り、加奈子の身体を離す。 加奈子の瞳には安心しきったような穏やかさが満ちている。 それを見た俺は自分も次第に落ち着いていくのを感じた。 「加奈子。俺も加奈子のことが好きだ。愛してる。ようやくそうなんだって俺は気づけたんだ」 「じゃ、じゃあっ――」 「ああ。俺も加奈子に俺の彼女になってもらいたい。……だめかな?」 プルプルと勢いよく首を横に振る加奈子。 その加奈子には似つかわしくない可愛らしい様子に俺は思わず笑ってしまう。 加奈子はそんな俺を見てむくれた。 「なんだよ笑いやがって……ヒトがせっかく……」 「はは、悪い悪い……」 どちらからともなく抱き寄せあう俺と加奈子。 「愛してる」 「か、加奈子も愛してる」 小さくも愛おしい、その存在を優しく抱きしめる。 加奈子は力を抜いて俺に任せてくれているのだろう、そのままの姿勢で1分ほどの時間が過ぎた。 だが、不意に加奈子が口を開いた。 「あのよォ……。なんかさっきからずっと硬いモノがお腹に当たってんですケド」 「あっ…………」 加奈子が頬をほのかに赤らめ指を指しているのはさっきから勃起し続けている俺のリヴァイアサン。 ……なんて言うか我ながらムードぶちこわしで申し訳ない。 「続き……加奈子がシてやんよ」 加奈子は恥ずかしがりながらもソレをしっかりと見据え、そう宣言すると、 すっかりカチカチになってしまってからずっとその硬度を保ち続けていた男根を撫でるような手つきで包み込む。 「……ん……」 「気持ちいい……のか?」 「ああ。……気持ちいいよ」 「えへへ。よかった」 加奈子はホッとしたように笑う。 まるで初めて行う行為で恋人が悦んでくれたことに安心するかのように。 その様子に面食らった俺は加奈子に尋ねる。 「お前って……、もしかしてこういうこと初めてだったのか?」 「あっ、あ、あっ、あったりめーだろーがぁっ!! てめー加奈子のこと何だと思ってんだよ!?」 「ははは、そっか、悪い」 別に意外なことではなかったのだが、加奈子の以前と変わらぬその口調に俺はうれしさを覚えた。 なんだか、恋人になっても加奈子は加奈子なんだって。 加奈子は俺の前では変に飾ったり偽ったりしないで素の自分を見せてくれるんだなって。 そしてそれってきっと幸せなことなんだろうなって思ったから。 「お、オメーこそそこんとこどうなのよ? 実は経験豊富だったりしねーよな?」 「んなわけねーだろ」 「そ、そっかー、そうだよなー、オメーみたいな地味面は加奈子くらいしかその本当の価値は見抜けないからなー。……えへへ」 そう言いながらも加奈子はリヴァイアサンへの愛撫を止めることはない。 先ほどのただ手を動かすだけの動きとは違う、愛でるような動き。 それに加えて加奈子はおもむろに舌を這わせ始めた。 「うおっ!?」 「れろ、男って、ちゅ……、こうされると、……ぱっ、嬉しいんだろ、……っろれ……」 はじめはゆっくり、次第に速く舌が竿の上をうごめく感触は、自慰やただの愛撫では得られない快感を俺の脳に送り込む。 さらに加奈子は舐めながらどんどん亀頭の方へ舌を登らせていく。 「れお、ろれれ、んぱ、れろれ、っちゅ」 「……くっ、……っあ」 上目遣いで俺の様子を確かめる加奈子。 普通に、可愛い。 加奈子はついに鈴口のところまで到着すると、その小さな穴の付近を擦るように舌を動かす。 「れろれろれろ、れ、ろれ、れろれろ、……ど、どーヨ?」 「っああ、すげえ気持ちいいよ、加奈子」 「だったらこんなのは、どうかなぁ……はむ」 えへへと笑うと加奈子は俺の陰茎を一気にくわえ込む。 そしてそのまま唇で挟み込んでしごいたり、吸いついたりする。 俺はその未知の刺激に一気に高められる。 「や、やばいっ。出そうだっ」 増していく射精感に思わず加奈子の後頭部に手を当てて押さえ込み固定してしまう。 「……んぷっ!? ちょ、ちょっと放しっ」 「くっ、出るっ!」 「なっ、ま、待っ――」 どぴゅっ、ぴゅぴゅる、ぼぴゅっ、どぴゅぴゅるっ 「……ボゴッ!? ……もぼぼっ、もぼっ、…………んくっ、こくっ、こくんっ」 放たれた欲望は、加奈子の口の中を蹂躙して、あふれかえった分がシーツの上に垂れ落ちる。 すべて放出してしまってから俺は思わず加奈子の口の中に射精してしまったことに気付き、慌てて謝る。 「悪ぃっ、加奈子! 口ん中に出しちまった! ……加奈子?」 加奈子は俺の言葉に反応することなく俺の股間に顔を埋めたままである。 少し心配になって加奈子の頭頂部を軽くぽんぽんとはたいてみると、ようやく顔を上げた。 「……………ばする」 「へ?」 「……ねばねばする」 加奈子はその可愛らしい小さな口から白濁した液体を垂らしながらそう感極まったように告げた。 まあ、そりゃあそうだろうなぁ。 「う……、おぇ」 加奈子は口の中に指をつっこんで顔をしかめている。 気持ち悪そうにしている加奈子をみていて俺は気づいたことがあったので尋ねてみる。 「もしかしてお前、精液飲んだのか?」 コクリと頷く加奈子。 マジかよ。口ん中に何もなかったように見えたからまさかとは思ったけどさ。 「なんでだよ?」 「加奈子、一度ザーメンって飲んでみたかったしよぉ~」 女子中学生がザーメンなんて言葉使うんじゃねえ。 「それによぉ~、そうした方が喜んでくれるかなぁって思ったから」 ……そうですか。 そんなこと言われちまったら彼氏としては何も言い返せなくなるだろうが。 口からわずかに精液を垂らしながらこちらに微笑みかけている加奈子。 その姿を見ていると今まで以上に愛おしく思えてくるから不思議だ。 「でも、不味いだろ? 別に飲んでくれなくったっていいんだぜ?」 「ううん、加奈子が飲みたいってんだから、京介は飲ましとけばいーの。それに言うほど不味くないしヨ。……確かにねばねばするけど」 そういうもんか。 まあ、確かに俺も飲んでくれた方が何となく嬉しいことは嬉しいけどさ。 でも、精液を不味くないって言う女子中学生って何かもう色々と駄目な気がする。 などと俺が頭を抱えていろいろと悩んでいると、ちょんちょんと肩をつつかれたので顔を上げる。 加奈子はかつてないほど顔を赤く染め上げ、俺に媚びるような口調で話しかけてきた。 「ねえ……、それよりもさぁ……、今度は加奈子のカラダ……触ってくんねー?」 俺は手を伸ばして加奈子が服をまくり上げるのを手伝ってやることでそれに応えた。 「ど、どうだ?」 「んっ……イイ感じぃ」 というわけで今俺は加奈子の胸を触っている。 さっき触ったときも思ったが、やはり骨の感触が強い。 まあ、別に加奈子はまったく胸がないというわけではないのだけど。 平均よりは明らかに足りてないだろう。 だが、それでも目の前で年端もいかない少女が、自身の服をまくり上げて「触って」なんて言ってきたら正常な男なら我慢できるはずもない。 ……ちなみに加奈子はブラの類は付けていなかった。 ポチリとそこだけほんのりと色づいている乳首を指の平で擦る。 「んっ……、そこ、んんっ……、いいっ、……ふぁ、んあ」 俺はこういうことに疎い方なので、エロ本や桐乃に押しつけられたエロゲーで得た知識を総動員して愛撫する。 わずかな胸に手を覆いかぶせて揉み。 乳首を指で転がしたり引っ張ったり弾いたり。 時折キスを混ぜながら行為を進めていく。 俺の拙いそれは加奈子の切なそうな喘ぎと次第にプックリと盛り上がってきた乳首から見て快感を送り込むことに成功しているらしい。 気をよくした俺は、右の乳首は指でいじり続けたまま、左の乳首を口でくわえ込む。 中心を舌で強く押し込んだその途端に加奈子はより一層高く鳴く。 「あぁぁっ、ふあぅぁ、んぁぁあ、ひゃぁっ!」 「ひもひひいか、かはこ?」 「んあぁっ! イイ、ひぁ、けどおめー、んゃっ、チョット激しすぎ、んくぁっ、いったん止めて――」 俺は加奈子の言葉に従っていっさいの愛撫をやめる。 そして俺に寄りかかって息も絶え絶えになっている加奈子の背中をさすってやる。 「大丈夫か?」 「ん……、大丈夫。ケドよぉ……」 「何だ?」 「胸ばっかりじゃなくて……、今度はコッチも……シてぇ……」 そう言って加奈子は可愛らしいフリルの付いた短めのスカートを持ち上げた。 むわりと香り立つ加奈子の雌の香り。 スカートの中には乳首への刺激によって既に湿り気を帯びたショーツが顔をのぞかしていた。 「脱がして……ぇ……」 「うおぁっ! いきなりなんて声を出すんだ!?」 「だ、だってぇ……、さっきからココ……、熱くてぇ……」 「自分で脱げばいいだろ!?」 「脱がしてくれないのぉ……?」 「……ううっ」 そんな風にそんなことを頼むなんて反則だろ。 幾分か潤んだ期待の眼差しを裏切ることなんて到底出来そうになく、俺は仕方なく加奈子のショーツの縁に手をかける。 今気づいたけど、加奈子のショーツはレースの装飾が付いたずいぶんと大人びたデザインのものである。 ……無理に大人ぶる必要なんかねえのにな。 ショーツを脱がすため加奈子の顔を近づける。 深まる淫臭。 頭がくらくらしそうだ。 「加奈子、腰浮かせてくれ」 俺の言葉に反応して、ショーツを脱がしやすく腰を浮かす加奈子。 ショーツを抜き取る一瞬、加奈子はピクリと震えたようだったが、それはすぐに治まった。 ついに露わになった加奈子の秘所。 恥毛は産毛のような細いのが申し訳程度に生えている程度で加奈子の身体の幼さを表しているようだったが、トロリと愛液が垂れている陰唇は十分淫靡な様子を醸し出していた。 始めてみるナマの女性器は綺麗とか美しいとかよりもむしろ可愛らしいという印象を俺に抱かせた。 「あ、あんまジロジロ見んなよ……恥ずかしいし……」 「う……すまん」 試しに指を伸ばしてスジを伝っている蜜をすくってみる。 ぬちょりと、粘性の高い液体が指に絡みつく。 愛液の付いた指を口に含んでみると、少ししょっぱいような暖かいような味がして、立ちこめるほのかに甘い香りはより強くなったようだった。 「早く触ってぇ……」 加奈子である。 俗に言うM字開脚の状態で俺を誘っている。 僅かに割れて中が見えそうになっているクレヴァス部分がなんともいやらしい。 「いいのか?」 「熱いんだってぇ……、だからぁ、早くぅ……」 「じゃ、じゃあ……触るぞ」 「う、うん」 とは言ってもどのように触ればいいのかいまいち分からない。 取り敢えずピトリと人差し指を秘裂に沿えて上から下へと繰り返し動かしてみる。 加奈子はその動きに合わせて身体をふるわせている。 「んっ……、くぁっ……、ひぁっ……」 「こ、こんな感じか……?」 「もっと強くぅ……」 加奈子がおっかなびっくり触っていた俺の手を掴んで指を奥へと導く。 俺はあまり中に入りすぎてしまわないように気をつけながら、くちゅくちゅと音を立てて指を動かす。 「……んゃっ、……ひやぁっ、……ああっ、……はぅわぁっ」 「気持ちいいのか?」 コクコクと激しく首を振り肯定する加奈子。 俺はその反応が無性にうれしくて、さらに快感を感じてもらいたくなった。 なけなしの知識から搾り出したさらなる快感を感じてもらう方法。 口で――俺はいわゆるクンニをする事を決断した。 少し、さっき予告なしにフェラをされたことに対する仕返しの意味も込められている。 秘裂を弄る手はそのままに、怖ず怖ずとぬめぬめしている局部に口を近づける。 加奈子は目をぎゅっと閉じて快感に耐えているので俺の舌が自らの秘所に近づいていることにはまだ気づいていないようでる。 ――ペロ。 「んひゃっ!?」 感度がすこぶる良い。 フェラの時思ったことなのだが、舌のザラザラが快感を増幅させる刺激になるのではないだろうか。 「おっ、おめっ、おめー、な、ナニ舐めて――!?」 「いや、ほらさ。さっきは加奈子にしてもらったから今度は俺がしてやらないと不公平だろ」 「で、でも、いきなりなんてよぉ……、びっくりすんじゃねーかよ」 「ごめんな。……なら、改めて聞くけど、俺は加奈子のココを舐めたい。舐めても良いか?」 「…………良いケド」 顔を赤くして目をそらしてそうぼそりと言う加奈子。 ああもうっ、本当に可愛いなコイツは! 「じゃあ、舐めるぞ」 気を取り直して、許可を取ってから、光を反射して輝いている淫裂を舌でなぞる。 加奈子の身体は経験したことのない快感に逃げようとするかのように悶えるが、俺は両太股を手で押さえ込み、逃げることを許さない。 「……んぁあっ、……にゃぁっ、……んひやっ、……ひあぁっ!」 俺が舌を這わせ、加奈子が身体を震わせる度に分泌される愛液の量は明らかに増えてきている。 淫臭も次第に濃く立ちこめるようになってきて頭がぼうっとしてきた。 こりゃ、煙草の臭いはバレなくてもこの臭いはお袋には誤魔化せないかもな―― そんなことを考えていると、加奈子の腰が今まで以上にガクガクと震え始めた。 「んゃぁああっ、ひぁあぁぁっ、あぁぁっっ、んにやぁぁっ!」 絶頂に達しようとしているのだろうか。 加奈子は先ほどとは打って変わって陰部を俺の顔に押しつけるような動きをしている。 貪欲に快感を求める動きである。 俺は舌を浅く淫裂の中に差し込んでいく。 温かい、ひだひだの内部の感じが舌に心地いい。 「んゃぁあっっ! ひぁぁああっ! んぁあぁあっっ! んくはあぁぁっ!」 俺は止めだとばかりに淫核があるだろう箇所を指でグリグリと擦ってやる。 効果は絶大。 おそらく今までで一番大きな震えとともに、加奈子は一気に絶頂へと、持って行かれた。 「イくぅっ! イくぅぅっ! イっくううぅぅぅっっっ!!」 ピチャッ、とあふれ出た愛液が俺の顔に降りかかった。 ぐったりとしているものの恍惚とした表情で俺にしなだれかかる加奈子。 実に嬉しそうに俺の胸にほおずりしたり腰に手を回したりして甘えてくる。 俺もそんな様子の加奈子がどうしようもなく愛おしく感じ、頭を優しく撫でてやる。 それに気づいた加奈子は俺の顔を見上げるようにして、笑う。 俺も笑い返してやったさ、もちろん。 俺と加奈子。 一つのカップルのお互いの絆が深まった瞬間だった。 彼氏は彼女の。 彼女は彼氏の。 お互いの顔を見つめ合い、どちらからともなく唇を重ね合った。 ――そのとき。 ドンドンドンドンドンドンドンドンッ!! と、俺の扉がノック――じゃねえなあれは、理不尽な暴力を食らって悲鳴を上げた。 「バカ兄貴!! さっきからうっさいんですケド!! AV大音量で見んのやめてくんない!!」 その怒声を耳にした俺と加奈子は同時に青くなった。 説明の必要はないと思うが、桐乃である。 ……あれだけ盛大にヤってたらバレちまうよなぁ、そりゃあ! 俺は今更ながら行為中の音漏れの可能性について失念していたことを悔やんだ。 俺が自らの不覚に悶えていると今度は桐乃とは別の声が聞こえてきた。 「……お兄さん…………? …………………………私が桐乃と遊んでいる横の部屋で……い、いかがわしいビデオ見てたんですか?」 その妙に落ち着いた声を耳にした俺と加奈子は同時に震え上がった。 説明の必要はないと思うが、あやせである。 どうやら最悪の状況になってしまったらしい。 桐乃ぐらいだったらどうとでもあしらえるが、あやせは無理である。 今だって扉に遮られているものの、にじみ出る殺気に俺も加奈子もガクブル状態である。 あやせさんマジ怖っえー、とか現実逃避しようと試みるが、直後の桐乃の台詞で即座に現実に引き戻される。 「もうっ、取り敢えず扉開けるからね、いい!?」 駄目です。絶対に駄目です。 ってかナニこれ死亡ルート一直線!? 回避可能なのコレェェエェエ!? 横の加奈子はあやせの声で完全に固まっちまってるし、俺が何とかするしかないらしい。 ――ガチャ、とドアを開けようとする音がした。 あの扉が開いた瞬間、それが俺の人生が終わるときである。 桐乃だけなら何とかなるだろうが、あやせもいるのだ。 扉が開いた先には、精液まみれの加奈子と愛液まみれの俺がいる。 見つかれば逃げ道はなく、俺と加奈子はあやせに山に埋められることになるだろう。 あれこれと思案する時間はない。 今にも開こうとしているドアに向かって俺は声を張り上げる。 「待てッッッ!!」 突然叫んだ俺に驚いたのだろう、桐乃の手が止まり扉が開かれるのもひとまず止まった。 だが、まだ安心できる状況ではない。 桐乃は取り敢えず開けるのを中断しただけに過ぎないのだから。 「な、何よいきなり……」 「今その扉を開けたら後悔するぜ!」 土壇場でたった今思いついたこの場をやり過ごす唯一の方法。 本当は取りたくない方法だが、もうこれしかこの場を突破する方法はないッ!! 「……どうしてですか、お兄さん?」 問題はコイツ、あやせである。 自ら嘘を吐かれるのが一番嫌いと公言しているだけはある、嘘には人一倍敏感である。 だから、下手な嘘を付けばすぐに見抜かれて部屋の中に入られてしまうだろう。 ならばどうすればいいか。 ――あやせが到底受け付けることができないだろう内容を突きつけてやればいい。 俺は息を一気に吸い込み、社会的に死ぬ覚悟を決める。 「なぜなら俺は今までおまえ等が隣の部屋で遊んでる間、エロ動画見ながらおまえ等で妄想してたからだ! オナニーしてたからだ! そして今も、オナニーしてる最中だ! もう少しで射精しそうだから今扉を開けたら精液掛かっちまうかもしれないぞ!!」 時が、止まった。 扉に遮られて見えないが、桐乃とあやせがプルプルと震えているのがわかる。 ふと視線を落とすと加奈子がものすごく驚いた眼差しをこちらに向けている。 ……これでよかったんだ。 社会的に死んだが物理的に死ぬことは避けられた。これでよかったんだ。 これでよかった、はず―― 「つつ、つ、つまりアンタは、妹が友達と遊んでる間ずっと、その横の部屋でAV見ながら、今も、ヌ、ヌいてたってコト!?」 「そういうことだぜッ!!」 そして次の瞬間―― 「あああアンタなんてもう知らない、死ねっ!!」 「最っ低ですっ! 死ねっ、セクハラ野郎!!」 桐乃とあやせは同時にそう叫ぶと、ドスドスと足音をたてて走り去っていった。 ……さすがにやりすぎた感が否めないがこうでもしないと進入を阻むことはできなかっただろう。 だから加奈子もいい加減ドン引きの視線をこちらに向けるな。 「お、おめー、まさか本当に――」 「違うからなっ! あくまで説得のために吐いた嘘に決まってんじゃねえか!」 「そうならいいけどヨ……」 「っつかお前も早く帰れよ、またこんなのはごめんだぞ……」 「ちぇー、ひっどくねーその言い方? だってさ……」 加奈子は服を着ながらこちらをちらりと窺う。 「……次いつ逢えるかなんてわかんないんだよ?」 「……確かに、俺もお前も受験生だしさ、あんまり遊びには行けないかもしんねーな」 二人して黙り込んでしまう。 カラスが外でカァカァ鳴いているのが聞こえてきた。 ついさっきまでやかましかった桐乃とあやせも落ち着いたようで物音は全く聞こえてこない。 静寂の中俺たちは見つめ合っていた。 「な、なあ、加奈子。携帯番号とアドレス交換しないか?」 俺はあえて明るくそう告げる。 加奈子はきょとんとした様子である。 「そうすれば会えなくたってメールや電話はいつでもできるだろ?」 「そ……、それもそうだな! へへっ、京介のくせにたまには良いこと思いつくじゃねーかヨ!? ――あれ?」 「ん? どうした?」 偉そうに俺のことをほめていた加奈子だったが突然その動きを止める。 加奈子は青くなって俺の部屋を見回しているが、状況のつかめない俺はどうして良いかわからない。 取り敢えず加奈子と同じように辺りを見回してみるが、加奈子のブーツが部屋の隅っこに転がっている以外に特異な点はない。 加奈子は愕然とした様子でぽつりと告げた。 「ケータイ入ってるカバン――桐乃ん部屋に忘れた……」 聞けば加奈子の家はここから徒歩で行ける距離だが、その鞄の中には家の鍵も入っているとのことだ。 加奈子は帰ったことになってるし、「カバン忘れたぁ~、桐乃ぉ、ごっめ~ん!」と加奈子が戻ってきたことにしても、今の加奈子はいろいろな汁まみれである。 勘のいいあやせがまだいる以上そんなハイリスクなことはさせられない。 ……はぁぁ~、どうしようかなぁ。 俺は相も変わらず青くなったままあせあせオロオロとしている加奈子を見て口の中で小さくつぶやいた。 『俺の彼女がこんなにばかなこのわけがない』ってさ―― 腕を絡ませてきた彼女――来栖加奈子は俺の顔を見上げて尋ねてきた。 「……待った?」 ――結局あの後、加奈子は親の帰宅まで加奈子の住むマンションで待機したらしい。 加奈子曰く「あの親どもバカだからよぉ~」と言うことで、身体に淫臭が染み着いていただろうに、そこには深くつっこまれずにすんだとのことだ。 ただ、次の日桐乃にどうしてすぐ引き返さなかったのか問いただされて、危うくばれるところだったらしいが。 俺は加奈子の問いにどう返答するか一頻り悩んだ後、結局正直に答えることにする。 「ああ、待ったよ」 「な――っ!? お、おめーそこは格好良く『いいや、今来たばかりさ』って言うもんだろぉ~が」 「……加奈子」 「な、なんだヨ」 「お前ちょっと時計見てみろ」 袖をまくって腕時計を確認する加奈子。 「見たけどよぉ……時計がどうかしたか?」 「はぁぁぁああぁぁ~」 俺はここぞとばかりに大きく溜息をつく。 「待ち合わせ時間、何時だったか覚えてるか?」 「……11時、だっけ」 「そうだよな11時だよな。滅多に会えないから早めに待ち合わせて飯を一緒に食ってから遊びに行こうって話だったよな?」 「な、なあー、京介? なんか怒ってる、おめー?」 「今何時だ?」 「…………1時半」 「何時間過ぎてる?」 「2時間……?」 「なんかお前俺に言うことないのか?」 あえて突き放すように言う。 加奈子は逡巡後、消え入りそうな声量でつぶやく。 「ごめんなさい……」 なんかこうしているとまるで親子だなと思わなくもない。 約束の時間に遅れた不出来な娘をしかる父親の気分だ。 けどまあ、加奈子も涙目になってきてるしここらへんで切り上げるか。 俺はうつむいている加奈子の頭にぽんと手をおいてやる。 「……よし、行くぞ」 「許してくれるの……京介?」 「加奈子はもう謝ったしな。それにこれくらいでいちいち腹立ててたら加奈子の彼氏はつとまりそうにないからな。 ただ、携帯だけはいつでも繋がるようにしておけよ……心配になるからな」 目元を拭いながら頷く加奈子。可愛いな。 俺は加奈子に右手を差し出す。 少し時間は遅れてしまったが、仕切り直しである。 「さあ、行こうぜ! せっかくのデートなんだからさ!!」 「――うんっ!」 そのときの加奈子の笑顔は俺が今まで見た中で一番美しい笑顔だった。 『俺の彼女がこんなにばかなこのわけがない』おしまい おまけ 俺は意気揚々と加奈子の手を引いて歩きだそうとしたが、すぐにその足を止めた。 「どうした、加奈子?」 加奈子がその場から動かなかったためである。 加奈子は俺に掴まれていない方の手を薄い胸に当てて息を整えているようだった。 なんだ? 喘息かなんかの発作か? ――そう思った俺は、加奈子に大丈夫か聞こうとしたところで、体勢を崩し前のめりになる。 ちょうど加奈子に多い被さるような状態である。 別に俺が一人で転びそうになったわけじゃあない。 加奈子と繋いでいる手を思い切り引かれたのである。 「うわ、うわっ――」 なんとか持ちこたえようとするが、出来ず、結局加奈子に引かれるままになってしまう。 どんどん近づく加奈子の顔。 俺が思わず、あぶねえと目をつぶったその瞬間、俺の身体は小さな腕で抱き止められた。 そして唇に感じる柔らかい感触。 驚いて目を開くと、そこには顔を真っ赤にした加奈子の顔があった。 「……ど、どーヨ?」 「…………?」 加奈子が何かこちらに話しかけてきたのだが、余りに突然のことに驚いたせいか息が切れてしまい質問の内容と意図をうまく把握することができない。 すぐに返事を返すことのできない俺にしびれを切らしたのだろう、加奈子は不機嫌そうに口を開いた。 「だーかーらー、加奈子のキスは! 加奈子のキスはどうだったかって聞いてんのっ!」 「えっと…………………………………………加奈子の、味がした」 そこで俺はようやく加奈子のこの行為の意味を悟った。 加奈子は得意げな顔で俺に聞いてくる。 「煙草ん味はしたかヨ?」 「しないな、全く」 「……で、どーヨ」 「よろしい」 加奈子がとびっきりの笑顔で駆けていく。 俺はそれを追いかけながら思ったもんさ。 ――俺の加奈子がこんなに可愛いわけがない、ってな。 おわり br() br() br()
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/49.html
じめじめと鬱陶しい梅雨の合間、気まぐれのように晴れ渡った日曜の昼に、俺は何故かエロゲーをしていた。 誤解を避けるために言っておくが、こんなことをしているのは、俺が折角の日曜日を嬉々としてエロゲーのプレイで潰すエロゲーマーの鑑であるから、ではない。今日は午後から予定が入っており、それまでの時間潰しとして仕方なくやっているだけなのなのだ。 まあ、俺もいよいよ受験生と呼ばれる身分になってしまったわけで、空いた時間があるなら本来勉強をするべきであり、実際、朝飯を食った後しばらくは机に向かっていた。なのに、今はベットの上で妹に借りたノートPCに向かっているってんだから、これはもう、全くもって褒められたことではないのだが。 今やっているエロゲーは、言うまでもなく我が妹様から押しつけられたものであり、題名を『Sister Days』という。 何でも少し前に話題になったゲームらしく、あいつの言うには『あたしはこういうのあんまり好きじゃないんだけど、とりあえず有名どころは押さえておかないとね』だそうである。 ていうか、大して好きでもないゲームを「有名だから」って理由で兄貴に押しつけるなよ。なんなんだあいつは、俺をエロゲーマスターにでもするつもりなのか? なんだかんだで毎回押し切られちまう自分もどうかと思わないでもないがな。 そんなことを思い返していると、画面の中でロングヘアーの妹が走り寄ってきた。なんとこのゲームは、全編通じてアニメみたいに絵が動くのだ。 今まで妹に借りたゲームにこんなの無かったし、最初やったときはスゲェと思ったね。ていうか、むちゃくちゃ作るのに手間かかってないか、これ。話題になったのもここら辺が原因なんだろうな。 内容は桐乃に最初にやらされた『妹めいかぁ』みたいなアドベンチャーゲームで、どうやら妹二人との三角関係を軸に話が進んでいくようだ。 妹と三角関係になるっていうツッコミ所を置いておけば、キャラクターは大体黒髪でストーリーも割とリアルっぽいので、少なくとも今までやった極彩色の髪の妹がきゃるきゃる言うのよりも、俺の精神的ダメージは少なくて済んでいる。 良く言えば穏当、悪く言えば地味ってことで、ここら辺があんまり桐乃のお気に召さなかった理由かもな。 髪型以外共通点がないのに何故かあやせを連想させる、ロングヘアーで引っ込み思案な妹が話しているのを聞きながら時計を見ると、いつの間にか約束の時間が近づいていた。 まあ、約束といっても、男子高校生が求めてやまない、心躍る色っぽいものでは全然無いのだが。 俺は『Sister Days』を終了させると、ブラウザの検索履歴とキャッシュを消去してPCを落とした。 パソコンの使い方について妹の逆鱗に触れ弱みを握られた後、『絶対に変な事に使うな』と釘を刺されつつまたPCを貸して貰った際に、俺が最初にしたことは、「パソコン 痕跡の消しかた」で検索をすることだった。 何となくあいつに悪いような気もしたが、俺だって健康な若い男であり、お袋の厳しい管理の下おかずが限られている身とあっては、PCをそういう風に使うな、と言われても無理というものである。 案の定、一旦PCを返した後に桐乃からキャッシュが消えていることについて問い詰められたが、俺にも隠しておきたい事くらいあるとかなんとか言ったら、舌打ちしつつも引き下がった。 ていうか、「そういうの」を見たくないから怒ったんじゃねーのか? この間のは事故だから仕方ないかも知れないが、見たくないなら俺が何を見たか確認するなよ。 それともあれかね、自分のPCがそういうことに使われること自体が気にくわないのかね。何だかんだ言ってあいつも中学生だからな。そういう潔癖なところはあるのかも知れない。 そう思うと、少し罪悪感のようなものが心をよぎる。 これからは、あまりそういう風に使わないようにするかな。とりあえず、もう一通りのものは見たような気もするし。 ノートPCを机の上に置いて時計を見ると、針は12時45分を指していた。約束の時間まであと15分。 約束というのはあれだ、黒猫達が家に来ることになっているのだ。 何でも、夏のコミケに受かった、とかいうことで、この夏黒猫は本を作って売る側としてコミケに参加するそうだ。 その際、店番だとか荷物運びだとかで人手が必要だそうで、その手伝いを頼まれたという訳である。 あいつには桐乃の事で色々世話になってるし、それを抜きにして俺にとっても大事な友達の一人だと思っているので、その程度の手助けならなんでもない。ということで、勿論OKした。 今では、まあ、可愛い後輩でもあるといえるからな。 そうなのだ。この春から、黒猫は俺と同じ高校に通っているのである。 そんな話は事前に全く聞いていなかったので、登校中にうちの制服を着た黒猫に会ったときには、随分驚いたもんだった。 その後多少のすったもんだがあったが、それは割愛する。要は、黒猫は俺と同じ高校に通っていて、現在はそれなりに楽しく高校生活をおくってるみたいだってことだな。 実はコミケのことも、黒猫から学校で直接頼まれたのだ。 なんでも当日ちょっと手伝えばいいというものではなく、事前に準備が必要なんだそうな。それで、今日はその打ち合わせをするために、家に集まることになったというわけだ。 準備といっても、今のところそれが何なのか聞いておらず、何をさせられるか見当もつかない。本を作ることに関して俺は全く役に立たないだろうし、黒猫もそこについて俺に期待はしていないだろうから、俺がするのは何か別のことだとは思うんだが。展示用のディスプレイ作りかなにかだろうか。 まあ、あいつのことだからコミケに参加するにしても自分なりに一生懸命やるのだろうし、そうだとすれば俺としても手助けするにやぶさかではない。多分、桐乃みたいに無茶なことは言わないだろうしな。 そうこうしていると、階下からチャイムの音が聞こえてきた。12時55分、多分黒猫達だろう。 今日は両親共に出かけており、桐乃も朝早く出て留守なようだ。てっきり桐乃には話が行っていて、今日は沙織も含めた四人で話をするんだと思っていたんだがな。それとも、先に三人でどこかに行って、それから家に来るという段取りなんだろうか。 階段を降りて玄関のドアを開けると、例によって黒くてヒラヒラした服を着た黒猫が立っていた。背後には誰もおらず、どうやら一人で来たらしい。 黒猫の服はなんだか今まで見たことのあるのとは違うような気がする。どこが違うのかは分からないし、大体今までだってコイツの服の違いを分かったことはないから単なる勘違いかも知れないがな。 じっと見つめてしまっていたのだろう、黒猫が「入って良いかしら」と聞いてきた。 「おお、悪い。上がってくれ」 そう言って道を空ける。それで、靴を脱いでいる黒猫に聞いてみた。 「沙織は? 今日は一人なのか?」 「ええ」 そう端的に答えてから一拍おいて、今度は黒猫が俺に尋ねる。 「…いけなかったかしら?」 勿論いけない事なんて無い。コミケの事だっていうから、てっきり桐乃や沙織も一緒に打ち合わせをするんだと思っていので、意外だったのは確かだが。だが、良く思い返してみると、黒猫からは打ち合わせのために家に来て良いかと聞かれただけで、沙織達のことは何も聞いていなかった。 考えてみれば、コミケとなればあいつ等はそれぞれ自分のことで忙しいからな。それで、一番暇そうな俺だけに白羽の矢を立てた、ということなのだろう。 それに、最近は学校なんかで桐乃や沙織を交えずに話すこともあるしな。今更二人だけじゃ間が持たない、なんてこともない。 「別にいけなくねーよ。ほら、さっさと上がれ」 そう言って、靴を脱ぐ体勢のまま下を向いて止まっている黒猫を急かしてやる。 なんだか遠慮させちまったのかも知れないな。最近分かって来たんだが、実はこいつには結構繊細なところがあるらしい。多分、俺の言葉がその繊細な何かに触れちまったんだろう。 ただ、今の会話で何をそんなに遠慮するのかは今ひとつ良く分からないが。 「ほら、こっちがリビングだ。って、何度か来てるから知ってるか」 そう言って先導してやろうとすると、 「今日は私一人だから、先輩の部屋でいいわ」 「は?」 なんだ遠慮の続きか、と思い、意図を計ろうと俺が振り返ると、黒猫はついと視線を階段の上に向けた。 ああ、ひょっとすると、今日は何か展示用の物を工作するのつもりなのかもな。そうだとすると、どうしたって部屋が汚れる訳で、どうせ汚すならリビングより俺の部屋の方が気が楽だ、ということかも知れないな。 それに考えてみると、もしお袋が予想外に早く帰ってきた場合、黒猫と二人でいるのが見つかったら、何か色々と面倒な誤解が生まれるかも知れない。そうしてみると、俺にとっても上でやった方が良いような気がする。今、部屋は一応片付いてるし。 「おう、分かった。飲み物持って行くから、先に上がっててくれ。階段上がってすぐの部屋だから」 「そう、分かったわ」 そう言って、黒猫はスタスタと階段を上がっていった。 グラスに氷を入れペットボトルの茶を注ぎ、そこらにあったまんじゅうみたいな洋菓子と一緒にお盆にのせて部屋に戻ると、黒猫は背筋をピンと伸ばしてベットに座っていた。 …実はさっきから思ってたんだが、なんか今日、こいつ変に緊張してないか? 「ほら、今日は少し暑いし、ノドかわいたんじゃないか?」 そう言って勧めてやると、黒猫は「ありがとう」と言ってグラスを受け取った。 やっぱこいつ何か変だなと思いつつ、俺は勉強机の椅子に座り、茶を少し口にする。 「あー、今日は良い天気だな。来るとき暑くなかったか?」 「平気よ」 「はは、それは良かった」 その後、俺は何となく話しかけるタイミングが掴めず、黒猫も黙っていたので、しばらく無言の時間が続いた。 …さっきこいつと二人で居ても間が持たないなんてことはない、と言ったような気がするが、アレは嘘だったみたいだ。今現在、俺はまさに間が持たずに困っている。 こういう時は年長者である俺が、軽い世間話でもして空気を変えるべきなんだろうが、生憎と俺はそんなに器用じゃない。大体、なんでこいつがこんな、なんていうか神妙な感じで居るのか分からないしな。下手なことは言わずに、本来の用件を進めるとしよう。 「あー、コミケの打ち合わせだったよな。俺は何をすれば良いんだ? 何か当日までに作っとくものとかあるのか?」 「いいえ。本は今私が創っているし、あまり大げさな看板みたいなものなんて作るつもりは無いから、先輩が何か作る必要はないわ」 そう言った後、黒猫は少しからかうような微笑を浮かべながら 「どうしても先輩が何か書きたい、というのであれば、私のスペースで売っても構わないわよ。本を一冊作るのが難しいなら、私の本から何ページか割くことを考えてもいいわ」 ごめんなさい、無理です。 絵は中学の授業以来描いてないし、小説なんて書くどころか読むことすらほとんどしていない。そんな状態で本を作るとか、ましてせっかく黒猫が作った本に自分の駄作を載せるだとか、出来るはずがない。 「ねーよ。それじゃなにか力仕事でもあるのか?」 「いいえ。本はそれほど多く刷らない予定だし、当日も荷物と言うほど大げさな物は無いわ。」 分かってきたような気がする。つまり… 「なら、俺はなにをすればいいんだ? 何か俺にさせたいことはあるんだろ?」 俺がそう言うと、黒猫は目を泳がせながら「それは…」と口ごもった。 なるほど。さっきから黒猫の様子がおかしい原因は、その「俺にさせたいこと」にあるようだ。つまり俺は、お願いすることすら躊躇われるようなことをやらされるわけだ。 ここに来て一気に膨れあがってきた悪い予感を押さえ込みつつ、俺は黒猫に続きを促す。 「まあ、俺に出来ることであれば、なるべく手伝ってやるからさ。何か考えている事があるなら言ってみろよ」 俺がそう言うと、黒猫は膝の上で手を組んだ後こう言った。 「そうね…、先輩に一番して欲しかったのは、売り子よ」 売り子、っていうと、あの机に座って本を売ってたりした人たちのことか? 「そう。先輩は、基本的に私のスペースで本を売ってくれればいいわ」 なんだ、そんな事か。もっと凄いことさせられると思って覚悟してたんだがな。 悪い予感が杞憂に終わったので安心しつつ、俺は黒猫に尋ねる。 「でも良いのか? 俺で。お前の作る本って、やっぱり若い女の子が多く買いに来るんじゃないのか? 周りで売ってるのもお前みたいのが多いだろうし、売り場で俺が浮いちまったら、逆効果にならないか?」 まあ、これは俺の気にし過ぎかもな。と思っていたら、黒猫が当たりを感じた釣り人の様な顔をして言葉を継いだ。 「先輩もそう思うのね。そうね、私も”対策”は必要だと思うわ」 そう言いながら今日初めてしっかりと俺に顔を向けた黒猫の瞳の奥を見て、俺は安心するのは早すぎたことを知った。 若干気圧された俺を置いて、黒猫は言葉を続ける。 「今回私は、マスケラ本を創るわ」 えーと、黒猫さん、なんだか少し話が飛んでませんか? 「ねえ、マスケラ本を売るのであれば、それに相応しい”格好”というものがあると思わないかしら?」 俺の内心のツッコミを無視して、さっきまでの遠慮がちな空気はどこへやら、黒猫はどこか陶然とした様な目をして話を続ける。 悪い予感がみるみる形をなしていくのを感じつつ、俺はどうにか回答をひねり出す。 「あー、やっぱ本を売るからには本屋さんの格好、というわけでは…」 「無いわ」 黒猫さん。せめて最後まで言わせてください。 だが分かった。今度こそ全部分かったような気がする。 「なら、その相応しい”格好”ってのはどんなんだよ」 そう尋ねると、黒猫は自分の荷物から流れるような動作で一冊の本を抜き出し、素早くあるページを開き俺に見せつける。 「えーと、これは…」 開かれた大判の本には、あるアニメのキャラクターが描かれていた。身長やら体重やら生い立ちやら、そのキャラクターに関する情報が、見開き一杯に所狭しと書き込まれており、右ページの端にはそのキャラクターの全身図と名前が記されている。 どうやらこいつは、「来栖真夜」という名前らしい。 「…なあ黒猫、俺の勘違いかもしれないが、ひょっとしてお前は、俺にこいつと同じ格好をしろと言っているのか?」 違う、という答えが返ってくるという淡い願いを込めて尋ねると、心なしか顔を赤く染めた黒猫は、こくん、という感じで首を縦に振った。 -----やっぱりかよ! こいつ、俺にコスプレさせる気でいやがった! いや、別に俺は、コスプレに偏見をもっている訳じゃない。別にコスプレしたからって誰に迷惑をかけるわけではないし、去年コミケで見た奴らも楽しそうだったしな。あと、セルはすげぇ気合入ってたし! だが、それを自分でするとなると、少し、いやかなりハードルが高い。 大体、あいつ等はそのキャラクターが好きで、その好きの延長線上の行為としてコスプレをしてるんだろ? それに対して俺は、この来栖真夜ってののことはほとんど知りもしないわけで、俺がするのは少し違う気がする。 それに、そのキャラクターが好きだからって誰もがコスプレをする訳じゃない。多分コスプレをするのは、元々「見られること」が好きな連中なんだろう。もしオタク方面の趣味に向かわなければ、役者になりたいとか芸人になりたいとか、そういった事を考えるタイプの。 その点俺は、平凡に生きることを信条としている男であり、そういったタイプとは真逆の性格をしていると言って良い。 なので、黒猫には悪いが、正直言ってやりたく無い。 …無いのだが、本を持ったまま、半分睨むような必死な目つきで俺を見る黒猫を前にすると、簡単に断ってしまうのは躊躇われた。 「えーとあれだ、一応確認しておくが、お前は、俺にこいつのコスプレをしろと言ってるんだよな」 「…そうよ」 「でも、コスプレっていっても衣装用意するのは大変なんじゃないか? こういう衣装って売ってるのか? 売ってても結構高いだろうし、作るのは難しいだろ」 「私が作るわ。まあ、作ると言っても一からではなくて、有り物の服を改造する形になるでしょうけど。ほら、来栖真夜の服は現代でも結構良くありそうな形でしょう? 古着か何かで似た形の服を用意して、それをベースに改造すれば、それほどお金を掛けずにできると思うわ。マント部分は一から作らなければならないでしょうけど、これはそれほど手間は掛からないでしょうし。それに、この服はどこかの萌えしかないアニメに出てくるものと違って、マントさえ外せば普通の服とほとんど変わらないデザインだし、先輩もそれほど違和感なく着られるはずよ」 いつもより若干早口で畳み掛けるように話す黒猫に少し気圧されつつ、俺は必死に反論の糸口を探す。 「でもよ、この来栖なんとかってキャラは、多分結構人気があるんだろ? 俺なんかがコスプレしたら、こいつのファン達から反感を買わないか?」 「そんなことないわ!」 うおっ、びっくりした。 いきなり大声を上げて俺の言葉を否定した黒猫は、そのことに自分でも驚いたのだろうか、少し慌てた様子で話を続けた。 「ごめんなさい。でも、それは気にしなくて良いと思うわ。先輩も去年見たと思うけれど、お世辞にも似ているとは言えない人たちも普通にコスプレをしているわ。そもそも、コスプレは一種の愛情表現という側面があるから、似ていることは必須ではないの。勿論、似ているのに超したことは無いのだけれど、先輩は…」 そこまで言って、黒猫は視線を下に落とした。おい、俺が何だって? 最後まで言えよ。 それにしても、こいつ、服を作ったりとかも出来るんだな。そういえば、最初に会ったときに着ていた服もなにかのコスプレだったみたいだし、あれも自分で作ったってことなんだろうか。とても素人が作ったようには見えなかったけどな。 まあ、こいつがそれくらい出来ても、今となっては別に不思議とは思わない。こいつは、こと自分の好きなことに関しては異様に力を発揮するし、しかもその好きなことの幅が割と広いヤツでもあることを知っているからだ。 その結果、黒猫は、実は結構色々デキるヤツになっている。 だが、それは別にこいつが人より優れた才能に恵まれていたからではない。 つきあう時間が増えて分かってきたんだが、こいつはそれほど頭が良いわけじゃない。それどころか、絶望的に不器用なところがあったりする。いわゆる素質だとか才能だとかという部分に関し言えば、例えば桐乃などとは比べるべくもないだろう。まあ、言ってみれば、俺と同じ「凡人」に区分されるような人間だ。 ただ逆にそれだからこそ、俺はこいつのことを結構尊敬していたりする。 こいつの前では、俺は、桐乃に対して無意識にしていた言い訳が出来なくなる。多分、俺とこいつの差は、なにかを強く望む心が有るか無いか、それだけなのだろうから。 黒猫を見ると、さっきの本を膝に抱えて、床をじっと見つめていた。 今までの様子からすると、今回のお願いは、こいつにとっては重要なことなんだろう。こいつの創作にかける情熱は知っているつもりだし、なんでそうなるのかはよく分からないが、今回の俺のコスプレってのはこいつにとってはその創作の一部なんだろうな。 「ふう」 ため息をつく。思えば、答えなんて最初から決まっていた。 なぜなら、こいつは、桐乃の大事な友達だし、俺の可愛い後輩で、そして尊敬すべき友人だからな。 「いいぜ。コスプレでもなんでもやってやるよ」 そういった訳で、今、俺は黒猫に首を絞められている。 というのはもちろん嘘で、実際には黒猫持参のメジャーで首周りを測られているだけだが。 さっき俺がコスプレをすることを了承すると、黒猫は自分から頼んだ癖にOKされたのが信じられないような顔で少しの間止まっていたが、その後は、俺の気が変わらないうちに事を進めてしまえとでもいう風に、てきぱきと動き出した。 俺の方は、こいつのビックリした顔や、憎まれ口を叩きつつ恥ずかしそうに礼を言う姿が見られただけでも、OKした甲斐があったかな、なんてことをのんきに考えていた。 それでまあ、服を作るとなれば当然俺の体のサイズを測る必要があるわけで、黒猫の指示のもと、俺は部屋の真ん中あたりに立って採寸を受けている。 黒猫の採寸はゆっくりと確かめるようで、黒猫のしなやかな指が体に触れる度に、俺はなんだかくすぐったさを感じてしまう。股下を測り終え(これはちょっと恥ずかしかった)、これで全部終わったかと思っていると、首周りを測るから少しかがんでくれと言われ、いま俺の首にメジャーが回されているというわけだ。 黒猫の表情を見ようと目を向けると、予想外に近く、息が届きそうなほどの距離に黒猫の顔があって、一瞬心臓が跳ねる。 さっきまでは全く意識していなかったが、こうして近くで見ると改めて感じる。黒猫は美人だ。 桐乃の精気を溢れさせるような美しさと違い、黒猫の持つ美しさは静かに整った造形物のものに近い。二人ともまだ幼いといっていい年齢でしかなく、そのためにある種のアンバランスさが残っているが、桐乃のそれが成長の活力として桐乃全体と調和して表現されるのに対し、黒猫のそれは欠落であって、だがそれが故に淫靡な陰として黒猫自身を彩っているように思う。 …って何考えてんだ俺は! これ以上思考がろくでもない方向に向かわないよう、俺は、真剣に作業をしているためか少し上気した様子の黒猫の顔から視線を引きはがした。 くそっ、なんだか頬が熱い気がする。 その後、黒猫が「もういいわ」というまでの時間は、やけに長く感じられた。 「ふう」 なんだか妙に疲れた気がして、俺は本日二度目のため息をつきながらベットに座り込む。 そうしていると、俺の首周りのサイズを手帳に書き込みつつ、黒猫が尋ねてくる。 「そうね、あとは念のために身長と体重、それと足のサイズも教えておいてくれるかしら」 動揺を隠しながら、俺は答える。しかし、足のサイズなんて必要なのか? まあいいや、教えて減るもんじゃなし。 「あと、先輩、生年月日はいつかしら?」 自分の生年月日を教えながら、俺はさっき生じた雑念を振り払おうとする。 「そう。それでは、初恋は何歳の時だったかしら?」 「え~とそれは…」 初恋? 俺の初恋は… そのことを考えようとすると、なんだか悲しいような、苦しいような、申し訳ないような、よく分からない感情が浮かんでくる。あれ、俺の初恋っていつだっけ? …って、おい。 「そりゃ流石に必要ないだろ!」 なんだか自然な流れで聞かれたから普通に答えようとしちまったが、全然関係ない質問じゃねーか。よく考えると、生年月日も関係ねーよな!? 「こうして色々データを書き込んでいると、設定情報を揃えたくなってくるのよ。なんだかぼけっとしていたから、もっと色々聞き出せると思ったのだけれど、案外早く気づいたわね」 なんて奴だ。人の油断につけ込んで、個人情報からセピア色のメモリーまでゲロさせようとするとは。 「畜生。…まあいいや。おい、せっかく生年月日を教えてやったんだから、誕生日は期待してるぜ?」 「ふふ、そうね。今度のコミケでの働き次第によっては、考えてあげなくもないわよ?」 そう言って、黒猫はいたずらっぽく笑った。 …あー、いかん。まだ調子が戻らないのか、妙にその仕草が可愛く見えてしまった俺は、再び頬が熱くなってくるのを感じつつ、黒猫から目を逸らした。 「ああ、見てろよ。俺の一世一代のコスプレデビューだからな。スゲェの見せてやるぜ」 動揺を悟られまいと軽口を叩いてみたんだが、訳分からないことを言っちまってるな、俺。なんだか墓穴を掘った気もするし。 「あー、つっても、俺はお前が作ってくれた服を着るだけだもんな。もし万が一俺のコスプレが受けたとしても、それはお前の功績か」 こうして俺がべらべら話していると、手帳をしまった黒猫が、俺の隣に腰掛けてきた。 …なんか、妙に近い気がする。 って、さっきから意識しすぎだ! 変なこと考えるからそう感じるんだ。別に隣に座るくらいなんでもねーだろ。 「いいえ。先輩のコスプレは、きっとかなり”うける”と思うけれど、それは私ではなくて先輩の力よ」 …考えてみると、友人含め今までこの部屋に入った事のある女は、お袋と麻奈実と、あとは桐乃くらいのものだった。 つっても、この三人を女としてカウントするのは、バレンタインに母親から貰ったチョコを数に入れるような行為といえるだろう。 そうすると、黒猫は、俺が初めて部屋に招いた女、ということになる。 「ありがとう。さっきはきちんと言えなかったから、もう一度言っておくわ」 今まで聞いたことの無いような優しい声でしおらしいことを言うので、俺は思わず黒猫の方に振り向いてしまった。 「先輩が本当は乗り気では無いことは、分かっているわ。全部、これは私の我が儘。」 黒猫は、頬を紅潮させながらも、今まであまり見たことのない優しい微笑みを浮かべている。…少し、瞳が潤んでいるように見える。 「だから、引き受けてくれて、嬉しかったわ。いいえ、今日のことだけじゃなく、今までのことも、色々と…」 そう言って恥ずかしそうに微笑んだ後、黒猫は一つ大きく息を吸って、今度は真剣な顔で、 「ねぇ、私…」 やばい。 頭の中で危険信号が鳴り響いているのを感じる。このままではいけない、話を変えるべきだ、もう少し距離をとった方がいい、まずは頭を冷やせ。多分俺の中にある理性と呼ばれる部分が、そう警告を発する。 だけど実際の俺は、濡れて綺麗に輝く黒猫の瞳から目を逸らすことも出来ず、あまつさえ右手は黒猫の肩に伸びて… ガチャ その時、異常に敏感になっていた俺の聴覚が、玄関の扉が開く音を聞き取ってくれた。ただいまという声も聞こえた気がする。確信はないが、なんとなく桐乃っぽい。 「お、桐乃が帰ってきたかな。せっかくだからあいつも呼ぶか」 絡みつくようだった時間の流れを振り切るように、俺は勢いよく立ち上がる。 「えっ」 という、どこか驚いたような黒猫の声が背後から聞こえてきたが、俺はまるで逃げるように部屋のドアを開けた。 「うおっ?」 階段の途中から身を乗り出して玄関を見ると、そこには靴も脱がずにこっちを睨み付ける桐乃が立っていた。 俺の妹は目つきに力があるというか気合が入ってるし、元が整っているだけに怒った顔はマジ怖い。 なので、心の準備無しにいきなり睨み付けられたら、びびってしまうのは俺だけでは無いはずだし、思わず変な声を上げてしまうことだって仕方のないことだ、…と思いたい。 「あー、えーと、おかえり?」 「…ただいま」 桐乃は、果たして答える必要があるのか疑問に思いつつも、いやいやながら答えてやるかといった感じに、俺にただいまの挨拶を返す。 おお、なんだか懐かしい反応だ。そうそう、ちょっと前までのコイツは、こんな感じの態度だったよ。それこそ俺の記憶の有る限り、高坂桐乃という生物は不機嫌な女王様だった。 それがどうしたことか、春頃からのコイツは、話に聞く普通のご家庭の妹みたい…というのとは何かが違うんだが、とにかくなんていうか、角が取れて柔らかくなっていた。きっとコイツも大人になってきたということなんだろう。ということで、まあそれ自体は大変結構なことであり、俺に文句の有ろうはずも無い。 …無いはずなのだが、正直なところ、俺はこの桐乃の変化に戸惑っていた。いや、少々困っていたと言っても良い。 変だと思うか? だが考えてみて欲しい、今までガン無視を決め込むか、そうでなければ罵倒の言葉しか出さなかったようなヤツが、なにやら急に笑顔でおはようとか言ってくるんだぜ!? それはホームドラマというよりホラーだろ? だから俺は、以前であれば腹も立てたであろう桐乃の態度を前にしても、ああ懐かしいなぁなんて思ってしまうわけだ。 それで懐かしさを込めて観察してみると、今の桐乃は、多分外で何か嫌なことでもあったんだろうが、なにやら苛立ちを静かに内にため込んでいるふうであり、触れる者が有れば祟りそうなご様子である。 本来であれば触れずにそっと逃げ出す場面であるが、ここで本当に回れ右をするのはなんだか間抜けすぎるし、俺から離れない桐野の目線にそれが許されないような雰囲気も感じている。なので、俺は本来の用件、といっても部屋から抜け出す口実のようなものではあったが、それを切り出す。 「えーと、いま上に黒猫が来てんだ。良かったらお前も一緒に遊ばないか?」 二人きりだと何か危ないし、などとは勿論言わない。 「…なるほどね。そういうこと」 黒猫の名前を聞いてもにこりともしないどころか、一層目つきを鋭くして独り言のように呟く桐乃を見て、俺は早くも誘ったことを後悔し始めていた。 ていうか、こいつ、思ったより大分機嫌が悪いかも知れない。さっき懐かしいだなんだと言った気もするが、やはりこんな状態のこいつと一緒にいるのは、俺の精神衛生上とてもよろしくない。前言撤回、やっぱ最近の桐乃さんで良いです。 俺が内心「あんた等に付き合ってる暇なんて無いの」というセリフを期待していると、靴を脱ぎ階段を上がってきた桐乃が、駐車禁止区域に路駐されている車を見るような目で俺をねめつけながら、こんな事を宣った。 「なに馬鹿みたいに突っ立ってるわけ? アンタの部屋に行くんじゃないの?」 ああやっぱりな。どうやら俺の期待だとか望みだとかは叶わないことになっているらしい。少なくとも、こいつと一緒にいる限りは。 部屋に戻ると、当然のことながら黒猫はさっきと同じ場所に座っていた。ただ、黒猫は俺がドアを開けた時にちらりとこちらを見た後、視線を窓の方に向けてしまう。 その様子に胸がちくりと痛んだりするが、俺は努めて明るい声でこう言った。 「おう、やっぱり桐乃だったぞ。そうだ、せっかくだから桐乃にもさせたらどうだ? 俺なんかよりよっぽど客受けが良いと思うぞ」 そして、桐乃は黒猫の横に座らせれば良いか、いや、三人だったらリビングに移動する方が良いかもな、などと考えながら勉強机の方に歩いていく。 桐乃にとりあえず入るように促そうと後を振り向いた時、俺は桐乃を誘ってしまったことを本格的に後悔した。 桐乃は、入り口で立ったまま、さっきより数倍増しの苛立ちの表情で黒猫を見下ろしていた。どうやら桐乃は、怒りのぶつけ先として黒猫をロックオンしてしまったらしい。 なんでそうなるんだよ! 確かにお前等は喧嘩友達かもしれないけど、だからって挨拶無用で八つ当たりしてもいいわけじゃねーだろ。大体、せっかく友達が家に遊びに来ているんだから、外で嫌なことがあったにせよ一旦それは脇に置いて、楽しく遊べばいいじゃねーか。 とりあえずこのまま桐乃と黒猫を話させるのはマズイと思ったので、俺は自分から適当な話題を桐乃に振ってみることにした。 「えーと、今日は朝早くから出かけたみたいだけど、部活か? それとも、例のモデルの仕事でもあったのか?」 桐乃は俺の方を向き、口の端を歪めるような笑い顔を作って答える。 「モデルの仕事よ。そいつも知っての通りね」 そう言って桐乃は再び黒猫に視線を向け直す。 「まあ、現場でトラブルがあって、撮影は途中で中止になっちゃったんだけどね。だから、予定より早く帰ってきたってわけ」 なんだ、撮影が中止になったから不機嫌なのか? いや、偶々トラブルが起こってしまったくらいでは、コイツはそんなに不機嫌にならない気がする。まあ、撮影スタッフがよっぽど間抜けなヘマでもしていたのなら別かも知れないが。 黒猫の方を見てみると、桐乃と目を合わせず、気まずそうに座っていた。 そりゃそうだよなぁ。会うなりガン飛ばされたら、困惑するのは当然だし、気分も良いわけはない。それでも普段の黒猫なら平気で桐乃に喰ってかかって行くと思うが、なんていうか、さっきの、その…ああいった雰囲気の後では、そういった気分にはなりにくいだろう。 だから俺は、せめて桐乃の気が少しでも黒猫から逸れるよう、次の話題を探す。 「あー、そうだ、俺、今度のコミケでコスプレさせられることになっちまったよ」 「はああ!? なによそれ!? どういうコト!?」 俺の言葉を聞いた桐乃は、形良く整えられた眉を急角度に跳ね上げ、大声で俺に問いただしてきた。って、なんで怒るのよ!? 「いや、その、なんだ、黒猫が今度のコミケに参加するって話でよ、店番の手伝いを頼まれたんだ。それで、俺がただ店番するだけじゃアレだからってんで、黒猫が描く同人誌のキャラのコスプレをすることになったんだが…」 俺も何でこんなに必死になって説明してるんだろう? 「マスケラの、えーと、なんて名前のキャラだっけ?」 まだうつむいたままでいる黒猫に向けて聞いたのだが、答えは別の方向からやってきた。 「…来栖真夜」 そういや桐乃もマスケラを見たんだったな。DVDを全巻買って。 「そうそう、それだ。よく分かったな? 他にも男キャラはいるだろうに」 「……」 我が妹君は、腕を組んで俺の言葉を黙殺して下さった。…なあ、俺はどうしたらいいと思う? その後は、誰もしゃべらずに沈黙の時間が続いた。実際はせいぜい十秒以下なんだろうが、やけに長く感じるぜ。うう、沈黙が重い。 「そうだ、今日は暑かったからのどが渇いてるんじゃないか? お前の分も何か飲み物とってきてやるよ」 そう言って、俺は部屋を出てキッチンに向かう。逃げたんじゃないからな? …多分。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/363.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1293190574/555-562 俺と桐乃は付き合うことになった。 とはいえ俺達は兄妹、当然人に自慢できる関係でもなく勿論親父達にカミングアウトした日には勘当されるのが目に見えてる。 この関係を知っているのは黒猫と沙織しかいない。 「おはよう、桐乃」 「おはよ」 リビングに入るとテーブルには朝食が置かれ、家族三人が座っていた。 何て事はない、いつも通りの平凡な一日の風景の一つだ。 付き合うにあたって周りの目を気にした俺達は家では相変わらずの関係で通していた。 とはいえ今までのように桐乃が俺をシカトしたりするような事はなくなったんだが。 「おはよう親父」 「うむ。そういえば京介、お前の成績を母さんから聞いたが・・・」 本当に他愛も無いいつも通りの日々が続いていた。 1年前と比べても表面上の風景は然程変化ないだろう。 昨日だって一昨日だって本当に何の変哲も無い普通の一日だった。 まあそれでも明らかに昔と違う所を挙げるなら桐乃が俺とも会話をするという事くらいか。 「頑張っているようだな。その調子で行け」 「言われなくともそうするよ。一緒の大学に行くって約束してる奴もいるしな」 麻奈美にはまだ俺達の関係を話していない。 だがいつか、せめて高校生のあいだには伝えておこうと思っている。 「へ~、あんたもしかしてそれ彼女?」 「そんなんじゃねえよお袋、友達同士の約束だっつーの」 ごく普通の、とても平凡な会話をしながら朝飯を食べる。 その現状にとても居心地の良さを感じる。 1年前は正直なところ朝飯すら億劫だったからな、隣の妹が俺を露骨に無視しやがってたし。 しかも俺が隣にいると不機嫌さを隠そうともしなかったし。 「はいはい無理して友達を強調しなくていいから。朝からノロケられてウザイウザイ」 ただ相変わらずの態度の悪さは変わらなかった。 コイツ、俺と付き合っている現状でも麻奈美の話を持ち出すとすぐに不機嫌になりやがる。 とはいえこの状況もなれたもんで、もうイラついたりもしなくなった。 「嫉妬ってやつか?」 「自意識過剰すぎキモいっての!」 ぼそりと桐乃に呟くと思い切り足を踏まれた。 学校へ行く支度も終わり服も着替えた。歯だってピカピカだ。 あとは登校時間までゆっくりしようとリビングに戻ると桐乃がソファーに座っていた。 ここでも以前の俺達なら互いに無視を決め込んでいた所だが。 「今日は朝練ないのか?」 「うん。そのかわり帰るのはちょっと遅くなるかも」 「そうか。茶淹れようか?」 「ん、さんきゅ」 ・・・・・・感涙ものである。こんな関係になる前だったら―――― 『今日は朝練ないのか?』 『は? あんたには関係ないでしょキモいっつーの』 で終っていた会話のはず。 淹れた茶を二つもち、桐乃の座るソファーに座る。 「なに遠慮して端っこに座ってんのよ」 別に遠慮しているわけではないんだが、長年の癖か無意識に妹から距離をとってしまっていたらしい。 桐乃にはそれが大変不服だったらしく、ムスっとした顔を浮かべる。 「ったく」 仕方ないわねと悪態をつくと桐乃は俺の横に座る位置をずらしてきた。 とはいえ照れてるのか頬が赤い。 「おい、顔が赤いぞ。照れてんじゃねぇか無理すんな」 「うっさいバカ!」 桐乃が茶をひったくると一気飲みする。用意のいい俺は温めにいれておいた。 「・・・・・・あんたたち、仲良いわね~」 不安げな顔でこちらを見ているお袋の姿に申し訳なさを感じる俺だった。 お袋、ごめん手遅れです。 終業のチャイムの音が鳴る。授業が終る事を知らせるのと同時に放課後を知らせるチャイムだ。 桐乃と付き合いだしてからこのチャイムに俺は反応してケータイを確認する癖がついていた。 案の定受信フォルダには大量のメールが届いている。 差出人は無論妹様である。 こいつ自分の休み時間になる度にメールしてくる上に、毎回似通った内容だから返信内容に困るんだよな。 「なんて返信したらいいんだよこれ」 一つ一つ見てみるが、やれクラスの男子がガキっぽいやら友達がどうしたやら。 コメントに困るような内容だった。 一度真剣になやんでクラスの女子連中にこういうメールの対応の仕方を聞いたんだが、イマイチ把握できなかった。 「でも返信しなかったらあいつ怒るんだよなぁ」 頭をガシガシとかき、なんとか怒られないような内容のメールを考えながら放課後のホームルームは終っていった。 今日は特に部活にも用は無く、少し自習した後まっすぐ家に帰ったがやはり妹はいなかった。 いつもならこの日は帰っている時間帯なのだが。 「そういや今日は遅くなるって言ってたな」 とはいっても家ではいつも通りな関係なため、いても余り変わらないのだが。 今勉強する気もしないのでとりあえず茶でものんで時間潰すことにした。 それから二時間たった頃、玄関から慌しい足音が聞こえた。 その音の主はドンドンとこっちにむかっている。 その勢いのまま扉を思い切り開けられる。 「あんた! 何なのあの返事!」 「だから俺にユニークなメールを求めるほうが間違ってるんだって」 こうなる気がしてた俺は特に驚くことなく返答した。 「なにが『そうだな』よ! 一行書いてメールとか馬鹿じゃない!? どんだけボキャブラリー貧困なのあんた!?」 顔真っ赤にしてるところを見ると結構傷ついていたらしい。 「そうは言うがな、毎日同じようなメールを送ってこられて毎回違う返信をしろっていうのが無理な話じゃないか」 「うっさい! あたしの彼氏ならそれくらいしろっつーの!」 んなめちゃくちゃな。 「そもそも学校で携帯いじるのはどうかと思うぞ。先生に怒られたりしないのか?」 「そんなのあんたの知った事じゃないでしょ」 「お前が俺のせいで携帯取り上げられて落ち込んだら俺だって気にするぞ」 「・・・むぅ」 みるみるうちに怒りが収まり別の意味で顔を赤くした桐乃はうつむく。 可愛い奴だな。 「ほれ、着替えてきたらどうだ?」 「うん。ついでに汗びっしょりだしシャワーも浴びようかな」 確かに今日は頑張ったらしく、桐乃は汗だくだった。 しかし・・・学校から帰る間に汗って乾くんじゃないか。 「もしかして俺に早く合いたいから走って帰ってきたのか?」 「んなワケないじゃん。考えすぎキモイってのシスコン」 ばっかじゃない、と呟いて自分の部屋の着替えをとりに行こうとする。 相変わらずキツイこといいやがるなあいつ。 付き合い始めても全く自重しやがらねえ。 「と、そうだ。今日はお袋と親父の結婚記念日で帰ってくるの遅いの知ってるか?」 「知ってるっつうの。あんたが覚えててあたしが覚えてないわけないでしょ」 かわいくねえぇぇ! まじで憎まれ口ばっかり叩きやがって。 「んじゃ。あたしシャワー浴びてくるから」 「あいよ。俺は自分の部屋に行ってるよ」 「あ、ちょっと待ちなさいよ」 テレビを消してソファーから立ち上がると不意に桐乃が呼びとめてきた。 「そのさ・・・・・・一緒に入る?」 ・・・・・・うん? 「よしきた」 このときを待っていた。 ハンターは獲物を逃さない。 「ず、随分とノリノリじゃない」 「当然。普段お前にボロクソな俺だからこそこういうチャンスは逃さない。なめんな」 桐乃は俺が即答するとは思ってなかったらしく、慌てふためいている。 「じょ、冗談にきまってんじゃん。なにマジになってんのキモいっつーの」 「お前あんだけ期待させてそれはねえぞ!」 「うっさいバカ! スケベ!」 「そういうのはあやせで間に合ってんだよ!」 桐乃は近くのクッションを俺に投げつけてそのまま部屋に走っていった。 どうやらタオルと服を取りに行ったようだ。 これで話をうやむやにしたつもりなんだろうが。 「こんにちはだなぁ! 桐乃っ」 「うきゃあああああああ!?」 そうはいかん。 俺は水着を着用して桐乃の入る風呂へ突貫した。 てかすげぇ湯気だ。全く桐乃の姿がみえん。 「なに堂々と妹の入ってる風呂に入ってきてんのよ!」 とりあえず桐乃が湯船に使っているタイミングを見計らって入ったからこいつの裸は見えない。 紳士過ぎる俺。高感度アップ。 「よし、それじゃあ俺の背中でも洗ってもらおうか」 「嫌だっつうの。大体あんた水着着てるけどあたし裸だし。不公平じゃん」 仕方ない奴だな。俺の裸をそんなにみたいのか。 エッチな奴だ、ため息を漏らし水着を脱ごうかと立ち上がる。 「ちょ、あんたが脱ぐんじゃなくてあたしが水着つければいいんじゃない! 死ねっ、露出狂!」 「わがままだな、お前は。で、水着どこにあるんだ?」 「あんたさぁ、私と付き合い始めてからどんどん変態化していってない?」 「あやせの前だといつもこんな感じだ。前にベッドに潜り込んだこともあるぜ」 「浮気を堂々とバラしてんじゃないわよ!」 「狭いんですけど、あとうざいんですけど」 「そうだな」 俺達は二人で湯船に浸かっていた。 流石に背中合わせや向かい座りはスペース的にキツイので俺の脚の間に桐乃が座る感じだ。 「ったく。こんな変態兄貴持ったあたしが可哀想」 「へいへい。変態兄貴ですいませんね」 「更にこれであたしの彼氏なんだから泣けてくるわ」 こいつから俺を彼氏呼ばわりするのは珍しい。 「変態じゃなくても兄妹だから友達に自慢できないけどな」 ボソりと呟く。 しかし胸にいる桐乃には当然聞こえていたようで、途端に不機嫌そうなオーラが漂ってきた。 「あんたは友達に自慢したいわけ?」 「あぁ? 余裕で今でも自慢してるっつうの舐めんな。可愛い妹ですってな 友達に自慢してたらドン引きされてんよ」 「んなっ、ただのキモいシスコンじゃん!」 妹が彼女ですとはいえないので妹自慢になっているがまあこれなら良いだろう。 赤城とキャラが被ると周りに言われ始めたが。 「それに俺は自慢したいからお前と付き合ってんじゃねえよ」 正直彼女自慢したい気持ちもあるが、そんな俗っぽい気持ちは所詮上っ面部分だけである。 俺の本心は更に別のところにある。 「お前が好きで好きでたまらないから付き合ってんだ」 それが本心である。 ってか俺かっこいいこと言った気がする。 「あっそ」 斬って捨てられた。 流石に傷ついた。 凹んでいると何やら胸にサラサラした感触がする。 どうやら桐乃がもたれかかってきたらしいが。 「兄貴、カップルっぽいことしよっか」 「よしきた」 「だから反応速くてキモイのよ」 そんなことを言われてもな。 俺としてはこの状況下でカップルっぽいことが楽しみなんだが。 「えっと・・・・・・んじゃ目閉じてよ」 「ん、これでいいか?」 言われたとおりにする。 すると胸の桐乃の感触が消えて、次に唇に柔らかい感触が来る。 これは間違いなく、キスだ。 「んん・・・・・・―――兄貴ぃ」 結構熱烈なキスである。 軽いキスなら回数をこなしてはいるが、今日のは特別だ。 なんというか、状況が状況なので俺のリヴァイアサンが反応しそうになる。 ちゅっちゅと、艶かしい音がバスルームの響く。 今日の桐乃は積極的なのか徐々に舌も使い始めている。 柔らかい桐乃の舌が俺の口に割って入って俺の口内を隅々まで味わっている。 舌と舌を合わせる回数が増えるたびに次第に風呂場に響く音も粘性をましてきて、 まずい。 「っぷは! すまん桐乃離れるんだ!」 流石に海綿体が膨らんできたため慌てて肩をつかんで引き離した。 が、それがいけなかった。 俺は桐乃と俺の唇に繋がった唾液の糸を見て思い切り興奮してしまった。 そして露骨に俺の水着を尖らせていて、『はじめましてだなぁ!』と仰っている憎いこいつに桐乃が気づかないはずもなく。 「兄貴、これ・・・・・・」 桐乃はじーっと見つめてきた。ごまかせない。 救いなのは湯に浸かっているから形がぼやけている所だが。 やはりいたたまれない。 「あのさ、兄貴」 「な、なんだ」 「――――する?」 自慢じゃないが俺と桐乃は未だセックスたるものをした事がない。 そしてエロゲならセックスするであろうシチュエーションも今までに何度もあった。 そして桐乃はその度に俺に身体を預けようとしてくれている。 ・・・・・・しかし。 「だめだ」 「・・・・・・そっか」 俺は一度もその欲求に流された事はなかった。 無論俺の息子は限界まで高度と硬度を増している。収まりつかない所までだ。 「やっぱり兄妹だから怖い?」 桐乃は泣きそうな顔をして俺に聞く。 が、断った理由はちゃんとあった。 「違う、大好きだ。だからこそ今お前とそういうことをしたらいけねえだろ」 俺は桐乃の事を兄としても男としてもベタ惚れだ。 だからこそこいつを悲しませたくない。 「今お前としても、俺には責任をとることが出来ない」 所詮俺は高校三年生。桐乃に至ってはまだ中学生だ。 当然俺一人でこいつを養ってやれる甲斐性はまだない。 そして俺達は兄妹だ、この関係がいつ親にばれて勘当されるかわかったもんじゃない。 「俺が一人前になって、親父達に勘当されても一緒にいられるようになったらな 絶対にお前を泣かせるような真似はしたくねえんだ」 もしばれても俺達がそういう事をしていなかったら最悪桐乃だけは勘当されないですむ。 親父は桐乃には何だかんだであまいからな。 だが俺の考えが桐乃には大層気に入らなかったらしい。 目の前にはムスっとした顔がある。 「かっこつけちゃって」 「たまには格好つけてみたかったんだ」 桐乃は途端に満面の笑みになって 「ずっと前からカッコいいわよ、バカ」 抱きついてきた。 ただ、このままかっこよく終れるわけもなく。 「兄貴、何かあたってる。言ってる事と合致してないじゃんダサっ」 当然だ、据え膳を前にして断ったんだぞ。 それも大好物を断ったようなもんなんだぞ。 これで相手が妹という設定じゃなかったら今頃致していた所だ。 「すいませんね。妹に欲情するような変態兄貴でよ」 こればっかりはどうしようもない。 だが桐乃は何か閃いたらしく、嬉々とした顔で俺に提案してきた。 「口でするなら兄貴のルールにも反しない?」 一拍間をおいて考える。 「反しません」 こってり絞られた。 その夜、桐乃は抱き枕を抱えてベッドの上でツイストしていた。 「何これマジで幸せすぎるんだけど! キモっ、あたしにデレデレする兄貴マジキモっ! 兄貴ったらなに妹に欲情してんのドン引きするんですけど! 人間として以前に細胞から狂ってるんじゃない? ミトコンドリアからぶっ壊れてるんじゃない? けどまああたしったら魅力的すぎるし、男としては間違っていないけど。 だけど普通の妹だったら絶対に地味メンなあんたなんか見向きもしないし、あたしが超優しいからしかたなーく付き合ってるわけで。 やっぱ無し、仕方なくない。あたしもあんたのルックスとか別に嫌いじゃないし? 実は着飾ったらあんたイケメンかもとか思ってるけど。声だってイケメン声だし。 でもそれいったら調子乗ってうざいから仕方なく言わないでおいてるだけだし。 あぁぁぁああぁぁん! シスコン地味メン兄貴まじきもおぉぉぉおい! さいこおおぉぉぉぉ! 今日とか殆ど愛の告白じゃん、将来の近いたててんじゃん! エンゲージフラグじゃん! 婚約指輪ないけど殆ど婚約関係じゃんあたし達、うざっ! マジうざっ! あたし兄専用じゃん! あたしの貞操予約した兄貴まじ変態! でもあたし予約日守っちゃう! konozamaなんてしない! 妹の初体験のマスターアップ完了だけど発売日までまだ先! 妹の初夜を予約するとかもうシスターコンプレックスをコンプリートしてんじゃんシスターコンプリートじゃん! でもやっぱり呼び方シスコンじゃんキモイ! 兄貴にコンプされちゃった! 兄貴大好き!」
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/666.html
369 名前: ◆36m41V4qpU [sage] 投稿日: 2013/04/16(火) 俺の妹である桐乃がエロアニメのDVDを偶然落っことしたのが、 俺が経験した一連の物語が始まるキッカケだった。 あれから俺の人生、エロアニメやらエロゲー抜きには語れない っつっても 過言じゃない(のかも知れない) そう―――今の俺がこんな風に存在するのも (幾分大げさな言い方を許して貰えるなら) エロゲーやらアニメとは切っても切れないと思うのだ。 それは、妹やヲタ関係で知り合った仲間だけの話ではない。 俺の彼女『あやせ』とも少なからず 『エロアニメ・ゲーム』には因縁めいたモノ を感じざるを得ないのだ。 何故なら、俺とあやせの関係を確実に変化させたキッカケは やっぱり『エロアニメ・ゲーム』だったから。 あのコミケの時に偶然出会わなければ、今の俺らは居なかったと思う。 そして、その影響は今も……………… 「この浮気者っ!!!!」 「いやだからな、あやせたん―――俺の話をちょっと聞いてくれ」 「問答無用っ! わ、わたしの身体を弄んだ癖にっ! あ、あんなコトや―――そ、そんなコトまでさせてた癖にッ! こんな身体にした癖に――こんなわ・た・し・させた癖にぃい!!!」 「いや――いや、あやせ自身心と身体は歓喜してた………よ?結構」 「強姦は親告罪 強姦は親告罪 強姦は親告罪(15回連続)」 「ま、待て 待て!だからご、合意の上だっただろ?」 「た、例え………法には問えなくたって、 あなたを社会的に抹殺することは出来るンですからっ!」 「ちょっとだから話を聞け」 俺はあやせに首に装備されている ―――例の"チョーカー"に指を触れると、更に軽く引っ張った。 「わ、わたしがドMだから、また強引にお尻叩いて言いなりにさせるのね どうせ、またいじわるするんだ――性的虐待するつもりなんだ、へ、変態!」 なんつー恐ろしい台詞を言う様になったんだ、俺の彼女は としかし罵詈雑言を爆発させてるのに ―――あやせはチョーカーを自分で外す いい加減、俺も気付き始める(と言うか流石に色々学んだ) 例えば―――俺らみたいに彼氏彼女が喧嘩し始めるとする。 そういう時は(主に)女の子の方から、仲直りのキッカケになる 分かり易いサインらしき"何か"を出してるもんなのだ。 それをスルーしなきゃ、大事にはならない。 「んじゃ――ご希望通りぶっ叩くから、こっちに来いよ」 「ふんっ、す、好きにすればイイじゃない ――わたしに拒否権なんて無いんでしょ!」 あの日(あれから結構時間が経ったと思うが)から、 あやせは時々敬語をやめて、俺とタメ口で話す様になった で、ついでに――― 「京介のサディスト、DV男、リョナ族、本物の鬼畜」 ―――みたく俺のコトを『京介』って呼び捨てにするようになった。 こういう状況じゃなきゃ、あやせの言葉の響きに浸って居られるのだが、 今は流石にそういう場合ではない。 あやせは俺を罵倒しながら、(その言葉に大いに矛盾して)行動では 俺の膝の上に自ら乗っかった。 しかもご丁寧な事に わざわざ俺があやせの尻を叩きやすい様に もしくは、これ見よがしに自分の形の良い尻を思いっきり突き出す。 でも俺はもちろん叩いたりはしない(一回ゆっくり撫でたけど) そのままあやせを―――俺の太ももに、乗せたまま起きあがらせて あやせの黒髪を、左右・両方・横から・優しく撫でてやった。 ―――これが俺の彼女の最近のお気に入りらしい (エッチモードが発動する時は、大抵このパターンからの始動が多い) そして俺はこの状況であやせの目を、しっかり見つめて話し始める 「ゲームはゲーム、現実は現実だぞ? 全く別モノなんだから、ごっちゃにするなよな。 現実の彼女が、二次のゲームにそんなに目くじら立てないでくれよ?」 「普通のゲームならまだ許せるけど――認められるけど だからって、何でエッチなゲームを わたしが認めなくちゃ、いけない(んです)のよッ?!!」 説明しよう――― 『もっとっ ラブ×2★ラブタッチ』 俺らが喧嘩する元凶になったゲームソフト 前回の『ラブタッチ』から満を持して発売されたのだが、続編で まさかの全年齢版から、敢えて成人指定版へパワーアップしたのが 『もっとっ ラブ×2★ラブタッチ』なのである。 ―――俺は例によって桐乃のお勧めでプレイしようしていた のだが……………… それはさておき、本当に中の人(声)が同じだったら、 俺だって絶対に買うと思うほど、前のソフトに俺はハマった。 確か前は、桐乃とあやせを仲直りさせようとしていたが 今は俺の彼女あやせたんが、烈火の如くプリプリ怒ってるわけだ 「なぁ………あやせたんさァ あんまし嫉妬深いってのも、彼氏から言わせて貰うと 彼女としてどうかと思うんだけどな」 「ふんっ!(プイ)」 あやせが思いっきり右に顔を逸らしたので、 また両サイドの髪を撫でて、正面に視線を合わせようとすると――― 「べー(ぷい)」 ―――舌を出して、今度は左を向いて避けられた。 「あのね、ゲームやアニメは俺の妹や俺の友達との大切な絆なんだ。 あやせも知ってるだろうけど、俺は親父と殴り合っても認めさせたんだぜ? だから全部が――全部、いかがわしいモノじゃねぇんだ。 も、もちろん、別におまえも好きになれとは言わないけどさ」 「…………」 「それに自慢じゃねぇが、桐乃に勧められてやったゲームやアニメを オカズにソロプレイなんてしたことはないぞ! ジャパニメーションはもっと高貴で神聖、セレスティアルでディグニティなんだ。 エロゲーとアニメは文化なんだ――ミームなんだよ、あやせ」 俺は声を大にして言った。 なぜならば、この点が曖昧だったり少しでも疑われたりすれば ―――どう考えても、問題が解決する可能性は一㍉も残らないからだ。 「何をカッコつけてるンです? 京介さ(ん)のオカズは、眼鏡・巨乳のエッチなDVDと本だっただけでしょう」 「だから………約束通り処分しただろ?」 「………」 「俺が約束破って、エロDVDやネットのエロサイトを閲覧してたか?」 大学生にもなって自分のパソコンを フィルタリングされている男 一人暮らしの部屋のベットの下の 段ボールには何も入ってない男 俺の名は――高坂京介 「そ、それは………そうだけど」 俺の説得がどうやら功を奏したらしい。 そりゃそうだろう ―――あやせは自分でドMで俺の良いなりと言った。 でもそれを言うなら、俺も負けず劣らずあやせの言いなりなんだ。 俺らのS気とM気ってお互いに多分、絶妙に方向が違うだけなんだな。 (だからきっと相性が良くて上手く行く(と俺は信じてる)) 「だったら良いよな?」 「もうっ………か、勝手にすればいいよっ!」 「ありがとう、あやせたん」 あやせの気が変わらない内に、さっさと電源オン 「ぐ………うぅうぅぅ」 「おまえ、なんつー顔してるんだよ?!」 「………………イヤ、イヤ、イ ヤ」 「あの………?」 「わたしのコトは気にしないで、好きにやってっ!」 好きにやれと言われてるのに、 あやせのもの凄い握力に掌握されて、俺の手は指一本動かせなかった。 「な、何で5秒間隔で、気分変えるんだよ? つーか、言ってることとやってることが―――」 「―――わ、わかりました。もう分かったって言ってるでしょ!」 「さーて、じゃぁ誰にしようかな」 『誰を選びますか?』 誰にするかとは、まず最初に誰に話しかけるか………だ 今回はバージョンアップしてキャラも増えていた。 絶対ヒロイン 黒髪の美少女 『藤崎あやか』 その双子の妹 茶髪の美少女 『藤崎きりか』 ナイスボディ ショートの綺麗なお姉さん 『田宮まみな』 深淵の果てからの使者 謎の美少女 『極聖天のルイ』 「………う~ん こりゃ可愛い子ばっかで、マジ誰にするか迷うぜ」 こういうのって最初が肝心だからな 第一印象って大切なんだ 本当に――本当に、第一印象って大切なんだぜ? 「……………………………………………………………… ……………………………………………………………… ………………………………やっぱりぃイヤャァアァ!」 「―――ゲホ」 背後から側頭部に肘打ちと手刀の二連撃を喰らって ダウンした所に、後頭部を踏み砕かれて俺は卒倒した。 「あっ、あいつゲーム持って行きやがった」 つーか、ゲームの女の子と一言も口聞いてないよ?俺 何となく桐乃の気分が分かった気がする俺だった。 それでも桐乃相手だと多少は遠慮してたあやせが俺が相手だと ○グネスばりに検閲が厳しい。 しっかし………ま~たこのパターンかよ。 これからどうしたもんか……な 三日後 メールしても電話しても返事が無く音信不通 心配になってあやせの実家まで行ったが、 美人のママさんと怖いお父さんに色々言われたが(別れろとかはでない) 結局、本人には会えずじまい あやせたん――――最近はあんま嫉妬しないと思ってたんだがな どうやって彼女の機嫌を直すか? を考えながら、大学から帰宅して、自分の部屋のドアを開けると――― ベットの上に、ちょこんとあやせたんが鎮座してた。 ―――うぉ、ビックリした 「あの……………あやせさん? まだ怒ってたりなんかしちゃったり……なんかしたりなんかしたりする? 俺は謝ろうと思って、何度か連絡してたんだけどさ」 俺は幾分用心しながら、あやせに訊いた。 あやせは、首を振った。 ―――あれ? 結構ニコニコしてるぞ 「この前はごめんなさい。ねっ? わたしの方こそ大人気なかったから、ホントにごめんなさい」 「いやいや、良いんだよ」 何も事件やらハプニングが起きずにコトが収まって良かったと 俺は思ったのだが――― 「だから、今日は京介に自由にゲームして欲しいと思ってるの、わたし」 「う、うん?」 ………何か物分かりが良すぎて怖い。 非常事態に用心しながら、俺はあやせの出方を見ようとする ―――っ!!! あやせがおもむろに鞄から取り出したのは、 包丁――などでは無く (最近はそんな恐怖は感じてないから、俺っビビらなかったもんね!) で取り出したのは ―――フリップボード?? クイズ番組とかで、解答する時に出すみたいなヤツだった。 「なに………それ?」 意味が分からん 「はい………ゲームスタートだぞ♪」 あやせたんは手書きで 『もっとっ ラブ×2★ラブタッチ』 の"タイトル画面"を描いていた 何だ、この手作り感バリバリ満載の ――何か本物買って貰えないウチの子が親から手作りで作って 貰った みたいな悲壮感があるゲームは?! 「あやせ………どういうことなの?」 次のフリップを掲げるあやせ 『誰を選びますか?』 『 黒髪の少女 あやか 双子の妹 きりか ショートのお姉さん まみな 謎の少女 ルイ 』 「何………これ?」 フリップを改めて強調する俺の彼女 『『誰にしますか?』』 「んじゃ……"まみな"でお願い」 再び、何故かフリップを掲げる俺の彼女 『『誰にしますか?』』 「いや、だからまみな………で」 「……………………………………………… ………………………………………………… 誰にしま―――誰にする?京介(きょ・う・す・け・)♪」」 「おいおい、口で言っちゃってるじゃん! だから―――巨乳のまみ……」 「―――わかりました…もうぉわかったっ!!! わたし、ちょっと豊胸施術してきますからっ! 髪切って、眼鏡かけてきますからっ、それまで待っててくれる?! 少しだけ 待・って・て・貰・え・ま・す・か・?!!!」 「うっ、うそ、ウソ、嘘―――お、俺はあやかオンリー厨だぜ!」 何、このゲーム こわーい 「オッス あやせだよ♪」 暫く気を取り直す時間を取ってから あやせが元気よく言った。 「え? あやせなの?」 「え? あ、ああ………オッス あやかだよ♪」 「いや、おまえは どう考えても、あやせたんだろ?」 「だっ、だから………わ、わたしがキャラになってあげます ゲームの内容自体は、ちゃんと頭に叩き込んできたからっ 大丈夫だよ、てへ♪」 「へ?」 「わたしでゲームをシミレーションすれば、 桐乃達と会話する時も話題は完璧だぞ、エヘン♪」 『藤崎あやか』のデフォルトの絵である 例の敬礼みたいな決めポーズであやせは言った。 「あ?あ、ああ そ、そうだね……あ、安心だ……たしかに安心……か?」 「何ですっ?そ、その冷たい目はッ?!」 「い、いえ別に………それで俺はどうすれば?」 「で、では、さっそく告白の場面からやりましょう♪」 またフリップボードを掲げるあやせ 『わたしに好きって言いなさい』 「俺……あやせが好きだよ (俺の口が、この言葉の並びに馴れきって、もはやこの名前しか出てこない)」 『好き』と『あやせ』が対の枕詞の関係になるほど 俺はこの言葉を言ってたのか――と俺はこの時改めて気付いた。 「え?………うんっ! わたしも京介が 好き――好き、大ァ好きぃっ!」 結果 あやせに―――息がつまるほど抱きつかれました。 「な、何だ?………これ おいおい、もはやゲーム関係ないぞ」 「――はっ?あっ!ああ ちょ、ちょっと気分が上がったから、えっと………気を取り直して」 「やっぱさ、普通にゲームはゲームで割り切った方が―――」 「―――う、うるさい! わたし………ちゃんと考えてきてるンだからっ! 本当に――本当に凄い、"取っておき"を考えてるんだからっ! 二次元のゲームなんかより凄いんだから………黙ってプレイする!」 「まぁ………おまえがそう言うなら」 色々アレだけど、確かに一生懸命さは伝わる。 あやせはまた鞄から何か取り出す 「はい、これ!」 「なに、これ?」 だって………ペンを渡されても 「ふふっ♪ どうぞ、触ってくだ――さぁ、お触りなさい、遠慮なく!」 あやせは魅惑的な顔で、 肢体と胸を―――さっきの決めポーズから更に強調しながら言った。 「へ?」 『ラブ・タッチ・パネル』とフリップボード それでも流石に、俺が躊躇していると 「ねぇ~早くし・て・?」 強引に俺が握っているペンを、 あやせのグロスでぷっくりとした柔らかい唇に 無理矢理当てさせられる。 「お、おう!分かった」 彼女がここまでやってるのに ノリが悪くて雰囲気をぶち壊したら情けないもんな ってコトで俺は腹を決めると、心眼を捉えるかの如く目標を 一気に突く そうだ、俺は狼だ 血に飢えた狼なんだ 狼の牙が―――俺の『牙突』が炸裂する! 「ポチっとな―――」 「―――あっ、あん♪ ってぇ………な、何でいきなり、おっぱいな………の!?」 「いや、だってこういうのでは基本プレイだから」 「ちょっとぉ………良いですか、ねぇイイかな? 京介がそんな童貞くさい行動ばっかりを取ってると、 ゲームでも―――リアルでも女の子に引かれちゃう………よ?」 『惹かれる?』 フリップボードに、ちょうど握ってるペンを走らせ書いてみる 「イヤイヤ………字が違うし」 「まぁ、何にせよリアルの彼女はおまえだから、な? それは別に違わないよな?」 「ふーん?そっかァそうなんだぁ ………ふふ、うんっ!それは間違ってない」 笑ってはる―――笑ってはるわ まっ、リアルの彼女の好感度は高いに越したことはねぇけど 「ま、まずはキスの場面からや、やってみま(しょ)――やってみて?♪」 「うん……わ、わかった」 「ペンで撫でて、お、女の子をその気にさせるんで(す)―――させて?」 「へいへい………あー可愛い、可愛いな」 何か―――もはやこれはコントだよな だって………ちょっと想像してみて欲しい どう考えたって、笑いを堪えるのに必死になるだろう、コレ 「全然(ぜ・ん・ぜ・んっ・)気持ちが入ってないじゃないですか!!!! どうしたんですか!!!!?」 「いや、でもゲームだから言えると言うか 目の前に、生身の彼女居るのに、ペンでなで回してもギャグと言うか」 「はっ? そんな舐めた気分で、適当にプレイするなら よくもゲームが絆とか文化だなんて言えましたね!!!」 「わかったよ! その代わし、後でどうなっても俺は知らねぇぞ?」 「アハハ……そんな拙いペン捌きで、心配するなんて凄く滑稽だと思う 反対のコトを懸念した方がイイんじゃないの………かな?ボク♪」 魅惑的にいやらしく、そして俺のプライドを嘲笑 ―――二重の意味で、挑発された俺は おまえの弱いところは大体知ってるだぞ的な 俺のペン捌きであやせを責め始める。 「っ………た、大したコト………はぅ………あん……っ…な……ない ん?(ビクっ)あっ……ゃ……んっ………全然たいし……あっあん♪」 本当に簡単に拍子抜けする。 あやせの身体は、ペンが触れば何処でも ―――否、触らないでかざすだけでも ―――否、かざさずにペンをずっと止めたままでさえ ―――否、もはやペンの存在――不在に何の関係なく 感じるようだった。 「え、エッチぃ………同じ………所ばっかり………でも………イイっ してぇ………でもぉ………しなくてっ………も………イイっ……っ」 没★・入★・感★・ 「な……なんでも………し……てイイ……きょうなら…何でもイイのおぉ」 ―――我忘れて一気にプレイ感覚の様相を呈してくる 俺が一心不乱にペンを振り回していると ………あやせたん、何故か服を脱ぎ始めた 「えっ?」 「これはエッチな……ゲームだからァ…わたし………脱ぐの…ほら……ねっ♪」 一糸まとわぬ姿 まさに天衣無縫―――本当に天使か天女かと見まごう ―――でも 普段の清廉な表情は媚態に満ち、上品な顔は涎まで垂らし 何処までも透き通った白い肌は、夕陽の様に紅く――赤く高揚し 長い手足は、だらしなく意思を失ったように脱力し 普段は姿勢のよい美しい身体も、不意に痙攣し始めて 俺が執拗にペンでなで回すと 「っ………あっ………ひっ…あん……あ………アァ……あぅ」 一目で興奮と熱の源のような大きく張った胸をこれ見よがしに、 不自然なほど俺に強調し――触れられること(触れられないこと)期待して 激しく貪欲に求め 「もっと………して………いじわる………し………て……」 魅惑する様にくびれた腰をくねらせて 誘惑する様に例の如く臀部をフリフリさせて 「ほらっ………ほらァ………ココっ……にぃ……欲し…ぃ……してして?」 あやせは解放的に嬉々として、全てを露わに 俺が思わず躊躇うほど、全てをさらけだした 何か普段より―――すげぇエロい つーか、普通に触りたい………んだが ――――――このゲーム、メチャクチャ凄かった と思ってたら 流石は、最強に気が合う理想的なカップル?の俺らである 「ねぇ、京介………ペンじゃなくて、普通にして………くれ…ない……の?」 そう言われたら、俺はペンと理性は明後日に放り投げるしかない でも、いざ触ろうとしたら―――止められる あやせたん ―――ついに焦らしプレイをも完全にラーニングしてしまったのかよ! 最期のフリップボード 『京介くんと結婚したいな』 「おっ、おう………………け、結婚しよう」 「声が小さい!! もっと心を込めてっ!」 「あ・や・せ・結婚しよう!!!!」 「うん………早くしよう♪」 ―――で 普通にベットに行って 「あっ♪…きょう好き………もっとしてぇ………あっ……ぁ…あん」 「あやせ………たん…あやせ………お、俺………もう………イキそう」 「ダメっ………もし先に…イったら………後、三回………追加……」 「が、我慢………しま…い?―――あっ、あやせ………おまえぇ?」 「ふっ♪………やっぱり………ダ~メ………五回に追加…… ………あっ…ん……させる……からっ……それまではダメぇ……… わたしぃ……ゲイムクリア……させなっ………いから……許さな…い ………ずっとっ………ずっと………一緒………もう終わらせな……いっ」 結局、普通に(普段より何倍も萌え(燃え)気味に)やった(やられた) 「ったく、何だよ! ゲームがもはや関係なくなってるじゃねぇか!結局」 「じ、自分が一番楽しんでた………癖に」 「そりゃ、そうだろうよ おまえに誘惑されたら全自動発情システムは起動するさ でもこれだと、いつもの俺らじゃん?」 でも俺らの夜の関係って、立場がまた――また再々逆転しちゃってるな。 別に良いのだが ―――つーか、俺らカップル もう後戻り出来ないだろうなぁ (別に全然良いけどさ) 「うぅぅ………だ、だけどやっぱり、他の女の子を 京介には見せたくないもん、ぜ、絶対に見せたくないのっ!」 俺はこいつの強情さに ―――少し感動して、同時に胸がほっこりしちまった。 この期に及んで、まだ俺がゲームする事に納得出来ないって 俺はあやせにどれだけ、深く思われてるのだろう? でも―――今はこの思いに浸ってる場合じゃないな。 「俺、ちょっと思ったんだが 今のあやせたんだと……… 俺の――俺らの子供が何となく気の毒になるぜ 特に子供が男の子の場合だけど」 「…………な、何を意味不明な話をして ――はっ!え?」 「あやせたん、絶対に最高のママァンになると思うんだがなぁ」 「べ、べ、別にそんなコト言われても嬉しくなんて」 「嬉しくないのか、じゃぁ―――さっきの話はなし」 「ふっふん! こ、こ、今回だけですよ 今回は………しょ、しょうがありません わたしが監視してる時に限り、許してあ・げ・る・」 やっと俺は(ゲームの?――じゃなくてリアルのゲームの) 『もっとっ ラブ×2★ラブタッチ』のゲーム画面の女の子と 会話することが出来た(挨拶だけど) もちろん、あやかちゃんオンリー あやかちゃんの好感度だけが異常に上がるわ――上がる ベットの上で、あやせを膝に乗せたまま後ろから抱っこして 真剣に俺がプレイしてると 『えー?何で常にデートで植物園なんです??』 『あ~ダメ、あやかちゃんが可哀相!』 『あー女心全く分かってない、理解してないっ こ、これだから終身名誉童貞の京介くんは本当に、もうっ』 『まったくぅ、どんだけ女心に無頓着なンです?あなたって』 結構な機嫌の悪さでダメ出しの連続攻撃 『あーあ、わたしってやっぱりぃ甘やかし過ぎちゃってる? だから、ダメ男にさせちゃってるの………かな? でも――でも、コレってこれちょっとだけ参考になるかも? ふふん♪』 相変わらずの猛毒舌のあやせたんだったが 「あー、もう見てられない。わたしにもちょっとやらせてっ!」 その後は、やっと(あやせが主にプレイだから) 他のキャラと話すのも許可されましたとさ 「え??……キャー、す、凄い………エッチです、これ」 「お、おう、何か色々ヤバイな」 「えっ?えぇぇ? な、何であやかちゃんが違う男の人に――あっ!!!」 「あやせたん……ちょおま、何を――何を選んだ?!」 あやかちゃんヤンデレNTRルートになってたよ(汗) そうやって、途中から俺ら二人で キャッキャ言いながら 結構楽しんでゲームした。 俺はしみじみ思った 妹とエロゲーするのは、悪くない 女友達とエロゲーするのも、悪くない そして彼女とエロゲーするのだって、案外悪くない? ちょっとくらいなら ―――こういう話題も時々だったらイイのかもな、きっと まっ! わざわざ あやせがコミケ行ったり、何かしらのコスプレとかして 欲しい願望なんて一㍉も無いのだ。 あやせにディープなヲタになられても、俺的には対応に苦慮して 困るだけだろう。 最初に出会った時 お嬢様の美少女 桐乃のヲタバレで ヤンデレの暴力女 付き合う様になって 健気で優しい(かなり)エッチな彼女 今は ??? あやせは色々変わったけど、変わらない部分ももちろんある。 尻をぶっ叩いて、ペンであやせの身体中を弄くり回してる 俺が偉そうに言うのは滑稽だけど ―――――あやせには、自然なあやせのままで居て欲しい。 物分かりがもの凄く悪く我が侭なあやせたんでも、 俺は大好きなんだからさ。 一通り『もっとっ ラブ×2★ラブタッチ』を終えると 俺の膝の上で、あやせたんがプルプルと身を震わせて、 俺に猛獣の如く襲いかかった。 「な、なんで結果が、きりかと結婚エンドになってるんですかっ?! こ、この浮気者っ!」 パチン!(最大撃ビンタ) 「痛ってぇだろ、あやせたん 理由なら簡単だろ? それは、おまえが――― ………」 俺には、このフラグがちゃんと見えたから――― 『……… ―――『きりか』にばっか話かけてるからだろ?!』 と言うとしたが ―――結局、最期まで言うのは辞める 「ねぇ、京介―――わたしの好感度、 あなたの選択で、だだ下がりだけど一体どうするつ・も・り・?」 と手に握っていた『もっとっ ラブ×2★ラブタッチ』本体を放り投げて 俺の膝の上で、身体の向きを背中から俺の正面に向き直して 下から見上(下げ)げて―――甘える(恫喝する)ように言った。 「あやせたんのご機嫌が早く直るように、 出来るだけハードに、俺があやせさんに"ラブタッチ"させて 頂きます!」 と男らしく?宣言しては みたものの……… この好感度のパラメーターなら、 かなり簡単に上がるのを、俺はすでに知っている。 タイトル 信じて待った俺のあやせたんが携帯美少女ゲーム(本人役)に ドハマリしてしまい、逆セクハラしてくるようになるのは 往々にしてよくあること おわり